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3443通信 No.380

 

耳のお話シリーズ59
「あなたの耳は大丈夫?」37
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~

図00a 図00b


 私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授)です。
 その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。


環境騒音を減らす工夫
▼孫の授業参観に行ってみたら……
 孫やひ孫の学校の授業参観に、親をさしおいても出かけようとするほど積極的なお年寄りの耳からは、老化も退散してしまうにちがいありません。
 しかし、聴力のおとろえは確実にあるものです。仮に祖父母参観日が設定されたとしたらどうなるか、考えてみましょう。
 小学校のうるささは抜群です。逆に、一日中静かな小学校など、活気がなくてつまらないでしょう。
 下の図は、ある都会の小学校の1年生の国語の授業を教室の中央付近で録音し、騒音を分析したものです。子どもの発言や先生の話、通りの救急車のサイレンなどを除いて、普段の教室に漂っている雑音だけをみました(図51)。

図51 P.118
 図51


 同じ図の中に、先生の声のレベルも載せてみました。これは、先生から1メートルほど離れた座席で録音したものです。
 教室の雑音のレベルと先生の声のレベルを比較してみると、たった1メートルしか離れていないいちばん前の座席で、やっと先生の声のレベルが教室内の雑音のレベルと同じであることがわかります。
 教室の後ろの位置ならもっとS/N比が悪いはずで、先生の声よりも雑音のほうが大きいわけです。耳の遠い祖父母にとっては、いちばん前の席に行かなければ、先生の話していることが聞こえないでしょう。


▼教室でもっともうるさい音
 教室のうるささは、ここで測ったような普段漂っている雑音だけではありません。もっともうるさい雑音は、子どもたちが頻繁に椅子を引く音と、「はーい、はーい」といっせいに声を上げるときの音です。
 これらは、ときには90デシベルを超える大きな音となります。「はーい」を止めることはできませんが、床にカーペットを敷いたり、パイプ椅子の足に干渉具をつけるだけで、驚くほど雑音が減ります。
 同じ状況は、老人学級や講演会の会場でも起こっていると考えられます。大勢のお年寄りが利用する部屋には、カーペットが敷かれ、吸音性に配慮した壁や天井とカーテンが必要です。
 難聴者にとって聞こえのよい環境や会場を作るためには、聞き取りにくさにいっそう拍車をかける室内の騒音と反響を取り除くことを配慮した設計が求められます。


【コラム】耳はいつ休むのか
●耳は眠らない
 目は、眠ってしまえば機能を停止して、休むことができます。しかし、耳は四六時中その機能を働かせています。その証拠に、寝ているときに大きな物音がしたり名前を呼ばれたりすれば、目が覚めることがあるでしょう。
 眠ると耳の機能が休むとしたら、身に危険が迫ったとき、物音に気がついてそれを回避することができません。火事や地震が起こっても、眠ったままということも考えられます。


●聞きたくない音は聞かない
 しかし、働きっぱなしでは耳だって疲れてしまいます。どこかで休息をとらなくてはなりません。ここで思い出してほしいのが、人間には選択的聴取の能力があることです。音の洪水の中でも、聞きたい音、必要な音だけを選んで聞くというのは、逆にいえばいえない音は聞かずに切り捨てるということになります。
 聞きたくない音を聞かないことで、耳は休んでいます。都合の悪い話は聞かないという、都合のいい耳のしくみが、耳に休息をとらせているのです。


●耳を休めるには
 では、意識的に耳を休めてやるには、どんな方法があるのでしょうか。まず、まわりから入ってくる音をなるべく減らすことです。大きな音を聞き続けるのは聴覚低下の引き金になりますから、耳栓を使うのもよいでしょう。
 聞きたくない音を聞くのも、なるべく避けましょう。聴力の消耗度は精神的なものにも左右されます。かつてディスコ難聴というのが話題になりましたが、同じ大音量で聞いていても音楽を楽しんでいる人は難聴になりにくく、難聴になるのはナンパや飲食が目的の人のようです。
 ノイズではなく聞きたい音として受けとめれば、大音響も耳を疲れさせたりしないのです。



【前話】「あなたの耳は大丈夫?」36

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