耳の遠い方へ
1.耳が遠いということ
はじめにことばありき。
聖書に出てくる有名な文言です。
人間は聴力を介して音声を情報として受け取り、思考を経てその内容を理解し、意味のこもった発話を行ないます。それがつまり会話で、人間同士のコミュニケーションの重要な手段です。
けれども聞こえが十分に機能していない場合には、音声を完全に理解することができず概念化できないために、思考力を発揮することができません。
なぜなら人間は概念を一度は言語に託して抽象化し、それを媒体として思考を進めるからなのです。
聞こえの悪い方つまり難聴のある人は、ただ単に聞こえないというだけでなく、その方の頭脳を存分に駆使できないハンディを負うことになります。
そんな意味から、耳や聞こえのシステムそして聞こえが悪くなる耳の病気について、ここでは解説を加えることにします。
2.耳の構造と聞こえの検査
耳には2つの機能と、そのための構造があります。音を感じる蝸牛(かぎゅう)とめまいを感じる三半規管(さんはんきかん)ならびに耳石器(じせきき)です(図1)。
めまいにおける耳の機能と構造については、医学コミック6巻「さつきさんの憂鬱」に記しましたので、ここでは聴覚に関する機能・構造について触れます。
図1
音は、空気の振動である音波として耳に届きます。
人間の耳には耳介(じかい/耳たぶ)があって、ウサギほどではないものの、集音器の役割を果たしています。
集められた音波は外耳道(耳の穴)を通って鼓膜を揺り動かします。鼓膜はその内外の気圧が等しい場合には良く振動し、音波を中耳に伝えます。
鼓膜内外の気圧調整には耳管と称する、のどの奥と中耳腔(鼓膜の内側のスペース)とを結んでいる管が関わっています。
鼓膜の物理的振動は耳小骨と呼ばれる3つの、人体最小の骨によって内耳へ伝えられます。内耳はこの耳小骨の物理的振動を、内耳リンパ液の振動として受け取ります。
蝸牛と呼ばれる音の感知器官は本能にカタツムリの形をしていて、その中に位置する基底板という膜の上に、音を感じ取る神経細胞(有毛細胞)が乗っています(図2)。この有毛細胞の位置している器官を、らせん器と称します。内耳リンパ液の物理的振動によって基底板が動くと有毛細胞も揺れますが、その際に有毛細胞の中で電気信号が発生します。
図2
つまり音波の物理的エネルギーが、内耳有毛細胞で電気的エネルギーに変換されることになります。
なお蝸牛の基底板はあたかもピアノの鍵盤のような形で位置しており、手前(中耳腔に近い部位)から蝸牛頂へ向かって、基底板が広くなっていきます。ですからピアノの鍵盤と同様、手前の狭い部位が高い音域を、蝸牛頂に近い広い基底板が低い音域を担当することになります。
音波の物理的振動は内耳リンパ液の振動をもたらし、基底板全体が波のように揺り動かされます。鍵盤のように連なっている基底板は、まさに鍵盤のように担当する音域(周波数)が決まっています。そして、ある音程の音波は基底板を手前から奥へ向かって波状に動かしながら、担当周波数の基底板をもっとも大きく振動させるのです。このようにして蝸牛は、特定の周波数の音を感じ分けることができます。
ここで電気エネルギーに変換された音の信号は、内耳道内を通っている聴神経に伝えられます。
聴覚の電気信号は聴神経から脳幹に入り、脳幹から大脳皮質へと送られます。
難聴の性質は、耳のどの部位が悪いかによって異なります。
外耳道から中耳腔そして内耳のリンパ液振動に関わる部位までに病変が存在して聞こえの悪くなる場合、音波の物理的伝導機構(伝音機構)に原因があるため、これを伝音(性)難聴と称します。
また内耳有毛細胞から脳にかけて病変が存在するために聞こえの悪くなった場合、音を感じ取る機構(感音機構)に原因があるため、これを感音(性)難聴と呼びます。
こうした病変部位の診断には聴力検査が行なわれますが、成人に行なわれる純音聴力検査は純音(サインカーブを描く澄んだ音)を聞かせて聞き取れるかどうかを確認します。
幼少児ではこのような純音聴力検査は難しいために、幼児聴力検査と称するいくつかの検査法を行ないます。
また内耳有毛細胞から脳幹そして大脳皮質に至る聴覚伝導路では、電気信号の伝達がなされていますので、それを体外から電位変化として測定することができます。
この電位変化はその発生部位によっていくつかのものが知られており、中でも聴性脳幹反応(ABR)と呼ばれる検査は特に有用です。
これは被験者を傾眠状態において音刺激を耳に与え、脳幹に出現するV波と呼ばれる波形を確認する検査法です。
幼児の聴力検査や意識障害のある時の聴覚障害の有無の診断に使用できる他、聴神経腫瘍や脳幹疾患の診断、そして脳死の判定にも応用できるのです。
(1)聴力検査
聴力は、オージオメーターという機器を用いて測定することができます。ヘッドバンド(受話器)を外耳道入口部に当てて検査音をきいてもらう気導聴力検査と、受話器を耳後部(乳突部)に装着する骨導聴力検査があります(図3)。
気導音は外耳道から入り、鼓膜・耳小骨を経由して内耳に到達しますが、骨導音は受話器から頭蓋骨に伝えられ、外耳や中耳の構造とは無関係に直接内耳に到達します。したがって、外耳や中耳に病変があり気導聴力が低下していても、内耳から大脳の聴中枢に達する経路(感音機構)が正常に働いている場合には、骨導聴力は低下しません。
これに対して、感音機構に障害があると、外耳・中耳に病変がなくても気導聴力、骨導聴力がともに低下します。
図3
詳細は『難聴・早期発見伝 解説「聴力検査」』もご覧下さい。
(2)ティンパノメトリー
難聴の原因や病変部位を的確に証明するため、あるいは障害の程度を把握するために、簡単なものから複雑な手法まで多くの検査法がありますが、その1つにティンパノメトリーというものがあります。
小さな端子を耳に入れるだけのこの検査は、まだ聴力検査が難しい幼小児にも有用です。
ティンパノメトリーは、外耳道内を連続的に陰圧から陽圧まで変化させて、中耳の動きやすさを測定します。これを図示したものがティンパノグラムです。
中耳腔と外耳道の圧が等しいときに鼓膜は最もよく動き、ティンパノグラムは、真ん中にピークのあるきれいな山型を描きます(図4)。
それに対し、滲出性中耳炎などで中耳腔に液体が貯留し、鼓膜の動きが制限されていると、ティンパノグラムは、ピークのない平坦なものであったり(図5)、ピークの位置が真ん中ではなくずれていたりします(図5)。
図4 正常な状態
図5
図6
3.乳児期の難聴
乳児(1歳頃まで)が、音のする方へ首を傾けようとしなかったり、手を叩いても気が付かなかったら耳鼻科医を受診して下さい。
妊娠3ヶ月の頃に母親が風疹にかかると生れつき耳の聞こえない先天性風疹症候群の子どもが生まれることがあります。こうした生まれつきの難聴の子どもは、3歳前に発見しないと言葉の発達に影響が出ます。
それは生まれつきの難聴の子どもでも3歳前に発見して補聴器などを活用してやると、聴覚が正常の子どもたちとほとんど同じ様に言葉を発達させてやることができる可能性もあるからなのです。
もちろん難聴を乳児期に発見できなかったとしても、いつもわが子の状態に気を付けていて、音に対する異常を少しでも早く見つける心掛けは大切です。
4.幼児期の難聴
幼児期(1歳から6歳の頃)の子どもが、テレビの音量を大きくしがち、もしくは後ろから名前を呼んでも返事がないなどの様子が見られたら、難聴を疑って耳鼻咽喉科で診てもらいましょう。
この時期の難聴は、滲出性中耳炎を原因とすることが多く、軽い炎症により中耳腔(鼓膜の内側の小さなスペース)に水みたいな液体が溜まり鼓膜の動きが悪くなる状態です。
急性中耳炎とは異なりズキズキする痛みはありませんが、チクチクとした痛みの生じることがあります。ですが、自覚症状に乏しいことも特徴の一つに挙げられます。
子どもはこれらの症状をうまく言葉で表現できず悪化させ易いので要注意ですし、この滲出性中耳炎は風邪の後に発症することが多いので、子どもの風邪の後は聞こえに注意しましょう。
この年齢の子どもでは聞こえの状態を測定するのは難しいので、大人と同じ聴力検査ではなく幼児聴力検査が行なわれます。
図7はそのひとつでプレイ・オージオメトリと呼ばれる検査法です。
なお近年3歳児健診に後述する鼓膜の動きの検査が取り入れられ中耳炎の発見率が高くなりました。
図7
図8には鼓膜の動きをチェックするティンパノメトリと称する検査を図示しました。滲出性中耳炎では中耳腔の液体のために鼓膜の動きが悪化(図9)しており、この検査で検出できます。
図8
図9
5.学童期・思春期の難聴
学童期・思春期の子どもでは、自覚がないのに学校健診で難聴を指摘される子どもがいます。耳鼻咽喉科で検査をしても、耳そのものに疾患が見つからない場合には、心因性の難聴も疑わねばなりません。これは心理的問題が難聴という機能障害として表われたもので機能性聴覚障害とよばれます。
これは、家庭内の親子関係や教育・生活上のストレスが原因と考えられています。
この場合には、家庭内・学校内などでの人間関係の調整を始め心理療法も必要で、その専門家へ紹介されます。
6.青年期の難聴
青年期に見られる難聴のひとつに音響性外傷と呼ばれるタイプがあります。耳の神経も人体の一部ですから、大きな力が加わるとダメージを受けます。つまり余りに大きな音が耳に入ると内耳の細胞がやられて耳の聞こえが悪くなってしまうことになり、騒音性難聴と総称されます。
これには2つの種類の難聴があって、ひとつは仕事などで毎日大きな音響の中にいる人に生じるものです。
これを別名、職業性難聴(図9)と言いますが工事現場で働いている人や特科(砲兵)の自衛官などに時々見られるもので、高い方の音から聞こえが悪くなり、女性に話しかけられるのが苦手になります。
図10
それに対して、突然とてつもない大音量に曝されると急性の難聴を生じます。それを音響性外傷と言っているのですが、コンサートやライブなどで耳をやられることが多いようです(図10)。
耳は予期していた大きな音には割に強いのですが、突発的な大音響には対応しきれません。外傷と命名されるゆえんです。なお騒音性難聴のうち職業性難聴では、周波数の高い4000ヘルツという領域から悪くなることが多いという特徴があります。
図11
7.老人性難聴
耳が聞こえないことに関しては、健聴者の中には大きな誤解があるようです。それは聞こえが悪い人に話しかけるには、とにかく大きな声を出してやればそれで通用するのだという、いわば非常に単純な勘違いです。
特にご年配の方にみられる老人性難聴では、話し掛けられていることは分かるがその内容を把握できない、という現象が良く見られます。このためテレビの音量をやたら大きくしたりしますが、老人性難聴では高い方から聞こえが落ちるために言葉の端々を形作っている子音、例えばサシスセソが聞き取り難いために起きる現象です(図12、13)。
こうした高音域から聞き取り難くなるため、相手の話の輪郭がぼやけてしまい話の内容の把握に困ることになります。
図12 聴力レベル
図13 作製時の資料に基づいているため、現在は使用されていない「聴力損失」で表記されています。現在は「聴力レベル」と表記します。
加えて内耳の神経障害で補充現象と呼ばれる症状があります。
これは大きな音はいきなりやかましく感じられる現象で、親切のつもりで大きな声を出したら却ってご年配の方に怒られてしまった。そんなこともあります。
第三に脳の老化も考えられます。
脳の表面の言語中枢が衰え、言葉の内容把握が一層難しくなるので、一概に大きな声を出せば良いということではないのです。
むしろ、そういう場合には相手の目を見て「ゆっくり、くっきり、はっきり」と、自分の口元を見せながら話す方が、話の内容も通じやすくなると思いますし、その方が真心も一緒に通じると思いますよ。
【補足】補聴器とは
補聴器とは、内蔵されたマイクで周囲の音を拾い、聞きたい音を選別して補助してくれるサポート器具です。特に最近のデジタル式の補聴器は、専門家による細かいサポートを行なうことで、今まで聞こえなかった音や、人同士のコミュニケーションの大きな力になってくれます。
正しい使用法
補聴器は耳にしっかりと装着して下さい。中途半端な状態ですと「ガー」「ピー」といった音が出てしまいます。
また、直後は今まで聞こえなかった様々な「音」に違和感を覚えてしまうかもしれません。ですが、徐々に音に慣れるためにもまずは家の中から、慣れてきたら屋外で使用して、少しずつ使い場所を広げていくことが重要です。これは脳に「音のある環境」が普通なのだと思わせるのに必要な行程になります。
ただ、疲れを感じたり、具合が悪いなと感じたらお休みしましょう。出来れば1日に5時間以上の装用が理想ですが、ご自身の体調に合わせて加減をして下さい。
補聴器の限界
残念ながら補聴器も万能ではありません。
聞きたい音の全てが分かるようになるものではありません。100点満点の補聴器は、現時点では技術的に困難です。
実は、補聴器を必要としない耳でも、周囲の全ての音を聞き取れている訳ではありません。
ご自身が、どの音を、どのくらい「聞きたいと思うのか」が大変重要と考えられています。積極的に聞きたい音に触れていきましょう。
補聴器を装用すると、これまで耳に届かなかった様々な音が聞こえるようになります。ここに一つの問題が生じてしまいます。
「やかましい」「うるさい」と感じてしまう現象です。
聞こえの良い耳は、無意識に必要な音と不必要な音を選んでいます。つまり、耳は聞きたい音だけを聞くようにできているのです。そんな聞こえの良い耳に少しでも近づけるためには、音に対する訓練が必要です。
補聴器を付けたばかりの耳は、この必要な音と不必要な音の区別がつかない状態になっています。そのため最初はとても疲れてしまうのです。段々と耳が音の聞こえる環境に馴染んでくると、自然に聞きたい音だけを選んでくれるようになります。ただ、この作用には個人差があるため、焦らずにゆっくりと慣れていきましょう。
音とはうるさいもの
色んな音が聞こえて「うるさい」と思っても、すぐに補聴器を外さないで下さい。
それが一体何の音なのかを耳に教えてあげなければいけません。それらの音は今まで耳に届かなかっただけで、あなたのすぐそばに常にあったのですから。ただし、頭痛や気分が悪くなったりする場合は、補聴器を外して休憩しましょう。そして静かな場所を選んで再度装用してみて下さい。
生活音にまぎれた重要な音
日常生活の中には、とても重要な「音」がたくさんあります。
特に、緊急車両のサイレン、物が壊れる音、電話の音、インターフォン、叫び声など、緊急を知らせてくれる音を聞き逃してしまうと、それだけで危険から遠ざかることが難しくなってしまいます。
8.難聴を引き起こす病気
外耳疾患
(1)外傷性鼓膜穿孔(がいしょうせいこまくせんこう)
平手打ちなどで耳の外側から強く耳を叩いたときに、鼓膜に穴の開くことがあります。これを鼓膜穿孔と言います(図14)。
治療法としては、鼓膜穿孔部分に紙片などをあてがい、鼓膜の皮膚がのびて再度鼓膜の塞がるようにする手助けをすることがあり、パッチと称されます(図15)。
図14
図15
中耳疾患
(1)中耳炎
① 急性中耳炎(きゅうせいちゅうじえん)
冬の寒い時期、風邪を引いていた子どもが急激な耳の痛みを訴えたらこれを考えねばなりません。風邪のバイ菌がのどから耳管を通じて中耳腔に入り、そこで化膿した状態をさします。そのため膿の圧力のために鼓膜が外側に強く圧迫され、ひどい痛みを生じます。
この場合、鼓膜にわざと穴をあけて圧力を抜く鼓膜切開と、抗生物質の内服を行ない炎症を鎮めます。
② 滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)
鼓膜の内側に水みたいな炎症性の液体が貯留し、鼓膜の動きの悪くなった状態で聞こえが落ちる状態です。まるで新幹線に乗ってトンネルに入った瞬間のような圧迫感を感じます。
耳管の機能不全(換気機能の低下)が背景に存在していることが多く、耳管に対する処置が原則です。
③ 慢性中耳炎(まんせいちゅうじえん)
鼓膜に穿孔が存在し、風邪のときなどに感染を生じて膿が出ます。穿孔の大きさに応じた難聴を伴います。
慢性中耳炎の一種である真珠腫性中耳炎では、内耳の骨組織を破壊し感音難聴やめまいを引き起こすこともあり、ときには髄膜炎など頭蓋内合併症に至ることもあります。
内耳疾患
(1)突発性難聴(とっぱつせいなんちょう)
原因不明の急性感音(性)難聴。一側性に発症します。めまいや耳鳴りを伴うことも多いですが、めまいを繰り返すことはありません。
原因は不明ですが、内耳微小血管の循環障害説が多く支持されています。
重要なのは、発症後1週間以内に治療を開始しないと改善しにくいことと、ごく稀に背景に聴神経腫瘍の隠れていることがあることです。
ステロイド剤の内服や注射、高圧酸素療法などが行なわれます。
(2)メニエール病
内耳の内リンパ水腫のためにいわば内耳の構造がふやけたようになり、神経細胞が圧迫されます。時にこの水腫は破れ、内耳のリンパ液バランスの崩れることがあり、激しいめまい発作・難聴・耳鳴を生じます。発作の治まっている時期の本疾患では、回転性ではなく動揺感の強いめまいとなります。
原因は良く分かっていませんが、通常の鎮暈剤以外に水腫に対する浸透圧調整剤が用いられます。
(3)老人性難聴(ろうじんせいなんちょう)
蝸牛は中耳腔に近い部分が高音部を担当しており、奥の蝸牛頂に近い部分が低音部を担っています。このため高音部担当の有毛細胞は物理的振動に曝される時間が長いものと想像され、加齢とともに高音部から聞こえが悪くなります。
その結果、高音部に主成分のある子音(特にサシスセソなど)の聞き取りが悪化し、会話に置いてその内容を把握しにくくなります。
「話しかけられていることは分かるが、会話の内容が把握できない」との高齢者の訴えは、こうした生理現象の反映です。
さらに内耳有毛細胞の変性が生じ、補充現象と言って大きな音はいきなり喧しく感じる症状を伴い、会話が一層困難となります。加えて大脳皮質の老化から、言語の聴き取りの悪化も併存すると、会話はより難しくなります。
補聴器で対応するが、老人一人ひとり会話に不自由する場面が異なるため、店頭で補聴器を買い求めず試聴・貸出を経て購入してもらう必要があります。
注意すべきは時に滲出性中耳炎の合併していることがあり、聴力悪化に一役かっている可能性のあることです。老人性難聴を治療で治すことはできませんが、滲出性中耳炎は解決できます。耳鼻咽喉科で、検査を受けておくべきと考えられます。
(4)音響性外傷(おんきょうせいがいしょう)
予期せぬ強大な音響を、突然聞いたときに生じる難聴。内耳有毛細胞が強大音の刺激でダメージを受けたものと理解でき、例えるならば鍵盤を強く叩いて鍵盤そのものが引っ込んで元の位置に戻らなくなってしまった状態みたいなものです。ロック・コンサートやライブハウスなどで、本疾患を来たすことが多くあります。ときに強大音刺激は耳石器や半規管におよび、めまいを生じることもあります。
大きな音を聞いた直後から耳が変になったときには、急いで耳鼻咽喉科を受診してもらう必要があります。
(5)騒音性難聴|職業性難聴(そうおんせい|しょくぎょうせいなんちょう)
騒音に長い期間曝されて、内耳有毛細胞が不可逆的なダメージを負った状態です。当初、日常会話に使用しない4000Hz(ヘルツ)付近の聴力が悪化し、徐々に1000Hz周辺の音域にダメージが及びます。回復は期待できないので予防が重要です。
職場の健診などで4000Hzと1000Hzの聴力を測定するのは、この職業性難聴の早期発見が目的なのです。
9.後迷路性・中枢性疾患・心因性疾患
(1)聴神経腫瘍(ちょうしんけいしゅよう)
内耳道内を通過する聴神経(前庭神経と蝸牛神経)そして顔面神経のうち、前庭神経から発生する良性腫瘍です。内耳道から頭蓋内の小脳橋角にかけて進展します。発育は緩慢で、このためめまいや顔面神経麻痺は発生しにくく、耳鳴・難聴を初期症状とします。
聴力低下の見られない時期でも、ABRにてV波に異常所見の認められることが多くあります。
注意すべきは、突発性難聴と同様の急性感音(性)難聴で発生する聴神経腫瘍症例の存在することで、これは緩慢に発育していた腫瘍内部の血管が破裂し、急激に腫瘍径が増大するために起きる現象と理解されています。
(2)機能性聴覚障害(きのうせいちょうかくしょうがい)
聴覚に関する器官に器質的病変のない難聴です。ABRなど他覚的聴力検査で異常所見は見られないのに、純音聴力検査で聞こえの悪化が観察されます。
難聴により利益を得ようとする詐聴(詐病)と、心理的ストレスから発生する心因性のものとがある。
後者では心理的背景を分析し、対応することが望ましいです。
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