3443通信 No.362
耳のお話シリーズ41
「あなたの耳は大丈夫?」19
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~


私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授)です。
その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。
前から来る音は聞きやすい
▼うるさい場所で相手と話ができるわけ
多くの人の話す声が混じってできるガヤガヤしたざわめきは、聞きたい音声を強くマスキング(かぶさって消す)してしまう音のひとつです。しかし、こういったノイズに満ちあふれた場所でも、相手ときちんと話ができるのはなぜなのでしょうか。
理由は二つあります。ひとつは、頭の両側に耳がついているため、前向きに音を聞くことができるからです。もうひとつは脳が選択的な聴取を行なうことによって、聞きたくないノイズを切り捨てるからです(図30)。

図30
自分の周囲に、頭の位置を中心にして、たくさんのスピーカーを円形に並べたとします。まず、すべてのスピーカーから同じ音量の音を出しておきます。そして、音の大きさが同じに聞こえるように、スピーカーを移動させます。その結果、スピーカーの位置が描く円を見てみると、頭の後方にへこみができたようないびつな配置になります。これは、人の耳が前方からの音源を拾いやすいことを示しています。大勢の人が集まってしゃべったり笑ったりするざわめきに満ちたパーティー会場においても、目当ての相手と会話が楽しめるのは、前方からの音がよく聞き取れ、後方からの音は減音されるからです(図31)。

図31
これはカクテルパーティー効果と呼ばれます。しかし、背中合わせではカクテルパーティー効果は働きません。あくまでも自分が向きあった話し相手の言葉の方がよく耳に入るようになっているのです。
【前話】「あなたの耳は大丈夫?」18