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3443通信 No.361

スギ花粉症トピックス
スギ花粉症と大気汚染にまつわる俗説について2
「ザイム真理教」

図01 表紙
図1


『ザイム真理教』(図1)という本が話題になっています。
 それは納税者よりも財務省が、国家の権威であり納税者は財務省の言うとおりに納税しなければひどい目に遭わされるという内容です。
 その仕組みについては、本論ではないのでここでは述べることはしませんが、読者の一人ひとりがこの本に目を通しておくことを強くお勧めします。

 では本当に財務省関係者が、国民よりはるかに上位であると思い上がっているのかどうか。私たちは実際の体験をすることになりました。

 その一例ですが、国税調査官出身の大村大次郎(図2)を名乗るライターが『朝日新聞が財務省の犬になった日』(図3)の中で、財務官僚のアレコレについて記しています。

図02 著者図03 表紙
 図2           図3


 ところが官僚についてはともかく、こともあろうにその本の中にスギ花粉症について触れており、当院ホームページの記事『スギ花粉症と大気汚染にまつわる俗説について』(3443通信 No.358 https://www.3443.or.jp/news/?c=18962)のような俗説が記されていました。私はその内容が誤りであることを伝えるべく、本の出版社である夕日書房を通じて、著者の大村氏にメールを送りました。

 以下が、そのメールです。

メール① 私から大村氏宛に送付したメール文
「私は、宮城県仙台市にあります三好耳鼻咽喉科クリニックの三好彰と申します。
 この度、御社発行の大村大次郎氏の著『朝日新聞が財務省の犬になった日』をとても興味深く拝読させて頂きました。

 さて、そのご著書の中で私の専門領域であるスギ花粉症(アレルギー)についての記載に、患者に誤解を招く恐れがありましたため、筆をとった次第です。
 お伝えしたい事は2点ございます。

1.スギ花粉症の原因について
 まず一つ目ですが、スギ花粉症の原因が「排気ガス」にあるという論拠について、これは私どもの研究グループによって否定された俗説です。
 過去に日本耳鼻咽喉科学会などにおける学会発表や論文をまとめたエッセイ『アレルギー性鼻炎と大気汚染』(3443通信 No.312)にも記しておりますが、大気汚染物質そのものにアレルギー症状を悪化させる効果があるのかは、いまだ確定的ではなく推論の域を出ておりません。
 つまり大気汚染物質に付着したアレルギー物質(スギ花粉など)が都市部のアスファルトでは土中に吸収されず、空気中に再飛散することで人体内に入る可能性は十分に考えられます。
 ですが、それは単に人体がアレルギー物質自体に晒される暴露時間が増加しているだけとも考えられるため、著者が述べられているように大気汚染物質そのものにアレルギー増悪作用があるとは断言できないと思われます。

 私は、この大気汚染説が取り沙汰されていた当時、東京都に大規模なディーゼル規制を敷いた石原慎太郎都知事に質問状を送り、その科学的根拠について疑義を申し立てた事があります。
 その結果、石原氏はあれほど厳しく言及したディーゼル規制を撤廃し、花粉症が深刻化した原因は「林野行政に失敗」と、論拠を変えたという事実があります。
 それらの経緯については、先の当院ホームページにて公開しておりますので、ぜひご一読頂ければ幸甚です。

2.花粉症は日本特有なのか
 また、P.184には「花粉症という病気は日本特有のものである」と主張されていますが、これは誤った認識です。
 そもそも花粉症のルーツは19世紀のイギリスにあり、その原因は国土の45%を占めた牧草地に生えたイネ科の植物とされています。これは英国の学者ボストークが医学的に明らかにし、それ以前のイギリスでは「枯草熱(こそうねつ)」と呼んでいました。

 その他、アメリカではブタクサ(ragweed)による花粉症は存在していましたし、近年ではお隣の中国でも植林したスギによるスギ花粉症が増加していることが、私どもの疫学調査で明らかになりました(著書『みみ、はな、のどの変なとき』をご参照ください)。
 こうした医学研究者たちの長年の研究の積み重ねにより花粉症治療が進歩してきたことは紛れもない事実であり、科学的な根拠のない情報は患者を惑わすだけではなく、真面目に研究に取り組んでおられる研究者に対する冒涜との誹りを避けられません。
 どうか著者の大村氏におかれましては、情報発信者の一人として、正しい情報を世に送り届けるという責任を果たして欲しいと切に願っております。」

◇以上◇

 その後、大村大次郎を名乗るライターから、以下のようなメールが届きました。

メール② 大村メール(1)
「三好様
先日からメールをいただいているのに返信できずにすみません。
返信すればおそらく気分を害されると思ったのであえて返信しなかったのですが、どうしても返信をよこせということなので、失礼を承知で率直に述べさせていただきます。

私の書いた本の内容に間違いがあるとのご指摘ですが、それは「お門違い」というものです。
私は別に医学の専門家ではなく、医学に関して自説を述べたものではありません。国立環境研究所や各国立大学が公表していることを引用しただけです。
もし内容に誤りがあるということであれば、国立環境研究所や各国立大学に修正を求めるべきでしょう?

特に三好さんは、花粉症の権威でおられるようなので、その権威を守るためにも、きちんとした手続きを踏み、医学界全体のコンセンサスを得るべきでしょう。

それと「花粉症は日本にしかない」という記述は、私の持論なのですが、おっしゃる通りに花粉症という症状は日本以外にもあるでしょう。が、国民の何分の一かが苦しむほどの国民病になっているのは日本だけでしょう?

なぜ日本だけがこれほど苦しんでいるのか、おかしいと思いませんか?
その原因を解明するのが、三好さんたちの役割ではないのですか?
それを「外国にも花粉症はあるぞバーカ」というような「典型的な嫌な専門家発言」はみっともないと思いませんか?

誤解を恐れずに言うと、三好さんは花粉症を商売のタネにしてきたわけです。だから「持論を脅かすもの」を排除しているだけのようにも見えます。
そういうふうに捉えられないためにも、三好さんの論が正しいのであれば、より医学界全体のコンセンサスを得ることが必要だと思います。

もっと言えば、慎重に発言しなくてはならないのは、私の方ではなく、三好さんの方ではないのですか?

今のままでは
「こいつは自分の金儲けのために持論を強引に振りかざしているだけ」と捉えられても仕方がありませんよ。
新型コロナ禍において、医学界に対して並々ならぬ怒りが湧いており、その怒りを三好さんにぶつけてしまったかもしれません。失礼があればお詫びします。

大村大次郎」


◇大村メール(1) 終わり◇

 上記に加えて、その日のうちに以下の様なメールが続けて届きました。 

③大村メール(2)
「三好様
三好さんから頂いたメールと、今回の私の返信は、私のブログやその他の媒体で公開させていただきますね。
三好さんのブログへの回答ということです。
三好さんもそういうのをお望みのようですし、堂々と公開してお互い世間の評価を聞きましょう。

大村大次郎」


◇大村メール(2)終わり◇

 その後、いくどかのやり取りをしましたが、今回の議論に関係する内容のみを提示させて頂きます。

④大村メール(3)
「三好様
何度もすみません。
もう手早く済ませたいので。

どうせ、三好さんのことだから私の質問には応えず、話をそらしたり、論点と関係のない自分の事績を持ち出してくるのが目に見えているので、論点をはっきりさせましょう。
私は当初から、「国立環境研究所等の研究を引用しているだけであり間違いがあるならば国立環境研究所等に言え」ということを言っていました。

で、国立環境研究所のホームページで以下のような記事があります。
研究者に聞く!!|環境儀 No.22|国立環境研究所

この小林研究員の言質をとってきてください。

「花粉症と排気ガスはまったく関係ない」と。
花粉症の権威である三好さん、花粉症論争を終わらせた三好さんならば、それができないはずはないですよね?
言質をとってこない限り、あなたの言い分にまったく価値はありません。
あなたが勝手に言っているだけですから。

で、前回メールで述べたように、あなたがこれまでの過ちを認め、「花粉症と排気ガス」の記事を過去分含め全削除すれば、公開はやめます。
で、ちょっとすみませんがちょっとだけ耳をふさいでいてください。

「強欲医者がうぜえんだよ!こっちはお前にかかわっている時間なんて一秒もないんだよ!汚ねえ金抱えて早く失せろや!」

失礼しました。
あなたのメールを読んでストレスがたまったので、ついつい暴言を。お許しください。
もちろん、この文章も公開して構いません。

大村大次郎」


◇大村メール(3) 終わり◇

私は早速、大村メールが提示したサイトを確認しました。

すると、小林隆弘氏(環境衛生研究所 上級主席研究員)が研究内容『研究者に聞く‼』(PDF)で語っておられますが、研究のきっかけが件の慈恵医科大学の研究チームが発表したデータ捏造論文(3443通信 No.312『アレルギー性鼻炎と大気汚染』)がベースになっている可能性が高いことが分かりました(以下、引用)。

図04

Q: そこで、花粉症とDEPの関係に関する研究を始められたわけですね。
小林: はい。きっかけは日光の杉並木の話でした。1984年に「自動車交通量の多い日光杉並木沿いでは、同じくらい花粉は飛んでいるものの交通量が少ない地域に比べ花粉症の人が多い」という報告があったのです。そこで排気ガスに曝露される環境で、花粉症の原因になるような花粉を吸入すると花粉症が出やすくなったり、症状が悪化するようなことが起きるのかを、実験的に確かめてみようと考えました。花粉症はアレルギー関連疾患の一つです。そこで最初の研究では、抗原として卵白アルブミン(OVA)を使用しました。OVAは卵白にあるタンパク質のアルブミンを純粋に抽出したもので、ダニやカビなどアレルギーを引き起こす抗原の代わりに、実験ではよく使われる物質です。

※中略

Q: 結果はいかがでしたか
小林: 期間は5週間で、1週間ごとに点鼻したのですが、DEPが0.3mg/m3の環境では、3回目程度でくしゃみ、鼻水が出てきます。1mg/m3ではさらに顕著となり、濃度に依存して増えることが分かりました(図2)。また清浄空気中のモルモットがくしゃみ2,3回なのに比べ、DEP曝露下では12-13回に増えます(図3)。DEPがアレルギー症状を悪化させていました。次に、結膜炎の方ですが、これも0.3mg/m3から1mg/m3で目の充血が起きていました。なお、その後、検証として実際にスギ花粉を使用して実験を行いましたが、同様な傾向が現れました。

図05
 図5

(引用終わり)』

 つまり大村メール及び小林記事の両者とも「スギ花粉とDEPを一緒にすると、スギ花粉症がひどくなる」と言っている訳です。そしてその結論は、すでに私が説明したようにDEPにスギ花粉成分が吸着して残留し、スギ花粉のみだと洗い流され症状が軽くすむはずなのに、DEPに付着したスギ花粉成分は長時間暴露され続けるために、花粉症の症状が2倍、3倍……と悪化していく可能性が高いというお話です(3443通信 No.312『アレルギー性鼻炎とスギ花粉症』)(図6、7)。

図06
 図6

図07
 図7


「例え話ですが、猫の毛アレルギーの人がネコの毛の付いたセーターを着ればアレルギーを発症しますが、誰もセーターが猫アレルギーの原因であるという人はいません。DEPにスギ花粉が付着すると、セーターについた猫の毛と同様になります。

 これらは既に私のホームページでご高覧のことと存じますが?

 科学ではお示しのin vitro(試験管内の)と in vivo(生体の)つまり現実世界の実験の両者を比較して結論を出すものです。in vivoの現実では石原慎太郎都知事の社会実験(スギ花粉症に対するディーゼル車規制)が頓挫したのもまぎれもない事実であり、各新聞社等がその失策を取り上げていたのは記憶に新しいところです。

 繰り返しになりますが、私は石原都知事に対して反論し、彼は政策を取り下げました。

 話は変わりますが、大村さんは私の説明に全く耳を貸さないばかりでなく、ご自分の主張の論拠も他人の資料の引用ばかりですね。
 ご自分のデータを使って議論をすることが「はじめの一歩」だと、誰もがみんな知っていることです。」

(以上、私の返答)

 財務省を始めとして、お金で日本を動かしてきた人間は、自分だけが日本で一番が頭が良いと思って生きているようです。

 これらのメールのやりとりの後、大村を名乗るライターからは一言も反論がなくなりました。
 どうやら専門外のことについても、専門家よりも役人の方が偉いと思っているようですが、しかし現実は今回私がお示ししたようなものです。ただそれは役人の頭の中だけの想像にすぎず世の中では通じないという当然の事実が、『ザイム真理教』(図1)並びに森永さんと深田さんなどが書かれた本(図8)などで、今全国民に知れ渡って来ています。

図08
 図8


 先日、東京でお会いしたペルー日本大使公邸人質事件に医療班の責任者として関わった國井先生(3443通信 No.341)も「最近は役人の質が下がってきてしまった。仕事に差し支えが出ている。もう優秀な人間は役人にはならないのでしょうね」と語っておられました。当然の世の中の流れですよネ。

 とはいえ「お山の大将 俺一人」という俗言があります。imidasによると「世間知らずな人物がたいした功績でもないのにいばりくさっている場合を指していう」ことだそうです。
 大村大次郎さんは正にそんな今ではまったく通用しない日本の役人の典型だったんでしょうね?
 『ザイム真理教』
 味わい深く三読する価値のある本だとつくづく思いました。

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