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3443通信 No.361

 

ラジオ3443通信「床屋は外科医だった」


 ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
 ここでは2012年9月25日OAされた、学校健診にまつわる話題をご紹介いたします。

87 床屋は外科医だった
An.
 三好先生、前回のお話では、昔のヨーロッパにはブラック・ジャックは存在しなかった。それどころか、外科医というものそのものが無かった、というお話を伺いました。
Dr.
 ヨーロッパには手塚治虫がいませんでしたから、ブラック・ジャックが存在しなかったのは分かりますけど、ね(笑)。
 でも昔の西洋医学には、外科という領域は存在しなくってですね。
An.
 でも先生、江澤が先生からお聞きした出島の話題では、江戸時代の日本の医学は漢方主体で、いわば内科系だったと記憶しています。そこへシーボルトがやってきて、メスさばきも鮮やか(あざやか)に切開など外科の技術を披露した。そんな経緯があったように、伺いました。
 ですから、旧態依然だった日本の医学とは異なり、西洋の医学は外科が主体だったんだろうと、思ってました。それは、江澤の勘違いだったんでしょうか!?
Dr.
 前回少し触れたんですけど、ね。
 ヨーロッパの医学では、古くから内科医であるドクトルはいたんですけど、ね。
 大学で医学を修め、ぶ厚い書物の知識を脳味噌に詰め込んで、ふんぞり返って診断し、厳かにお薬を調合して処方する。それがドクトルでした。
 でそのドクトルは、メスを持つことは無かったんです。
 でもクリミア戦争始め、戦地では多くのケガ人が出ます。そして抗生物質の無かった当時、大ケガを放置すれば出血や感染などで、死亡してしまいます。
 けれども、内科的処置しかできないドクトルには、これらのケガには対応できなかったんです。
An.
 昔のヨーロッパには大戦争も少なくなかったって、江澤は聞いています。そういった戦争では、ケガ人はみんなまともに治療は受けられなかったんでしょうか?
Dr.
 そうしたケガ人の外科的治療、つまり切開や切断などの手術は、実は当時は理髪師つまり床屋さんの仕事だったんです。
An.
 エーッ! いくら先生のお話でも、江澤は信じられません(笑)。
Dr.
 でもね、江澤さん。床屋さんのお店の前に、今でもシンボルとしてグルグル回っているねじりん棒がありますよね。
An.
 えぇ、江澤も見たことがあります。
 床屋さんの前には、必ずありますもの。
Dr.
 あのねじりん棒は、何色でしたっけ?
An.
 えぇっと三好先生、たしかあれは、赤と青と・・・・・・、そうそう白でした。
Dr.
 あれは何を意味しているか、江澤さんはご存じですか?
An.
 ええっ、先生。あれには何か意味があるんでしょうか。
Dr.
 あれこそが、昔々床屋さんが外科医をかねていた名残なんですよ。
 江澤さん、あの棒の赤色は何の意味でしょうね? 外科と関係があってですね、ホラ病人の体をメスで切開したときに、出てくるんですけどね。
An.
 先生、それはもしかすると、血液ではありませんか?
Dr.
 さすがは1を聞いて10を知る江澤さん。あの棒の赤色は、動脈を意味しています。
 それでは江澤さん、もうお分かりですよね。ねじりん棒の青色は、何のことでしょうか?
An.
 先生、それは静脈です!
Dr.
 江澤さん、座布団10枚です。さぁそれでは、白は何のシンボルでしょうか?
An.
 床屋さんが外科医のお仕事をして、動脈と静脈があって・・・・・・、ですよね。
 先生、もしかすると棒に描かれている白は、外科医の治療に必要な包帯かなんかじゃありませんか!?
Dr.
 江澤さん。ハワイへご招待です。
 だから床屋さんは今でも、外科医を担当していた古(いにしえ)の看板を、ずっと掲げ続けているんですよ。
An.
 へぇーっ。江澤は、すごくビックリしてしまいました。
 そんなことがあったんですねぇ。
Dr.
 床屋さんが外科医をかねていたその記録として、ロッシーニの『セヴィーリアの理髪師』というオペラがあります。
An.
 江澤も、そのオペラの名前は聞いたことがあります。すごい名作だという評判も、聞きました。
Dr.
 その中には、主役のフィガロという床屋さんが、整髪や髭剃(ひげそり)だけじゃなくって、外科治療の一種である瀉血(しゃけつ)を行なっていたことが、描かれています。
An.
 瀉血って何でしょうか?
Dr.
 血管を切開し、悪い血液を除去すると考える、民間療法のひとつです。
An.
 それが、オペラの中に出てくるんですね?
Dr.
 オペラの第1幕で、主役のフィガロが登場するシーン。そこで歌われるのが「おいらは町のなんでも屋」という、有名なアリエッタつまりアリアのごく短いやつです。
 ほら、「フィーガロ、フィガロ、フィガロ、フィーガロ!」って歌ですよ。
An.
 それ、江澤も聞いたことあります(笑)。
Dr.
 その歌の中に、「こちらでは髪を、剃ってくれ」という本来の床屋さん業務だけでなく、「メスもはさみも用意されている」との、外科医業務を意味するフレーズも、入っています(図)。

1校


An.
 フィガロは、外科的な仕事もしてたんですねぇ。
Dr.
 しかもこのオペラの登場人物には、フィガロとはまったく別個にドクトル・バルトロという、内科医と思われる人物も含まれているんです。
An.
 じゃあ、やっぱり内科医は外科の仕事をしなかったんですね。
Dr.
 外科を習得するための解剖実習が困難だったのは、日本だけじゃなくって西洋も同じだったんです。
An.
 そう言えば幕末の日本でも、同じような歴史があったんですよね。
Dr.
 次回はそのお話です。お楽しみに。

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