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3443通信 No.359

 

大曲の花火“秋の章”花火芸術祭鑑賞レポ

秘書課 菅野 瞳 

図01
図1


 ひとつ前の記事にて、院長が秋田県の阿部隆Dr.のご生家を訪問した時のレポートが掲載されましたので、私も対抗して秋田シリーズのレポートをここでご紹介します。

 10月に入り、いつの間にか朝晩の寒さを覚え始め、季節がまた一つ進んだことを実感します。一年を通し秋と言う季節は、最もイベントが多い季節であり、最も美味しい物が多い季節とも言えます(食欲の秋という言葉が生まれたのも、それが所以かもしれません)。
 食欲の秋を堪能ではなく、今回は芸術の秋を堪能すべく2024年10月5日(土)、秋田県大仙市で開催された『大曲の花火“秋の章”花火芸術祭』(図1)を鑑賞して来ました。

日本三大花火である大曲花火
 大曲の花火と言えば、全国民が知っているのでは? という程の、大変有名な花火大会です。
 私も一瞬「えっ?この時期に大曲の花火大会?」と不思議に思いましたが、誤解のないようご説明します。
 『日本三大花火大会』に名を連ねる大曲の花火大会は通称であり、正式名称を“全国花火競技大会”と言い、毎年8月の最終土曜日に開催されます。大曲で開催される花火として定着している為、正式名称をご存知の方は少ないかもしれません。

 大曲の他に『日本三大花火大会』に参加しているのは、茨城県の土浦全国花火競技大会、新潟県の長岡まつり大花火大会です。

 通称“大曲”の花火大会は、日本中から集まった花火師たちが腕を競い合う『日本三大競技花火大会』にも名を連ねており、最も優秀な花火師には内閣総理大臣賞が授与されるという、とても権威ある花火師たち憧れの大会なのだそうです。
 本日開催の大曲の花火は、夏場に大々的に開催される大曲の花火とは違い、芸術祭という副題がついており、競技などにこだわらずにショーとしての“魅せる花火”に特化しているのが特徴で、シンプルに花火を楽しみたい人には夏場よりもお勧めなのだそうです。
 夏が大好きで、リゾートが大好きで、夏の代名詞である花火も大好きな私が、一度は足を運んでみたいと思っていた大曲の花火取材に、朝から武者震いが止まりませんでした。

 当日は、心配されたお天気ではありましたが、大曲花火実行委員会のホームページにて、予定通り開催いたします、の案内を確認し、いざ大曲へ向け車を走らせます。
 東北道から秋田道へ移り、大曲ICまで約2時間半のドライブです。大曲で開催される花火大会は、JR大曲駅からは徒歩にて約30分と距離がありますが、大仙市にとって一大イベントになるため、至るところに会場までの案内版が出ており、迷う心配はありません。

 花火の会場となる雄物川河畔に無事到着し、腕時計と睨めっこをしながら、その時を待ちます。オープニングセレモニーはどんなものになるのかしら? と、色々な妄想を膨らませていた私でしたが、大いに裏切られる形でスタートを切りました。

ドローンショーで開幕
 な、ななんとオープニングは、500機のドローンが秋田にちなんだ物を夜空に描きだしました。大曲の花火-秋の章-のタイトルコールから始まり、秋田音頭で有名な八森ハタハタ(図2)、そして泣く子も黙る? なまはげ、秋田の美味しい比内地鶏(図3)……どれもこれも秋田を感じさせる、素敵なドローンアートを見せて頂きました。

図02 ハタハタ
 図2 名産ハタハタの花火

図03 比内地鶏と卵
 図4 こちらは比内地鶏!


本番スタート!
 さぁ、ドローンショーの後は、お待ちかね、この大曲の花火大会を年間スポンサーとして支え続けていらっしゃる企業様の、オープニング花火の打ち上げです。色とりどりの花火の一滴一滴が、息を吞むほどに煌めいてはたちまち消え、それをまた追いかけるように次々と花火が上がり、光の玉が一瞬のうちに視野いっぱいにまで広がっていきます。

オリンピック・ランナーを讃えて
 まだオープニング花火を終えたばかりだというのに、私の胸には感動の渦が出来上がりました。オープニング花火に続いては、7月の下旬から8月にかけ、フランスのパリで行われたオリンピック女子マラソン競技において見事6位入賞を果たした、ここ大曲市ご出身のランナー・鈴木優香選手を讃えた特別企画花火です。
 鈴木選手が出場された女子マラソンのスタート時と、走り終え入賞を決めたゴール時には、記念の花火が打ち上げられ、今夏の大曲市が一番盛り上がり、熱く(暑く)なった瞬間だったそうです。
 鈴木選手がいつも聞きながら集中力を高めているという曲に合わせて、仏国旗を彷彿させるトリコロールカラーの花火も打ち上げられ、大変エネルギッシュなプログラムになっていました。

 空高くぐんぐんと上がる花火のように、鈴木選手の益々のご活躍を応援したいと思います。

 特別企画花火に続いてのプログラムは、副題にある花火芸術祭の名に相応しい、色彩の魔術師と呼ばれたフランスの画家、アンリ・マティス氏が描いた色彩画を表現した花火です。4号玉から10号玉の花火を巧みに組み合わせて打ち上げられる花火は、計19発。寒色に暖色に、とてもカラフルな花火は、夜空に種々様々な色彩画を描きました(図4、5)。

図04 4号玉から10号玉混合
 図4 4~10号玉の連発花火

図05 4号玉から10号玉2
 図5 同上


 芸術に触れた花火に続いては、これから深まりゆく秋を表現した花火3作品になります。中秋の名月をモチーフに、秋の七草に数えられるススキを重ね、最後は作品タイトルにもある“粧う(よそおう)山々”を表現した花火です(図6)。四季の山には、情景を表現する言葉がそれぞれありますが、秋には山が粧う……つまりお化粧をした様(紅葉で色づく様子)を表し、夜空を紅く染めていました。ここで花火時特有の煙はけ待ちの時間がとられ、第一幕が終了です。

図06 中秋の生け花
 図6 中秋の生け花


若手花火師たちの挑戦
 そしてお待ちかねの第二幕のスタートは、第一幕とは打って変わり、これからの花火大会を背負っていく、20代から30代の若い世代の花火師たちが繰り広げる作品になります。
 まずはここ、秋田県大仙市の誕生20周年を記念した花火の打ち上げです。『Blazin’Beat』というハイスピード曲に合わせ、雄物川の水面すれすれの花火や、キャンパスの夜空を上にだけでなく、左右めいいっぱいに使った、とてもパワフルな若さ溢れる演出は圧巻の一言でした。

 来年3月で生誕20周年を迎える大仙市は、記念事業の一環として本年7月にカナダのモントリオールで開かれた国際花火大会に出場し、初挑戦ながら銅賞とエコ特別賞を受賞するという快挙を成し遂げられました。
 若い世代の花火師が育つことで、大曲の花火は、エネルギッシュに挑戦をし続けますという、大変力強いアナウンスがありました。
 会場からは、花火に負けんばかりの拍手が送られ、プログラム終盤にかけ打ち上げられる、若手花火師たちが繰り広げる作品に、期待が膨らみました。

 そしてここで、またも初の試みと言う作品の登場です。

 それは、“花火師×花火師”という2業者の花火師によるコラボ作品です。なんと、これから始まるコラボ作品は、花火業者の社長さん以下上役の方々は作品内容を一切知らされておらず、何一つ制作に関与していないというサプライズ花火で、普段は若手を見守る先輩花火師たちも観客と同じ目線で鑑賞をするという、そんな面白い試みなのだそうです。
 そんなことってあります? そんな感想を思わず抱きましたが、会場からも同様に、どよめきが起こっていました。ハラハラドキドキの若手花火師によるコラボ作品やいかに……と、会場の面々が思ったのも束の間。その心配は杞憂に終わりました。

 ビビデバという舌を噛んでしまいそうな、アニメソングにも使われる若者独特の曲をバックミュージックに、普段であれば縦か斜めに打ち出すトラ(トラの尾とも呼ばれる打ち上げ花火の一種で、トラの尾のように太い火の柱を残しながら打ち上がるのが特徴)という花火が、真横に打ち出されました(図7、8)。なんと面白い。そして斬新な構成でしょう。これぞ芸術! と言いたくなるような独創性の強い花火を、これでもかという程に見せて頂きました。

図07 トラ(ザラ)花火横打ち上げ
 図7 トラ花火の横打ち上げ

図08 打ち上げ角度0度花火
 図8 打ち上げ角度0度花火


 玄人職人が上げる花火とはまた違い、若人職人の上げる花火は初々しくも挑戦的であり、青天井だなと感じました。
 フィナーレ花火が近づき、花火師たちが魅せる饗宴はクライマックスヘと向かいます。4作品連続で打ち上げられる花火は、“花火パビリオン”と名付けられ、誰もが知るスペインの巨匠ピカソの人生を表現した花火を皮切りに、日本からは浮世絵師と言えば……の葛飾北斎の版画『富士山』(図9)が描かれ、大曲の夜空に突如として現れた儚きも優美な美術館にウットリと心奪われました(図10)。

図08 葛飾北斎
 図9 富士山(しかも赤富士です)

図09 生命起源論
 図10 生命起源論


脅威の尺玉100連発!!
 名残惜しさは募りますが、ついに、観客が待ちに待っていた大トリのフィナーレ花火の打ち上げ時間となりました。フィナーレとなる打ち上げ花火は、聞いてビックリ、見れば更にビックリであろう、10号玉花火(直径約30cmの花火で尺玉とも言われ、300m以上の高さに打ち上げられ、上空で開いた時の直径も300m以上という大型花火)の100連発です!!
 なんとフィナーレ花火は、打ち上げ箇所が10カ所にも及ぶのだそうです。聞き覚えのあるミュージックと共に(スーパーマンのテーマ曲でした)、四方八方から花火が打ち上げられ、会場が花火で覆われました(図10)。

図11 フィナーレ
 図11 フィナーレです!!


 10号玉が次々と上がる迫力たるや……打ち上がる花火に、自身が包み込まれるような感覚を覚えたのは、初めての体験でした。
『大曲の花火・秋の章花火芸術祭』は、僅か90分の開催ではありますが、観客の胸を震わせ、身体を震わせ、脳みそをも震わせ、観るもの全てに感動を与える、素晴らしい芸術祭でした。花火というものは、絵画や写真と違い、形に残らず一瞬で消えてしまいます。それだけではなく、同じ花火は二度と上がることはありません。一瞬で消えていく儚い美しさに、魅了された一夜となりました。

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