3443通信 No.358
豪華客船にっぽん丸でいく
日本一周クルーズに参加しました4(終)
院長 三好 彰
ここまで連載でご紹介して来ました豪華客船にっぽん丸でいくクルーズツアーのレポートも本号で完結します。
仙台港を出発し、北海道の函館、日本海に浮かぶ佐渡島と隠岐島を巡り、最後は九州は大分の別府へ参ります。
湯の街「別府」へ
日本一周クルーズも、残すところ最後の寄港地である大分県別府にやって来ました。1871年の開港以来、別府港(図73)は大阪と別府を繋ぐ海運路の重要地として活用されて来ました。戦後は国際海上輸送網の拠点として重要港湾に指定され、戦後復興が落ち着きを見せ始めたことで観光の受け入れ口としての期待が高まりました。
そして国際観光港として再整備がなされた別府港には、大型のクルーズ船が寄港するようになり、現在では第2~4埠頭を含めて排水量10万トンを超える海外の大型クルーズ船の受け入れを行なっています。
図73
別府の温泉郷へ
別府に降り立ったツアー一行は、別府といえば温泉でしょう! ということで別府温泉郷へとやって来ました。別府温泉といえば、別府八湯とも呼ばれる8つの代表的な温泉地が有名です。もともとはそれぞれが独立した温泉場でしたが、交通網の整備や都市化などが進んだ大正時代には、由布院や塚原などを含めた一大温泉地となり別府十湯と呼ばれました。その後、町村合併などがあり現在の別府八湯という名称が定着しました。
また、別府といえばアチコチから立ち上る湯煙の様子がまるで地獄を思わせることから、別府の地獄巡りとも呼ばれています。
その“地獄”の名を冠する温泉は全部で7カ所あり、それぞれは少し離れた位置にあります。
今回のツアーで訪れた“地獄”を、以下にご紹介させて頂きます。
血の池地獄
奈良時代に編纂された『豊後国風土記(ぶんごこくふうどき)』に赤湯泉という名で記された日本最古の天然地獄です。
その見事に赤く染まった湯は、まさに血の池と呼ぶに相応しい雰囲気を醸し出しています。その深さは30メートル以上とされますが、粘土状のお湯が沸き出ているため正確な最深部は不明のようです。その成分には酸化鉄や酸化マグネシウムを多量に含んだ熱泥が地層から噴出し、それが堆積することで池一面がまっ赤に見えるのだそうです(図74~77)。
図74
図75
図76
図77
龍巻地獄
続いて訪れたのは、一定間隔で温泉が吹き上がる間欠泉“龍巻地獄”です(図78)。岩に囲まれた噴出孔からは“地獄巡り”の中では最高温度となる摂氏105℃の温泉が吹き上がり、辺り一面に蒸気が立ちこめていきます(図79)。噴出時間は約7~8分間。本来は30メートルほどの高さまで吹き上がるそうですが、わざわざ岩囲いを設けているのだそうです(図80)。
その規模は、アメリカのイエローストーン国立公園やアイスランドのゲイシールとは比べ物になりませんが、噴出するまでの時間の短さは圧倒的に竜巻地獄の方が早いそうです(図81)。
図78
図79
図80
図81
海地獄
綺麗な海を思わせるコバルトブルーに染まるのが海地獄です(図82~84)。その始まりは約1200年前(貞観9年)にまで遡り、鶴見岳の噴火ともに湧き出た熱泉のひとつと言われています。温度は98℃と高く、泉脈までの深さは200メートル以上で硫酸鉄を多く含んでいます。
図82
図83
図84
温泉の熱を利用した庭園では、最大級の蓮である大鬼蓮(おおおにばす)やアマゾン原産の熱帯性睡蓮が植生し、原色の美しい蓮の花弁が楽しめます(図85~88)。
その他にも、前述の血の池地獄を連想させるまっ赤な“赤池地獄”(図89)や、熱帯植物に囲まれた足湯(図90)があり、景色を眺めながら温かい足湯に浸かって時間を忘れるのも一興です。
図85
図86
図87
図88
図89
図90
また、施設内には1920年11月に昭和天皇(当時は皇太子)がお立ち寄りになられたことを祈念する記念碑(図91)や、稲荷神を祀る白龍稲荷神社(図92)も併設されていました。
図91
図92
明礬温泉(みょうばんおんせん)の湯の花
ところ変わって、地獄温泉からやや北西の山間にある明礬温泉にやって来ました。施設の奥では縄文時代を彷彿とさせるかやぶき屋根が立ち並ぶエリアがあり、ここでは江戸時代から続く明礬温泉の名物である“湯の花”を製造しています(図93~96)。
湯の花とは、温泉に含まれた成分(鉄、アルミニウムなどからなる硫酸塩)から析出された結晶体のことを指し、それらを集めた入浴剤をご家庭のお風呂に入れれば、皮膚病や神経痛などに効能のある温泉へと早変わりします。
日本各地の温泉でも湯の花は散見されますが、ここ明礬温泉の湯の花は生成過程が他とは異なり国指定の重要無形民俗文化財に指定されています。また、ここで製造された湯の花の入浴剤は全国で唯一“医薬部外品”の指定を受けるなど、その効果は全国的にも広く知られています。
図93
図94
図95
図96
立命館アジア太平洋大学”吹奏楽“を鑑賞
温泉郷を満喫したツアー一行は、にっぽん丸に乗船すべく別府観光港に戻って来ました。そしてターミナルへと入ると、そこには赤と黒の衣装に身を包んだ吹奏楽団がお出迎えしてくれました(図97、98)。
このアーティストたちは別府市にある私立・立命館アジア太平洋大学(APU)の吹奏楽サークルのメンバーで、ツアーのお見送りのためにわざわざ足を運んでいただいたとの事です。APUは国際学生の割合が50%にものぼる国際交流を主とした大学で世界109カ国・地域から来日した約3,000人の国際学生が在学しています。
私たちの目の前で、彼らの奏でるクラリネット、トランペット、テナーサックス、ユーフォニアム、チューバ、ドラムの演奏に酔いしれながら、別府を後にしました。
図97
図98
波に揺られる一日
別府を離れたにっぽん丸は、ほぼ1日以上をかけて太平洋を北上しながら仙台港を目指します。ツアー最終日である7月29日の早朝まで、あとは船の上でまったりとした時間を過ごします(図99~103)。
人生で一度はやってみたかった日本一周クルーズでしたが、素晴らしい思い出になったことは間違いありません。大洋に沈みゆく日を眺めながらの船旅は、忙しない日常生活の現実から一旦目をそらし、心身を整える最高の時間をもたらしてくれました。
さあ、次の旅はいよいよ世界一周旅行かなぁ。
図99
図100
図101
図102
図103
おわり
【前話】にっぽん丸でいく日本一周クルーズレポ3