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3443通信 No.358

 

三好耳鼻咽喉科クリニック ラジオレポート
ラジオ3443通信「ヘレン・ケラーに学ぶ」

図01


 耳・鼻・喉に関する病気を扱う「三好耳鼻咽喉科クリニック」の三好彰院長は、耳鼻咽喉の診療に携わって45年。今回は2014年12月にfmいずみで放送された内容を紹介します。
[An.…江澤アナウンサー、Dr.…三好院長]

ヘレン・ケラーに学ぶ
An.
 三好先生、グラハム・ベルは電話の開発に携わっただけでなく、三重苦の偉人ヘレン・ケラーを世界に紹介したと、聞かせていただきました。ベルやヘレンは、それまでの世界のいわば常識を変えるような業績を成し遂げたのかもしれませんね?
Dr.
 ただ、歴史の現実から言いますと、ベルやヘレンの偉大な仕事が知れ渡ってからも、聴覚障害や障害者に対する険しい道のりは、まだまだ続くんです。
An.
 と言いますと? 先生。
Dr.
 例えば、難聴児の教育にはベルの推し進めた、あくまで聴覚を最優先するコミュニケーションが最も優れているのか? 不自由な聴覚だけに頼らず、手話や指を使用した記号を活用する指文字はどうなのか。
An.
 たいへんな議論になりそうです。
Dr.
 いずれの手法も研究され、現在では決して優劣のつくものでないことは分かっているんですが。障害児本人の向き不向きや育った環境、周辺の状況にも左右され得ることです。ヘレンの場合に限ると、彼女は聴覚だけに頼っていたわけではなさそうです。江澤さんには何回かお話ししましたけれど、人間の感覚、つまり入力システムを「五感」と称します。
An.
 聴覚、視覚、嗅覚、味覚、触覚のことでしたね?
Dr.
 一般的に、人間は言語を介してコミュニケーションを取るので、五感のうち聴覚と視覚が重視されます。
An.
 五感の中でも嗅覚と味覚は「生命に近い感覚」、それに対し聴覚と視覚は「精神に近い感覚」でものを考える際に使用されるのでしたね。
Dr.
 さすがは一を聞いて十を知る江澤さん。ですからヘレンのような三重苦の人間は、聴覚、視覚が優先される通常のコミュニケーションが苦手だったんです。
An.
 よく理解できます。
Dr.
 一方、私たちのように聴覚、視覚にあまり困った経験のない人間は、それ以外の五感を活用できていません。ところが、そんな私たちでさえ、何の刺激もない真っ暗闇に放り出されると、聴覚や視覚以外の感覚がさえ渡ってくるような、不思議な気分を味わうことがあります。
An.
 聴覚や視覚以外の五感が補ってくれる、あるかもしれません。
Dr.
 ヘレンの場合も、そんな現象は見られたようで…。
An.
 聴覚や視覚以外の五感をフルに発揮させていた? 具体的にはどういうことでしょう。
Dr.
 例えばヘレンは、こう言っています。「日中の空気は軽く、においも軽く、全体の雰囲気に動きがあり、振動があるけれど。夜は静かで振動が少なく、空気は濃厚に重くなり、あらゆるものごとに動きがなくなる」
An.
 まるで詩人の感覚を言葉にしたみたいなすてきな表現!
Dr.
 外観上は障害が存在せず、一般的には五体満足と考えられる私たちは、むしろヘレンの感じ取っていた半分以下の現象しか、自分のものにしていないような気もします。
An.
 私たちが身に備わっている五感の性能を十分に生かして生活しているか、考え直す機会になると。江澤もそう、思います。
Dr.
 次回もヘレンのエピソードについて、ご紹介したいと思います。

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