3443通信 No.358
耳のお話シリーズ37
「あなたの耳は大丈夫?」15
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~
私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授)です。
その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。
音色……音には色があるのか
▼白やピンクの雑音
「黄色い声」とか「暗い声」などと、まるで音に色があるかのような、比喩的な表現が使われることがあります。
また、「色聴」と呼ばれる特別な感覚を持った音楽家というのも存在します。楽器の音やメロディを聴くと、赤や金色などの色を感じるというのです。
しかし、普通の人にとっては、音と色が直接に結びつくことは、あまりないといってよいでしょう。
ほかに、音にまつわる色のエピソードとしては、聴覚の検査で左右の耳の聴力に大きな差がある場合に、悪い側の耳の聞こえを測るため、かなり強い音をヘッドホンから出して聞かせることがあります。
すると、反対側の聞こえのよいほうの耳にまで検査音が届いてしまい、聴覚がそれに反応するために、肝心の悪い方の耳の聴力が正確に測れなくなるのです。
それを避けるために、よいほうの耳に雑音を聞かせ、一時的にわざと聞こえにくくする方法がとられます。このことをマスキングといいますが、このマスキングに使われる雑音の中には、ホワイトノイズとかピンクノイズと呼ばれるものがあります。
ホワイトノイズとは、低い周波数から高い周波数までの、すべての成分をほぼ同じ強さに調整して合わせ、作られた雑音です。白色光がすべての波長を含んでいくことから、こう名づけられました。
同様に、ピンクノイズは、高い周波数の音ほど弱くなるように配分して作られた雑音です。これも周波数が低い(波長が長い)音を赤い光になぞらえて、白より少し赤みを帯びたピンクにたとえて名づけられたのです。
▼音色とは音の個性
それでは「音色」とは、なんでしょう。JIS(日本工業規格)では「大きさ(ラウドネス)」と高さ(ピッチ)が同じふたつの音が、違う音として聞こえるとき、その違いが音色である」と堅苦しく定義しています。もっとわかりやすくいえば、ある音をその音らしくさせている個性や性格のすべてを指します。
音色は3つの側面から、言葉で表現できるといわれています。「美しさ」と「迫力」と「明るさ」です。
美しさについては、「美しい」「快い」「澄んだ」などと表現されます。迫力については「豊かな」「力強い」などと表わされます。明るさについては、「明るい」「はなやかさ」「キラキラした」などです。
ここでも、音を直接色にこそたとえないものの、多分に視覚的な言葉が用いられていることに気がつきます。
自分の感じた音や聞こえの感覚を、できるだけ相手に言葉で伝えられる能力があれば、聞こえの検査や相談、あるいは補聴器のフィッティングなどがスムーズに進むという利点があります。
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