2024年11月 No.357
三好耳鼻咽喉科クリニック ラジオレポート
ラジオ3443通信「聴覚障害者への偏見」
耳・鼻・喉に関する病気を扱う「三好耳鼻咽喉科クリニック」の三好彰院長は、耳鼻咽喉の診療に携わって45年。今回は2014年11月にfmいずみで放送された内容を紹介します。
[An.…江澤アナウンサー、Dr.…三好院長]
聴覚障害者への偏見
An.
三好先生、前回までヘレン・ケラーの三重苦のお話を伺ってきました。ヘレンは「目が見えない」「耳が聞こえない」「話せない」3種類の障害を抱えていました。私たちでしたら1つでも障害があったら、とっても大変だと思うんですけど、ヘレンは…。
Dr.
これらのいずれの障害をも克服して、同じような障害のために苦しみ、偏見に満ちた環境にあった人々のために、社会保障の改善に一生をささげたんです。
An.
「偏見」と言いますと?
Dr.
私の副業(笑)が耳鼻咽喉科なので、ことに聴覚の不自由な場合について、より具体的なご説明ができるんですけど(笑)。
An.
三好先生、聴覚が不自由だと、どのような偏見が付きまとうのでしょうか?
Dr.
1例として「視覚障害」は、はたから見てすぐに障害がある方と判断できることが、少なくありません。
An.
目の不自由な方の障害は、大抵すぐに気付けます。
Dr.
ご本人も隠す必要がありませんし、安全上の理由からも白いつえを活用するのは、合理的です。
An.
それに比べると耳は…。
Dr.
お年で、いかにも耳が遠そうに見える方はともかく、若い難聴者で補聴器の目立たない場合には…。
An.
はたから見て、そうした方の耳の障害に気付かないまま、私たちは不自由を強いてしまうことがあるかも、と。ちょっと心配になります。
Dr.
耳の聞こえない人間が通常の日常会話の中にさらされるというのは英語の苦手な私たちが、突然米国人だけの集団に放り込まれたようなもの。英語ができない劣等感にさいなまれているところに、ベラベラッとしゃべりかけられたら?
An.
江澤は無理です(笑)!
Dr.
耳の不自由な方が、何の配慮もなしに毎日の日常会話に巻き込まれるのは、そんな気分なんです。声をかけられても気付かないですし、会話の内容も何となく的を射ない。そうすると、会話の相手は…。
An.
難聴者の方を「注意不足だ」とか「誠意がない」とか、思っちゃうかもしれません。
Dr.
それどころか、会話の滞る難聴者の方は、理解力や能力の不足と勘違いされることも…。言いたくはないのですが、難聴者は知能の低い人間と誤解された時代だって。
An.
あったかもしれませんね(ため息)。
Dr.
偏見とはまさにそのことで、ヘレン・ケラーの時代、聴覚や視覚の不自由な方は能力の低い人間として、いわば差別されていたんです。
An.
その社会状況を、ヘレン・ケラーが!
Dr.
そうなんです。三重苦があっても、厳しい訓練によって通常の、いや通常以上に社会的な活躍ができる。今思えば当然の真実を、ヘレン・ケラーは実証したんです。本人の偉大な努力もですが、それを理解し支えた人材が、ヘレンのそばにいたことも、忘れてはなりません。
An.
アニー・サリバン先生のことですね!
Dr.
加えて背後に、あのアレキサンダー・グラハム・ベルが存在した。それが大切だと思います。
An.
グラハム・ベルって、電話を発明したり「マイ・フェア・レディ」の原作になったり。それだけでもスゴイのに! 三重苦の偉人であるヘレン・ケラーの教育にも、関わっていたんですね。