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2024年11月 No.357

 

耳のお話シリーズ36
「あなたの耳は大丈夫?」14
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~

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 私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授)です。
 その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。

音の色、音の形を聞き分ける
 音は「大きい(強い)・小さい(弱い)」、または「高い・低い」で聞き分けられますが、全く同じ大きさ、高さでピアノとバイオリンが演奏されたとしても、人の耳はその違いを聞き分けます。
 これは、それぞれの楽器が固有の音色を持っているためです。音の個性、特徴といいかえてもよいでしょう。人間の声だってそうです。人それぞれ異なった個性豊かな音色を持っています。

 さて、音に色はあるのでしょうか。

 年若い女の子たちの嬌声は、「黄色い声」と呼ばれます。また、聴力検査などに役立てるため、人工的に作り出した雑音も、「ホワイトノイズ」「ピンクノイズ」などと呼ばれています。
 この辺の秘密も探ってみましょう。

音の特徴を表現するための豆知識
▼音の「大きさ(強さ)」と「高さ」
 音の「大きさ(強さ)」と「高さ」は、混同して使われることが多いようです。テレビの音量が大きすぎるとき、「もっと低い音にして」と言うのは、正確な表現ではありません。「もっと小さく(弱く)して」と言うのが正しいのです。「低くして」は、甲高い高音でなく、太い低音にして、という意味で使うのが適切です。

 では、ピアノの鍵盤のどこかをたたいて、音を出したとします。この音の性質を言葉で表現するには、どうしたらよいでしょうか?

 まず、88個ある鍵盤のどれをたたいたかで「高さ」を表わすことができます。いちばん左端の鍵盤であればもっとも低い音、いちばん右端の鍵盤であれば、もっとも高い音です。この音の高さは、周波数(ヘルツ)で表します(図54)。

P.57 図54
 図54


 ピッチが高いとか低いとかいうのは、音の高さの感覚を表しています。
 音の「強さ」は、鍵盤をどれほど強くたたいたかで表すことができます。そっとピアノのキーに触れれば弱い音を、力をこめてたたけば、強い音を出すことができます。音の強さを測定するには、騒音計を用いて音圧を測り、デシベルという単位で表します。

▼音の大小と強弱の違い
 音の「大小」と「強弱」を同じ意味に解釈している人もいますが、ここで、その違いをはっきりさせておきましょう。
 たとえば同じ強さで弾いた、あるピアノの音を、聴力が正常な青年と難聴の老人のふたりが聞いたとします。青年の聴覚はそれを大きいと感じても、老人の耳には小さい音と感じられるのです。
 つまり、音そのものの物理的な量を「強さ」というのに対して、個々人が感じる音の大小の間隔を「大きさ」(音のラウドネス=うるささ)というわけです。

▼音の色って何?
 この音はバイオリンではなく、ピアノ以外のなにものでもないという、音の特徴のことを「音色」といいます。
 同じ高さ、同じ強さで2種類の楽器を弾いても、人の耳が楽器の別を聞き分けるのは、音色に違いがあるからです。それぞれ特有の音色があるのは、楽器の形や大きさによって生じる共鳴の違いによるものです。
 顔つきや体格が似た親子が声まで似ていることがあるのは、声を出すための音声器官である声道が似ているからです。

 ピアノのいちばん左端の音の基本周波数は27.5ヘルツですが、キーをたたいたとき、その周波数だけが出るのではありません。
 それが27.5ヘルツの純音だとしたら、なんとも味気ないものです。それより1オクターブ高い音(第1倍音)、2オクターブ高い音(第2倍音)などのいくつもの倍音が発せられるからこそ、ピアノらしい豊かな音になっているのです。

▼音の世界は四次元
 音の「大きさ(強さ)」「高さ」、そして「音色」の3つは、音の性質を決めるとき、もっとも基本となるものであり、音の3要素と呼ばれます。
 さらに、どのような音にも短い音、長い音といった時間の長さの特徴が含まれます。その意味では、音の世界は「強さ」と「高さ」と「音色」、そして「時間」の4つの要素で成り立っているよ次元の世界であるともいえます(図55)。
 聞こえの問題を相談するときなどには、こうした音の性質を表わす基礎知識を背景に、訴えたいことを整理して表現すれば、より適切なアドバイスやカウンセリングが受けられることでしょう。

P.59 図55
 図55

【前話】「あなたの耳は大丈夫?」13

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