3443通信3443 News

2024年10月 No.356

 

耳のお話シリーズ35
「あなたの耳は大丈夫?」13
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~

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 私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授)です。
 その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。

よりよく聞くための3つのポイント
▼「耳を澄ませる」とは

 音をはっきり聞きたいときに使われる言葉である「耳を澄ませる」は、聴覚的には二通りの解釈ができます。
 ひとつは雑音(ノイズ)を抑制して、音そのものがよく聞こえるようにすることです。うるさい場所で小さい音を聞きたいとき、人は唇に人差し指を押し当て「シーッ」といって周囲を静かにさせてから、音源のほうへ耳を傾けます。
 もうひとつは、先に述べた聴能を研ぎ澄ませる作業です。相手との会話の際に、相手の出方をある程度予測して、頭の中に幾通りもの答えを用意しておくのです。そして、相手の様子やその場の雰囲気なども参考にしながらドンピシャリの答えを選び取ることにより、相手の言葉を正しく「聞く」のです(図21)。

P.52 図21
 図21


▼環境をよくすることと聴力の補正
 おとろえた聴力をカバーして不自由なく日常のコミュニケーションを行なうためには、耳を澄ませる作業が必要です。即ち、①ノイズを抑えて音を聞き取りやすい環境を作り、②聴能を伸ばすことです。
 さらに、③補聴器を使って聴力そのものを補正することができれば、年をとって聴覚細胞が多少だめになっても、かなりの部分はカバーすることができるでしょう(図22)。

P.53 図22
 図22


 居間や学習の場では、なるべく邪魔になる雑音を排除し、自分に合った適正な補聴器を使って聴力を補正してもらうようにします。聞き取りの邪魔になるノイズについては後でくわしく述べますが、モーターが回転するブーンという音、低めのサイレンやチャイムの音、大勢の人の声が混じったガヤガヤとしたざわめきなどは、聞きたい音にかぶさってきて(マスキング)、聞こえなくしてしまう困った音の代表的なものです。
 そして、お年寄り自身にも積極的に人と関わる意欲を持って、聴能を伸ばしてもらいましょう。
「聞くことと話すこと」は人が人らしく生きるために大切なことであり、その機能を維持するためには、脳を使って人間関係の中に生きることがいちばんなのです。

【コラム】聞こえる悩み、聞こえない悩み
●聞こえすぎる悩み
 耳が聞こえにくくて悩むことに関しては、もっともなことなので不思議に思う人はいないでしょう。ところが、世の中には聞こえすぎる悩みというのもあるのです。
 年をとっても耳が遠くならないから、嫁さんが言う私の悪口がよく聞こえて……、というお姑さんの悩みもあるでしょう。しかしこれは、はたから見れば、ほほえましいシーンです。
 もっと深刻な聞こえる悩みは耳鳴りです。「キーン」とか「ブーン」とか「ザーザー」などの音が絶え間なく聞こえてイライラする、あるいは、昼間はそうでもないが、夜眠ろうとすると耳鳴りが気になって眠れないなど、耳鳴りに悩む人の訴えは多種多様です。

 人間は、誰でも体内に音をもって生まれています。心臓の拍動や、血液が流れる音などがそうです。普通はそれを聞きながらも、さほど気にすることもなく暮らしているのですが、なにかの拍子に気になり始めると、どんどん気になるようになってしまうようです。
 まれに、脳腫瘍などの病気が原因で耳鳴りがすることもありますが、検査してもどこにも異常が見つからない心因性のもの、つまり気のせいで起こるものも多いのです。

●耳鳴りの治療
 治療法としては、耳鳴りの音を特定して、その音より少し低めの周波数のノイズを補聴器で聞かせ、耳鳴りの音をマスキングして気にならないようにさせる方法があります。
 しかし、根本的な解決方法ではないので、なるべく耳鳴り音以外のことに注意を向け、気にしないようにするしかないでしょう。

【前話】「あなたの耳は大丈夫?」12

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