3443通信3443 News

2024年7月 No.353

 

三好耳鼻咽喉科クリニック ラジオレポート
ラジオ3443通信「ピグマリオンの時代背景」

20240619164111-0001


 耳・鼻・喉に関する病気を扱う「三好耳鼻咽喉科クリニック」の三好彰院長は、耳鼻咽喉の診療に携わって45年。今回は2014年9月にfmいずみで放送された内容を紹介します。
[An.…江澤アナウンサー、Dr.…三好院長]

ピグマリオンの時代背景
An.
 三好先生、バーナード・ショーはただの皮肉屋ではなく、生きていた時代の精神を反映して、しっかりしたバックボーンの下に世の中の事象を批判し続けた。そんな思想家としての一面も「ピグマリオン」から、うかがい知ることができる。そういうこと、なんですね?
Dr.
 さすが、1を聞いて10を知る江澤さん。バーナード・ショーの活躍した時期の英国は、産業革命直後の社会の貧富差の激しい、非常に不安定な様相を呈していました。ショーは1856年の生まれですが、マルクスがロンドンで「国際労働者協会」、いわゆる第一インターナショナルを設立したのが64年です。
An.
 それが共産主義なんでしょうか?
Dr.
 1848年、マルクスの出版した「共産党宣言」という書物中に「一匹の妖怪がヨーロッパを徘徊している、共産主義という妖怪が」との有名な言葉があります。そういう激動の英国を生きてきたショーの戯曲にも、どこかしらそんな社会的思想の影響が、にじみ出ています。江澤さんは「人形の家」って、ご存じですか?
An.
 ええ。子どもの頃、バービー人形のセットでおうちがありまして…。「人形の家」(笑)。
Dr.
 着せ替え人形のシリーズでしたよね!? アメリカで、バーバラという娘のために作製されたモデルが、全世界で流行になって。
An.
 先生。アメリカ製がバービー人形で、江澤の大切にしていたのは、リカちゃん人形でした(笑)。
Dr.
 ちょっと待ってください。私の言いたいのはリカちゃんでもバービーでもなく、ですね。ノルウェーの戯曲作家である、ヘンリク・イプセンの「人形の家」という戯曲です(笑)。
An.
 そういえば学校で習った覚えがあります。主人公の名前は確かノラ!子どもの頃ですから一瞬のら猫の名前かと(笑)勘違いしました。
Dr.
 北欧の旧家を描いた、愛と結婚の物語でして…。1879年に発表され、古いしきたりにしばられる家族制度を否定し社会へと船出する女性を描いたこの作品は、当時のヨーロッパに多大な反響を引き起こした、と言われています。バーナード・ショーも実は、こうした流れの中で「ピグマリオン」を書いたものですから…。
An.
 それじゃ、イライザとヒギンズ教授とのハッピー・エンドはあり得ない!
Dr.
 ショーはイライザに、ヒギンズ教授の特訓の後、英国のノラとなることを期待していたんです。淑女、レディとしての十分な教養を持つようになったイライザは、ノラ同様ヒギンズの家を出ていかなければならなかったんですよ。
An.
 イライザも大変(笑)。
Dr.
 ヘップバーン演ずるイライザは、甘いストーリーのミュージカルにふさわしくヒギンズ教授と丸く収まるんですけれども。それは…。
An.
 ショーの意図と異なる結末なんですね! お話をお聞きすると、ヘップバーンのロマンス映画も、いわば社会の鏡みたいな一面もある。そんな感想を抱きます。
Dr.
 ショーは、戯曲だけでなく、当時の文明批評を手がけていまして。中でもワーグナーの壮大な楽劇について興味深い評論を残しています。
An.
 そのお話も楽しみ!

[目次に戻る]