2024年6月 No.352
耳のお話シリーズ31
「あなたの耳は大丈夫?」9
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~
私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授)です。
その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。
聴力検査のじょうずな受け方
▼検査を受ける前に
聴力検査のヘッドホンの受話器は、右耳には赤いコード、左耳には黒あるいは青のものを装着します(図15)。まちがって装着するとオージオグラムに逆のデータが記録されてしまい、補聴器の処方や試用のとき問題が起きます。
図15
ヘッドホンがゆるかったり、外耳道の入口の中心からずれて装着されると、正確なデータが得られません。低い周波数の検査音は、隙間から漏れやすい性質を持つので、実際より悪い結果が出てしまいます。ヘッドホンの装着具合が悪いときは、検査が始まる前に申し出るようにしましょう。
難聴の人にとって、正確な聴力を測定することは、自分に合った補聴の機器を手にするための第一歩です。
通常は、右の耳から検査が始まります。しかし、右耳と左耳に明らかな聴力差があると前もってわかっているような場合、聴力のよい耳のほうから検査が始められます。聞こえの悪い耳がどちらなのかを、自分でも把握しておくとよいでしょう。
検査音の周波数は、1000ヘルツから開始されるのが普通です。それから順次、2倍の数の周波数(1オクターブ上)の検査音に変わっていきます。いちばん高い周波数の8000ヘルツの検査が終わると、もう一度、最初の1000ヘルツの音に対する反応が確認され、さらに低い周波数の音に移っていきます。今度は順次、半分の数の周波数(1オクターブ下)の検査音に変わるのです。
検査の始まる前に「聞こえたらボタンを押しなさい(あるいは手を上げなさい)と指示されます。これはかすかにでも聞こえたらという意味なので、はっきり聞こえなくてもボタンを押してかまいません(図16)。聴力レベルとは、その人にとって聞くことができるもっとも小さいレベル(最小可聴域)のことだからです。
図16
お年寄りの聴力検査をすると、どうも、かすかに聞こえたとおきには反応せず、十分に聞こえるようになってからボタンを押すことが多いようです。その結果、実際よりも聴力レベルの数値が大きい、つまり聞こえが悪いという、少々疑わしいデータが記録されることになってしまうのです。
正確ではないオージオグラムをもとに難聴の程度が判断され、合わない補聴器の処方せんを作られてはたいへんです。そんなことにならないよう、聴力検査を受ける前にも正しい知識と心構えが必要です。
【前話】「あなたの耳は大丈夫?」8