
2024年6月 No.352
学校健診シリーズ4
ラジオ3443通信「“つ”離れをおこす年齢」
ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
ここでは2012年6月26日OAされた、学校健診にまつわる話題をご紹介いたします。
78 “つ”離れをおこす年齢
An.
三好先生、前回のお話では、中耳炎は9歳を境として、病態が大きく変化するとか。本日は、そのお話の続きですね?
Dr.
江澤さん。中耳炎における、“つ”離れって言葉をご存じですか?
An.
“つ”離れ、ですか? 何のことでしょう、ね(笑)?
Dr.
急性中耳炎と滲出性中耳炎に、なりやすい年齢が子どもさんにはありまして、ですね。1歳、これはもちろん0歳も含めてのことですけど。1歳から9歳まで、なりやすい年齢と言われています。
An.
それからは子どもさんの体が、大人のそれに変化するからなんですね?
Dr.
さすが、1を聞いて10を知る江澤さん。それでは“つ”離れとは、どんな意味でしょうか?
An.
分かりました先生。1歳から9歳までは、年齢に“つ”という字がくっつきます。1つ、2つ……という具合に。でも10歳になると、10(とお)と呼ぶので“つ”は付かなくなる。つまり、子どもとは言えない年齢になることです!
Dr.
さすがは江澤さん。
それでは江澤さん、1歳から10歳までの年齢を呼ぶときに、“つ”という文字はいくつ、ついて来るでしょうか、ね?
An.
そりゃ先生、決まってますよ。1つ・2つと数えて行って、10(とお)じゃ“つ”はくっつきませんから。9つですっ!
Dr.
それじゃ試しに江澤さん。一緒に、指折り数えてみましょうよ。もしも、江澤さんの指の数が足りないようだったら、こちらから指を貸して上げても良いんですよ(笑)。
それじゃご一緒に。
An. Dr.
ひとぉーつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ! むっつ、ななつ、やっつ、ここのつ、とお。
An.
あらっ、指を10本使っちゃった。ってことは先生、1つから10までの数を数えると“つ”は10あるんですね!?
Dr.
「いつつ」に“つ”が2つ、含まれていたんですよね(笑)。で、“つ”離れをすると、人間は中耳炎になり難くなるんです。
An.
なんだか、納得したような、なんだかケムに巻かれたような……。江澤は奇妙な気分です。

Dr.
エヘン! 真面目なお話に戻ります。というわけで、子どもの体は9歳を過ぎると大人のそれに近付きますので、中耳炎に関連する耳管も大人の構造となります。このため、風邪などでのどに炎症が発生しても、そんなに簡単には耳管を通過せず、中耳腔にバイ菌が入り難くなります。その結果、10歳以上の年齢では急性中耳炎にはなりづらくなります。
An.
急性中耳炎になりにくいってことは、滲出性中耳炎からも縁が遠くなるんでしょうか?
Dr.
さすがは1を聞いて10を知る江澤さん。10歳以上では、たしかに滲出性中耳炎の頻度も、減少するんです。
An.
ってことは、逆に言えばその年齢に達するまでは、滲出性中耳炎の管理が重要なんですね?
Dr.
先にお話ししました通り、子どもさんでは自分の耳が聞こえないなんて、一度も考えたりしませんし。ほったらかしにされると、学校の成績は当然落ちますし……。
An.
授業でも、内容が聞き取れなかったら、ついて行けませんもの、ね。
Dr.
友達同士のコミュニケーションも、スムースじゃなくなりますから、一緒に遊ぶときにもなんとなくワン・テンポずれたりして。
An.
鬼ごっこじゃ、いつまでたっても鬼のままとか(笑)?
Dr.
それは冗談ですけど、子どもたち仲間の心の通い合いに差し支えることは、あります。このため、一種の仲間外れ状態におかれ、精神的に不安定になったりすることも、ゼロじゃありません。
An.
そんなに滲出性中耳炎では、聞こえが落ちるんですね?
Dr.
日常会話が聞き取りづらいくらいに悪化することも、決して少なくありません。このため本人が困るのは当然として、周りの人から見ていても、滲出性中耳炎の子どもさんはボーッとしていて、集中力に乏しいように見えます。江澤さん、ハナ垂れ小僧さんのお話を憶えてますか?
An.
えぇ、昔懐かしい、ハナから真っ青な2本のハナ水をぶら下げた、あのハナ垂れ小僧さん!(図2)

図2
Dr.
ハナ垂れ小僧さんって、なんとなくボンヤリしていて、反応が鈍いみたいな、その外観から来る印象がありますよね?
An.
一時代前の、ノンビリした時間のゆっくり進んでいた世相の、生き証人みたいに見えます。
Dr.
ところがそのボンヤリした外観は、実はハナ垂れに伴う滲出性中耳炎が原因で、耳の聞こえが鈍かったせいだろうと、言われます。
An.
えっ! じゃあハナ垂れ小僧さんの、成績低下はハナのせいじゃなかった……。
Dr.
滲出性中耳炎が関与していた可能性も、指摘されています。
An.
それじゃ、別にハナは垂れてなくとも、成績が下がるんですね?
Dr.
それどころか、幼児期の言葉を獲得する時期に滲出性中耳炎にかかっていると、言葉の習得そのものに差し支えるとさえ、言われてるんです。
An.
自分で自覚できない時期の子どもさんの滲出性中耳炎って、重大な影響を及ぼすんですねぇ。
Dr.
ですから、親御さんの観察だけじゃなくって、3歳児健診に滲出性中耳炎の検査が含まれていて、早めに検出できるようシステム化されているんです。
An.
その健診でチェックされた子どもさんは、耳鼻科医で検査し治療を受けるんですね。
本日も重要な興味深いお話を、ありがとうございました。
