2024年5月 No.351
水彩画と随筆54
絵・文 渡邉 建介
院長 三好 彰
はじめに
私の従弟である渡邉建介先生より、著書「水彩画と随筆」を拝受しました。渡邉先生は2011年に大学を退職後、その記念として描きためた水彩画をまとめた1冊目の画集を出版されました。
渡邉先生は、生涯を通じて水彩画を描き続けると決心し、2冊、3冊と版を重ねられて2019年に4冊目の発行と相成りました。
ご自身が訪れた世界各地の風景を、彩り豊かな水彩を用いて情感あふれる作品に仕上げられています。
本誌では、渡邉先生の珠玉の作品の数々をシリーズでご紹介いたします。
随筆名「がん検診」
人間にはさまざまな臓器に癌が発生する。がん発生にメカニズムはまだ完全に解明されていないが、癌遺伝子が種々の環境因子によって目覚めた時に発症するのは確実のようである。すなわち遺伝的素因がキーポイントになる。
私の体の中に祖先から引き継いだ遺伝子はどうやら消化器系の癌遺伝子が濃厚に組み込まれているようである。母方は母、祖父とも大腸癌であり父方は父と祖父は胃癌であった。
癌による死は死因としてはハッピーだと主張する人もいる。診断が下ってからよほどの悪性な癌でない限り1年ほど猶予があるのでその間にいろいろと人生の締めくくりの準備ができるというのがその論拠である。脳梗塞や心筋梗塞のように突然の死では何の準備もできない。たしかに80歳くらいで癌に罹患した場合はハッピーといってもいいだろうが母のように50歳前に発症となると話は別である。
私の知人の母親は80過ぎに膵臓癌で余命1年と診断された。
彼女は遺産相続対策をして、自分で葬儀屋の予約をし(生前に会員になると費用が10%OFFになる)1年後に他界した。
このような例を見ると同じ死を迎えるなら癌も悪くはないかなと思ってしまう。しかしできたら死の恐怖なく死を迎えられたらそのほうがいい。
私の義母は1か月前に96歳で他界した。前日までトンカツでもお寿司でも1人前をぺろりと食べ、元気に1人暮らしをしていた。ところがお風呂で心臓発作を起こし急死した。肺に水を吸い込んでいなかったことから即死状態だったようだ。100歳を狙っていたが、これ以上の死に様はないと思われる大往生だと思う。
癌死に対する考えは色々あるだろうが、もし予防できるなら、もし早期に発見できるなら努力をしてみたいと私は思っている。現在は各臓器に対する種々の癌マーカーが発見されている。血液だけで診断しようとすれば各種のマーカーを検査しなければならない。しかも残念ながら検出率はせいぜい20-30%である。そこで胃とか腸のように直接見る事のできる部位についてはファイバー検査が盛んに行なわれている。
もう15年くらい前になるだろうか、PET検査というものが登場した。ブドウ糖にアイソトープをくっつけて代謝の高い部位を検出しようというものだ。この検査は体中のあらゆる癌検出に威力を発揮する。問題は検査費用が高いという事であった。当時1回の検査費用が40万円くらいだったと思う。でもあの世にお金を持ってはいけないと思い、思い切って毎年検査を受けることにした。幸い最近はPET普及により10万円以下で検査を受けられるようになった。
ところが最近ビッグニュースが飛び込んできた。線虫の嗅覚を利用して検査をするという奇想天外な方法である。線虫は癌にかかった人の匂いが大好きだというのである。寒天平版の上に癌患者の尿を1滴たらすと線虫は一斉にその尿に集まってくるのが正常者の尿には集まってこない。95%の診断率というから驚きである。この事は2014年に九州大学の生物学部門のグループにより報告された。
きっかけはサバに寄生するアニサキスによる胃癌の患者を調べたところアニサキスは胃癌の部位にくらいついていたことからヒントを得たという事である。アニサキスは線虫の仲間なのである。この検査法の費用は数百円とびっくりする安価なもので検査時間も1時間半という画期的なものである。臓器は特定できないが癌があると分かればその時PETを行い部位決定すればいい事になる。まだ実用化されていないそうだが早く厚生省はこの検査法を認可して欲しい。そうすれば私も毎年アイソトープを注射する危険なPETの代わりにこの検査を受けたいと思っている。