2023年11月 No.345
耳のお話シリーズ24
あなたの耳は大丈夫? 2
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~
引き続き
私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授)です。
その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。
人の耳の老化は40歳ごろから始まる
▼聴力の低下は、ほんの少しずつ進む
聴覚の感度がもっともよいのは、青年期です。したがって、人間の平均的な聴力レベル(図3)である0デシベルは、耳に病気のない18歳から24歳までの人の聴力を測定して、基準を定めています。
図3
そして、おおむね40歳を過ぎるころから、ひとの聴力はおとろえ始めます。左の図を見てみましょう。加齢による老人性難聴は、低い周波数の音に対する感度よりも、高い周波数(2000ヘルツ以上)の音に対する感度から悪くなっていきます。聴力の低下は、急激にではなく、ほんの少しずつ進んでいくので、本人は気付づかないことも多いのです。しかし、70歳代になると高い周波数の音に関しては、ほぼ確実に中等度の難聴になってしまうのが普通です。
▼なぜ高い音から聞こえなくなるのか
それではなぜ、高い音から聞こえなくなり、しだいに低い音も聞こえなくなっていくのでしょうか。その理由は、蝸牛(図3)の有毛細胞の並び方と関係があるようです。
高い周波数を受け持っている有毛細胞は、蝸牛のいちばん手前にあります。それに対して、低い周波数を受け持つ有毛細胞は、奥のほうにあります。いちばん手前、つまり蝸牛の入口にある有毛細胞は、すべての音の周波数が通り抜けるため、振動刺激の被害を受けることが多く、摩耗するのも早いのではないかと考えられているのです。
ちなみに、騒音性難聴も、爆発音のような強大な音を瞬間的に聞いたり、激しい騒音に長時間さらされたりして、内耳の有毛細胞が損傷して起こるものです。
ディスコやヘッドホンの大音量による難聴も騒音性難聴の一種で、4000ヘルツ前後の高い周波数の聴力が落ちてしまいます。人間の聴覚は、4000ヘルツ付近がもっとも感度が高いからです。
老人性難聴も、ゆっくりと進行した騒音性難聴と考えられます。聴覚を使いすぎて、細胞が疲労することが原因で起こるのです。騒音のない孤島でひっそりと一生を過ごせば、文明の恩恵は受けられない代わりに、聴力はよく保護されるに違いありません。
▼若い妻より年上女房がいい!?
男性と女性とでは、男性のほうが聴力のおとろえが早いという報告もあります。
日常会話で小さめの声がどれほど聞きにくくなるかを、年齢を追って男女別に見てみると、男性は65歳ですでに補聴器を試す必要のあるボーダーラインに入ってきます(図4)。
図4
それに対して、女性ではまだしっかりと聞こえていて、70歳くらいまでなんとか補聴器なしでもやっていけるというのです。若すぎる奥さんと老後を暮らすには、この聴力差のことも頭に入れておく必要があるかもしれません。
つづく
【前話】「あなたの耳は大丈夫? 1」(3443通信 No.344)