2023年11月 No.345
英国紅茶シリーズ㉑
ラジオ3443通信「コバルトブルーの茶器に隠された謎」
ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
ここでは2013年11月19日OAされた、英国紅茶にまつわる話題をご紹介いたします。
137 コバルトブルーの茶器に隠された謎
An.
三好先生、前回はフレンチ・フライド・ポテトのお話から、ハンバーグ・ステーキの話題になって、それはもともとモンゴルの遊牧民のごちそうのタルタル・ステーキが背景に存在する。そう、伺いました。タルタル・ステーキは、西ではハンブルグを経てハンバーグ・ステーキとなり、東では朝鮮半島に伝わってユッケになった、とも伺いました。
先生、モンゴルの遊牧民というと日本人には2度の元寇のイメージが強くって、いかにも勇壮で武骨な軍隊の集団って感じです。
まさかお料理の歴史に、その名を留めているなんて。そういう、文化的な一面を有しているなんて、想像したこともありませんでした。
Dr.
江澤さん、延々と世界各地のさまざまな話題を語り継いでいる、このラジオ3443通信なんですが。
An.
毎回、世界の7つの海をはるばると航海している気分で、その都度新世界の発見に気付くんですけど。でも時々、「ここはどこ? 私はいずこに向かって進んでいるの?」って、すっごく不安になることもゼロではありません(笑)。
Dr.
もしかすると江澤さん。私たちの今現在のお話は、英国の紅茶の旅の話題の一環だってこと、すでに感付いているわけじゃありませんよね?
An.
ええっ先生。モンゴルの遊牧民の、世界最大の国家建設のロマンは、英国紅茶の旅の続きだったんですね!
いったい、どうして(笑)・・・・・・。
Dr.
中国から大量のお茶が英国に運搬されたとき、お茶を運ぶ船舶の荷物の中に中国の陶磁器が、たくさん積まれていたんです。
An.
それは先生、お茶とそれを煎れる道具とがセットで輸入されたせいでしょうか? セット販売ですと、お安くなる(笑)とか言って。
Dr.
お茶を大量に船舶に積み込んだとき、いかにたくさんの荷物ではあっても、荷物としてはとっても軽いんです。
すると7つの海を航海する船が、全体として重量不足になりますから、荒海を越えてはるかかなたまで遠征するには、不安定だったんです(図1)。
図1
An.
船が軽くて、ひっくり返っちゃう(笑)。
Dr.
ですから、お茶を積んだ船はバランスをとるために、バラストって言うんですけど船底に陶磁器のお茶道具を積み込んだんです。
An.
お茶の運搬船は、茶器のセットを重しとして、船底に敷き詰めたんですね(笑)?
それで船のバランスが安定したから、荒海を越えて英国までお茶を運ぶことが可能になったわけですね。ウソみたい!
Dr.
さて、そこで江澤さん。
モンゴルの遊牧民の世界国家が、この話題にどう関わっているんでしょうか?
An.
先生の今のお話の流れですと、紅茶のお茶道具にモンゴルが関係しているのかな、と。江澤の第6感が、そうささやいています。
Dr.
さすがは1を聞いて10を知る江澤さん。私たちが英国でも日本でも、紅茶をじっくり楽しむ場合、紅茶セットはどんな色づかいのそれが多いでしょうね。
An.
えーっと。白いカップや受皿に、青い模様の入ったしゃれた茶器のセットが、私的にはイメージです。
Dr.
そうです江澤さん。その通りです。
それではその、白い陶磁器のカップや受皿に青い模様が書き込まれているのは、いつ頃からの伝統でしょう?
An.
えっ先生。白い陶磁器に青い模様って、そんなに古い歴史があるんですか。ちっとも知りませんでした。
Dr.
陶器と磁器、厳密な区別は難しいこともあって、陶磁器と称していますが。
英単語で、『ジャパン』と言えば漆製品のことを指すのに対し、『チャイナ』という単語は陶磁器のことを意味します。
An.
それじゃ陶磁器は、中国製品の代表名みたいな感じ?
Dr.
その中でも陶器のことは『セラミック』、磁器のことは『ポーセリン』と呼ぶことが多いんです。
まぁ、厳密に区分するのは難しいんですけど。慣習的な呼び方、でしょうか。
陶磁器のもととなる土の質や焼き方、焼き上がった製品の性質などをもとに、この両者を呼び分けるんですけど。
An.
名産地も、それぞれ……?
Dr.
景徳鎮という、有名な町があります。
An.
江澤もその名前は、かすかに聞いたことがあります(笑)。
Dr.
ここは、磁器の生産に必要な固有の質の土が採取されますので、磁器の町という意味で『磁都』と呼ばれます。
それに対して、私たちがアレルギー調査を実施していた宜興(いーしん)という、江蘇省の町は陶器の生産に適した土が採取されたので、『陶都』と呼ばれています。
An.
『磁都』に『陶都』なんですね(笑)?
Dr.
その『陶都』である宜興でも、陶器の作成に必要な紫色の特有の土が。この土を『紫砂(しーしゃ)』と呼ぶんですけど。やはり使用しつくされて、もはや入手できなくなってしまいました。
An.
それじゃその宜興でも、陶器の新たな生産はもう難しい?
Dr.
私たちがこの宜興でアレルギー調査を開始した頃、町中(まちなか)の一角に紫砂の山が見えたものですが。
An.
山が消えてしまった(笑)?
Dr.
それどころか、その部分は掘り尽くされて凹地になってしまってます(笑)。
An.
景徳鎮でも宜興でも、新たな陶磁器の製作は不可能なんでしょうか?
Dr.
ふぞろいな陶磁器は、製作した後破壊して放棄されていました。
その跡地から、土の成分を掘り起こして、現在では陶磁器として焼きなおしています。
An.
この陶磁器が、紅茶の茶道具になったんですね? アレッ先生。茶道具特有の青い模様は、どこから来たんでしょうね。
Dr.
江澤さん。そこにこそ、モンゴル遊牧民の大国家・元がからんでくるんです。
お話は続く、です。