2023年10月 No.344
耳のお話シリーズ23
あなたの耳は大丈夫?
~大沼直紀先生(筑波技術大学 名誉教授・元学長)の著書より~
私が以前、学校医を務めていた聴覚支援学校。その前身である宮城県立ろう学校の教諭としてお勤めだったのが大沼直紀先生です。
その大沼先生による特別講演の記事『聴覚障害に携わる方々へのメッセージ』(3443通信No.329~331)に続きまして、ここでは大沼先生のご著書『あなたの耳は大丈夫?』より、耳の聞こえについてのお話を一部抜粋してご紹介させて頂きます。
気付きにくく、気付かれにくい、聞こえの遠さ
家族と一緒にテレビを見ていて、「もう少し音を小さくして」と言われたことはないでしょうか。もしもひんぱんに言われているようだったら、残念なことですが、あなたの耳は聞こえが悪くなっているかもしれません。
「耳が遠いんじゃない?」
「難聴なのでは?」
こんなことは、家族でも面と向かって言いにくいものです。聴覚に障害があるのにそのまま放っておくと、人とのコミュニケーションに支障をきたすことになります。自らのハンディキャップを認めようとしない人に、他人は何もしてあげたくないものです。
まず聞こえにくさを自己評価すること。そうして初めて周囲の人からの自然な支援だけでなく、聴覚を補ってくれる新しい機器などの恩恵を受けられることになります。
聞こえの程度を自己評価する
▼あなたの耳は大丈夫?
普段の暮らしの中で自分の聴力のおとろえに気がつくきっかけは、あまりないようです。高齢になって聴力の低下を自覚するのは、家族や周囲の人の自分に対するコミュニケーションの様子が変化したことを感じてから後が圧倒的に多いようです。
たとえば、あなたが家族と一緒にテレビを見ていて、
① ボリュームを上げすぎる
② 身を乗り出してテレビに近づく
③ どちらかに耳を傾けたり、手のひらを耳にあてがったりして聞く
④ ちょっとした物音や話し声を迷惑がる
といった行動をとり始めると、家族は難聴を疑い始めています。しかし、「テレビの音が大きいよ」「もう少し音を小さくしたら」と注意を促されても、自分で難聴の自覚がないと、不愉快な思いをするだけです。
① 声を大きくしてもらう
② 耳に近づいて話してもらう
③ 書いて伝えてもらう
これら難聴に対する対策も講じることができません。
次のページに難聴の傾向を自己評価できるように、チェック表を作ってみました。
図1
どこからが難聴? 聞こえの表し方
▼聴力レベルはデシベルで表す
そのくらい聞こえる状態を正常といい、どのくらい聞こえない状態を難聴というか、その決め方にはさまざまな考え方があります。とはいえ、国際的に共通する難聴の程度を分類し、定義する必要があります。世界保健機関(WHO)では、聞こえを6段階に分類する方法を考え出しました。
しかし、この定義は少し専門的すぎるので、ここではわかりやすく、正常な聴力のレベルから重度の難聴のレベルまでの程度を、正常、軽度、中等度、重度の4段階に分けました。
聞こえの程度は「聴力レベル」と呼ばれ、「デシベル(dB)」という単位で表されます。聞こえになんの問題もない健康な耳は、聴力に損失がないという意味で、0デシベルの聴力レベルといいます。
▼正常な聴力は25デシベル以下
しかし、0デシベルでなくても、平均聴力レベルが25デシベル以下であるなら、聴力は正常といえます。ここでいう「平均」とは、左右の耳の聴力の平均ではなく、片側の耳についての周波数ごとの聴力の平均を意味します。人の耳は「ピー」という高い周波数の音から、「ブー」という低い周波数の音までが、必ずしも同じレベルで聞こえるわけではないからです。
つまり、左右別々に、それぞれの耳の聴力の平均が求められるのです。たとえば、右耳の平均聴力レベルが0デシベルで、左耳の平均聴力レベルが35デシベルであったとすると、右耳は正常で、左耳は軽度の難聴であるということになります。
▼テレビの音量でわかる聞こえの程度
平均聴力レベルが小さい数値であるほど難聴の程度は軽く、大きい数値になるにつれて重くなっていきますが、テレビの音の大きさによっても、だいたいの聞こえの程度は予測できます。中等度以上の難聴の人が、正常な聴力の人に迷惑をかけずに、同じボリュームでテレビを見ようと思ったら、補聴器をつけたほうがいいでしょう。
図2
つづく