2023年9月 No.343
朝のスタッフ勉強会16
アレルギーと花粉症のお話16
~医学コミック8巻『愛しのダニ・ボーイ』より~
引き続き
当院では朝礼時にさまざまな資料を用いて、接遇や医学・医療についての勉強会を行なっています。ここでは、いま使用している院長監修のアレルギーに関する医学コミック『愛しのダニ・ボーイ』、その解説についてご紹介致します。
なお、解説含めたマンガも当院ホームページで無料閲覧できるよう準備中です。
46.アレルギー性鼻炎の対策と治療
ダニや花粉などによるアレルギー性鼻炎がこんなに増加した背景に、3つの要素が推測できます。
第一にアレルゲン側の要因です。つまり、ここまで書いてきたようなアレルゲン(アレルギーの原因物質)そのものの増加がそれで、アレルギーは抗原抗体反応ですから原因が増えれば結果も増加するのは、他の世の習いに同じです。
第二に人体側の要因である栄養条件の改善ですが、動物性脂肪・動物性蛋白質の摂取増加が関与しているものと考えられます。栄養の変化がアレルギーの成立にどうのように関わっているのか、これから解明される部分も少なくはないのですが、アレルギーの際に体内に放出されて症状を増強するロイコトリエンという化学伝達物質の原料であるアラキドン酸が、動物性脂肪や動物性蛋白質には多く含まれています。つまり動物性脂肪・動物性蛋白質をたくさん食べていると、アレルギーの症状はひどくなる可能性があります。
第三に媒体側の要因として、昔は大気汚染と誤認されていましたけれども、車社会の進行に伴う落下花粉の再飛散です。
第一のアレルゲン増加に関してですが、ダニについては住環境の改善をまず考慮せねばなりません。家を1軒建てるのに何千万円も費用が掛かるのに、アレルギーの原因となるダニを増加させるような住宅では困ります。これは逆の見方をするならば、もっとも経済効率の良いアレルギー性鼻炎治療と表現できなくもありません。花粉については、あらゆる工夫で暴露を少しでも避けることです。晴れた日の外出を避ける、外出時にはマスク・ゴーグルを活用する、花粉の付着しない衣服を多用する、帰宅時には花粉を払い落としてから家屋内に入る、家屋内を良く掃除して侵入した花粉を除去する、晴れた日の布団乾しを控える、などの心がけも重要です。
47.アレルギー性鼻炎の対策と治療(2)
マスクやゴーグルの使用はアレルゲンである花粉の鼻内への侵入を予防し、抗原抗体反応であるアレルギー性鼻炎発作自体を抑制します。この事実の応用として、レーザーによる鼻粘膜焼灼手術が実用化されています。これは中出力レーザーを、アレルゲン暴露の最大面積部位である鼻内の下甲介にあててその表面を焦がし、抗原抗体反応の場である粘膜表面を薄く刮げ落としてやるものです。鼻粘膜が再生し再び抗原抗体反応を生じるようになるまで、約1年間の効果があると考えられています。
第二の人体側の要因ですが、動物性脂肪・動物性蛋白質の過剰な摂取を避け、青魚や野菜の摂取を心がけることが役立つとされます。これは、青魚にはロイコトリエンを抑制するエイコサペタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)が含まれているためです。また野菜は繊維ですから、後述する腸内での未消化・未分解の蛋白質を排泄する役目を担います。
未消化・未分解の蛋白質が腸内に停滞すると、本来ならばアミノ酸にまで分解されて吸収されるはずのこれら栄養素が大きな分子の蛋白質のまま体内へ侵入し、アレルギーを生じ易くなります。
その意味で、ビフィズス菌や乳酸菌には整腸作用と消化吸収を助ける機能があり、こうした未消化・未分解蛋白質の体内への侵入を防げる役割を担います。腸内細菌叢のバランスを改善することによって、人体に有益な作用をもたらす微生物ならびにその増殖促進物質をプロバイオティクスと称しますが、本文に出て来る乳酸菌製剤のLFKはまさにこのプロバイオティクスに当てはまっており、この作用ゆえにアレルギー性鼻炎に有効なのです。
48.アレルギー性鼻炎の対策と治療(3)
治療というものは大きく分けて、原因物質に着目する原因療法と、症状の発症を抑制しようとする対処療法とに分類されます。アレルギー性鼻炎における原因療法はアレルゲン対策ですから、ダニであれば住環境の整備、花粉でしたら吸入しないためのさまざまの工夫がそれに当たります。レーザーによる鼻粘膜焼灼手術もその意味では、原因療法に属する考え方と言えます。
それとはやや異なるのですが、アレルゲンを微量ずつ定期的に人体に投与して、人体をそれらに慣らしてしまおうとする治療が存在し、減感作療法と呼ばれます。これもアレルゲンに注目する治療法で原因療法の一つなのですが、実施には多少の困難を伴います。
まず、特定のアレルゲンを週1~2回ずつ何年間にわたって注射し続けねばならないこと。受診者にとって根気と時間の余裕が必要なだけでなく、体調により注射の濃度がわずかに異なっただけでショックを起こすことがあります。
しかもたとえばダニならダニだけに対して何年間か減感作療法を続けた後、スギにもアレルギーのある方はスギに関して一から注射を開始せねばなりません。
アレルギー性鼻炎は家族全員が同一の遺伝的要因と環境的状況の中にあり、例えばダニの多い家に住む家族はほとんどがダニ・アレルギーであることが少なくありません。ダニに対する住環境の整備は受診者本人だけでなく家族全員がその恩恵を受けるのに対し、減感作療法は家族全員が個々に何年間も通院を続けねばなりません。
根気と時間に余裕のある方以外には、必ずしもお勧めできる治療法とは言い難いような気もします。
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「アレルギー性鼻炎と大気汚染」(宮城耳鼻会報 82号|3443通信 No.312)