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2023年8月 No.342

 

仙台フィルハーモニー管弦楽団
創立50周年感謝祭 鑑賞レポ

秘書課 菅野 瞳

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 2023年4月15日(土)、仙台を代表する杜の都のオーケストラ、仙台フィルハーモニー管弦楽団の創立50周年感謝祭が行われました。仙台市民のみならず、宮城県民からも、いえ全国民から愛される通称“仙フィル”は、1973年に宮城フィルハーモニー管弦楽団として誕生し、1989年に現仙台フィルハーモニー管弦楽団に改称しました。
 当院院長は長年サポート会員として仙フィルを支え続けており、感謝祭へのご招待を頂きました。頂いた招待状には、初の試みでは? と思われる体験コーナーの案内があります。

『大人の指揮者体験コーナー』そしてもう1つは『舞台上鑑賞コーナー』です。

 私が今までに、院長代理として出向いた演奏会では、お子さんを対象にした指揮者体験が度々行われていました。

「タクトを振ってみたい人~」という団員からの投げかけに、威勢のいいお子さんは元気に挙手をしていましたが、今回は大人限定の指揮者体験です。さて、威勢よく元気に挙手をする大人さん(笑)はいらっしゃるのでしょうか?
 そんな楽しみをも内に秘め、仙フィルの本拠地<日立システムズホール>に向かいました。本日の演奏会は「三度の飯より仙フィルの演奏!」という方が、大勢いらっしゃいます。やはり会場は、予想通りの満員御礼です。

 開演時刻を迎え、感謝祭のプログラムが説明されている最中、会場のあちらこちらから、え~っと感嘆の声が上がる一幕がありました。なんとも驚き! 本日の演奏会は、指揮者を立てずに演奏をしますとの発表が……。あれ? 招待状には確か、大人の指揮者体験コーナーとの記載があった筈です。それが、指揮者なしとは大胆な……この全く予想だにしない、楽団が仕掛けるとても斬新な試みに心が躍りました。

 私は幼少期にピアノを習っていましたが、その時分に“メトロノーム”という音楽用具を初めて知り、こんなにも正確にリズムを刻むものがあるのか、と感心したのを覚えています。メトロノームがあれば、司令塔となる指揮者を立てずとも、音楽は成立するのでは? などと思ったものです。リズムやテンポをキープするだけであれば、確かにメトロノームがあれば充分です。でもそれだけでは、音楽というものがとても単調になってしまいます。私は決して指揮者を志したわけではありませんが、思いがけず指揮者という存在の重要性を、自分なりに考えた時期がありました。私なりに、寝る間も惜しんで?(笑)指揮者の重要性を考え、その曲ごとに内在する感情を引き出す役割、これを担うのが指揮者なのではないかという答えに辿り着きました。

「本日の演奏は指揮者不在で行います!」との重大発表の後に、私自身が思う指揮者の重要性を、熱く熱く述べてしまいましたが(笑)、最初で最後の機会になるかもしれないであろう仙フィルが奏でる指揮者不在での演奏を、心行くまで楽しませて頂こうと思います。

 演奏開始直前には「皆さんに発表をしたのは良いですが、実際のところ指揮者不在での演奏、とても緊張しますね」と、団員の方々は仰っていましたが、いざその状況下での演奏は、そんなイレギュラーを微塵も感じさせない流石にプロ集団の一致団結した演奏が奏でられていました。そして指揮者不在での演奏の後には「指揮者がいない方が、気を遣わずのびのび演奏が出来る気がしますね」と、観客の笑いを誘っていました。
 余興ともいえる、指揮者不在での演奏を楽しませて頂いた後は、いよいよ『大人の指揮者体験コーナー』です。
 私は「待ってました~!」と叫びたい気持をグッとこらえ、この体験を希望される大人さんの挙手を是非拝見したいと思っていました。

「——えっ!?」

 次の瞬間、あちらからもこちらからも、続々と挙がる手が見えます。よくよく確認をしてみると、指揮者体験への熱い想いで、自前のタクトを挙げアピールされている方がいらっしゃるではないですか。そして多数の希望者の中から、選ばれし3名の方が、指揮者体験者代表として壇上へ上がり、各々の個性を溢れんばかりに発揮されて、指揮者顔負けの演奏を引き出されていました。
 お一人の体験者は「楽団を率いてタクトを振ることが自分の昔からの夢だった」と仰っており、体験後に浮かべていた感無量の表情が、とても印象的でした。

 斬新な体験コーナーから口火を切った本日の感謝祭。次はこれまた私が知る限り初の試みと思われる『舞台上鑑賞コーナー』です。

 楽団スタッフの説明によると、ただ壇上で演奏を聴くことが出来るだけではなく、なんと奏者のすぐ横で鑑賞することが出来るという体験のようです。選ばれし体験者の方は、プロが出される生の音に感動を覚え、身震いが止まらないと感想を述べていました。
 仙フィルサポーターを「これでもか!」という程に悦ばせ、盛り上げて頂いた第一幕が終わり、小休憩を挟んで第二幕のスタートになります。これだけの演出をして頂き、ハードルはだいぶ上がっていますが、第二幕はどのような演奏を披露して頂けるのでしょうか。

 第二幕の開始と同時に、壇上中央には楽器のような物?が用意されました。第二幕のスタートを飾る曲は『鍛冶屋のポルカ』です。何度となく聴かせて頂いているこの曲は、旋律自体に特色がある訳ではないものの、曲の要所要所で叩かれる鉄板の音色が心地よく耳に残る曲だなと感じていました。
 鍛冶屋を連想させる鉄板を叩く音。本日の演奏では、一体何が叩かれるのだろうと思っていた矢先、第二幕のスタート時に登場した、楽器のような物?がその正体(鉄板)だと判明しました。

 そしてこの鉄板の正体……それは、東日本大震災で被災した三陸鉄道で実際に使われていた線路だと言うのです。この発表があり、本日2度目のどよめきが起こったことは言うまでもありません。この鉄板は元仙フィルの副指揮者でいらした松元氏の発案により『ポルカ』に合う音程で特別に制作された楽器なのだそうです。

 以前、私は広報誌No.337の中で、三陸鉄道に触れた記事を認めました。地元民に愛され、地元民の足として寄り添い続ける三陸鉄道の線路から発せられる音色。鍛冶屋のポルカ、いえ三陸鍛冶屋のポルカ?(笑)は、きっと温かみのある懐の深い音を出してくれるのだろうと、俄然演奏が楽しみになりました。
 目を閉じポルカに聞き入っていると、ふとホワイエに飾られていた東日本大震災時の写真の数々が思い出されました。仙フィル楽団員の方々は、常日頃から地域に根ざしたオーケストラであり続けたいと仰っています。

 2011年3月11日に発生した東日本大震災は、仙フィルが根付く地域に莫大な被害を及ぼし、楽団の本拠地である<日立システムズホール>も大きく損壊しました。
 そのような中で、自分たちに一体何が出来るだろうと考えた時に「やはり私達には音楽しかない! 被災地に音楽を届けたい!」という想いから、避難所での演奏会をボランティアで行い、被災地に寄り添ってきたのだそうです。団員の方々のその想いは、飾られていた何枚もの写真に、色濃く表れていました。

 頂いたプログラムに目を通し、本日の演奏曲に“ポルカ”があることは存じていましたが、この曲に使われた鉄板が、東日本大震災に絡むものだということを、誰が予想したでしょう。楽団の構想力の高さに、改めて感心しました。本日の予定演奏曲を順調に終え、会場の皆さんは感動を胸に、帰路に就きました……と言いたいところですが、誰一人として席を立たないことを、私は知っています(笑)。素敵な演奏を届けて下さった楽団への労い、そしてそしてもう少し演奏を聞いていたいです! のリクエストを込め、どこからともなく、アンコールを促す拍手が鳴り響きます。

 このアンコールに応えるかたちで、私の大好きな楽曲『フィドル・ファドル』が演奏されました。

 この曲は、ステップを踏み出したくなるような軽快なリズムが心地良く、仙フィルと言えばこの曲! と言っても過言ではない、見事なフィドル・ファドルが演奏され、満場の観衆から拍手喝采を浴び、幕を閉じました。
 感動の渦に包まれた、仙フィルの50周年感謝祭は、楽団からサポーターへの感謝が、痛いほどに伝わる、感無量の演奏会となりました。杜の都仙台を代表する“仙台フィルハーモニー管弦楽団”の、益々のご活躍を祈念致します。

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