2023年8月 No.342
朝のスタッフ勉強会15
アレルギーと花粉症のお話15
~医学コミック8巻「愛しのダニ・ボーイ」より~
引き続き
当院では朝礼時にさまざまな資料を用いて、接遇や医学・医療についての勉強会を行なっています。ここでは、いま使用している院長監修のアレルギーに関する医学コミック『愛しのダニ・ボーイ』、その解説についてご紹介致します。
なお、解説含めたマンガも当院ホームページで無料閲覧できるよう準備中です。
43.ダニの増えたわけ(5)
寒冷地のログ・キャビンをルーツとする高気密住宅の暖房はその由来を反映し、厳寒地の外気の寒さに対抗できるようすべての部屋を24時間暖める。全室暖房・連続暖房が普通です。そうすると屋内の空気は一定の温度に保たれ、湿度も低いままに抑えられるので乾燥し、やはりダニは生存できません。
開放型住宅では冬の寒さをしのぎ切れず、脳卒中などの病気になり易いことを知った日本人が、近年高気密住宅に住むようになったのは当然の流れと言えます。しかし、開放型住宅の局部暖房・間欠暖房の習慣をそのまま高気密住宅での生活に持ち込んでしまったことにこそ、家屋内にダニの増加した原因があります。
空気は温かいほど水分を多く含み得る(図7、8)ので、室温が高いと相対的に湿度は低くなりますし、逆に室温が低いと湿度は高くなります。つまり高気密でしかも高断熱の住宅では、全室暖房・連続暖房ならば室温が高く湿度は低いことになります。ところが局部暖房・間欠暖房にすると部屋全体の温度を上げきれず、湿度も高い状態となります。
図7
図8
それを実例で示したのが図8で、北海道のある住宅における部屋の真ん中の環境と押し入れの環境の比較です。つまり同じく1kgの空気の中に8gの水分を含む状態ならば、部屋の真ん中の22℃の場所では相対湿度は50%でダニは生存できないのに、押入の11℃の状況では相対湿度は80%にもなり、ダニの繁殖に最適の環境となる事実を示しています。
44.ダニの増えたわけ(6)
このように、昔ながらの日本家屋ならば冬季の寒冷で乾燥した空気が屋内を満たし、ダニの卵や幼虫が冬を越すことができなかった状況と、現在の住宅の状況とは大きく異なっていることが理解できます。つまり、近年の高気密住宅に昔ながらの局部暖房・間欠暖房の生活習慣を無意識に持ち込んだため、屋内の温度が一定とならずその結果相対湿度が冬でも高いままの状態となっています。屋内の住み済みで結露の観察されるのが何よりの証拠ですが、これはその部分で相対湿度が100%をこえていることを示しています。こうした結露は多くが前項のような押入のすみっこであったり、家具の裏であったりします。また水周りや窓にも結露の見られることがありますが、これはそうした部分の気温が低く相対湿度が上昇し易いことが原因となっています。
滑稽なことに、冬は空気が乾燥しているとの固定観念から、そうした室内でストーブにやかんをかけ湯気を出させたりすることさえあります。屋内の相対湿度が一層上がり、ダニの生存により快適な環境を作り出す結果となります。
こうしてダニの卵や幼虫は冬を越し、翌年の夏には成虫となりますから、ダニの激増するのも無理はありません。
相対湿度上昇の目安は前述のように結露ですが、その対策は可能でしょうか。
各家庭の家屋構造まで踏み込んだ話はできませんが、水周りはなるべく密閉できるようにすること、窓は二重窓とし窓枠を非金属とすること、家具の裏はそこだけ空気の冷たくなることのないよう部屋全体を連続暖房としておくことで、ある程度改善は可能です。
ただし壁の中に金属の柱が組み込まれていてそこだけ断熱材が欠如している場合には、家屋構造そのものの欠陥と言えそうです。
45.ダニの増えたわけ(7)
高気密高断熱住宅の普及と、その住宅の特徴に矛盾する局部暖房・間欠暖房の習慣以外にも、近年の住環境にはダニの増加する要因が多く見られます。
その際たるものとして、たとえばマンションを挙げることができます。なぜならマンションはコンクリートで出来ていますが、完成後1年間はコンクリート内部から水分の放出が続くのです。この染み出した水分は、床にじかに敷かれている畳などに吸い込まれ、ダニの生存に最適な状況を形づくります。
畳は、先に述べたような在来の日本家屋のあら床に敷かれ、空気の通り抜ける状態ならば中の湿度は低く保たれていて、ダニは生存しづらいのです。けれども最近のマンションのように床にじかに敷かれると、ダニの巣窟になる可能性があります。おまけに畳の上にカーペットを敷いてあったりすると、ダニの繁殖にはより適していることになります。
マンションには、ダニの好む布団を干して死滅させるための場所を確保しにくいという事実も、屋内のダニを増やす要因となっています。
話しは変わりますが、布団を干す場合、午後3時までに取り込むのが原則で、これはそれ以降の時刻は温度が下がり相対湿度の上昇することによります。
同じマンションの中ならば、階数の低い方が高い階よりも湿度は高く、ダニは住み易いようです。地面から立ち上る湿気の影響を、低い階ほど受け易いからです。
さらに家人が家の中に要る時間の長いほど、換気の回数は多くなり屋内の湿度は下がります。ところが密閉度の高いマンションで閉め切ったまま留守にする時間が長いと、台所や洗面所から蒸発した水分で屋内の湿度は上昇します。
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「アレルギー性鼻炎と大気汚染」(宮城耳鼻会報 82号|3443通信 No.312)