2023年7月 No.341
サヨナラSL銀河! 機関車で行く花巻・遠野の昭和レトロツアー
院長 三好 彰
はじめに
とある旅行会社のパンフレットの中に、気になる内容を見つけました。
『サヨナラSL銀河乗車 昭和の学校見学ツアー』と題したそれを見て、今は亡き文豪・宮沢賢治の代表作『銀河鉄道の夜』を思い起こしました。
早速、旅行会社に問い合わせをすると、かなり人気のツアーなのかすでに多くの希望者が予約しておりキャンセル待ちとなるも、運よく参加することが出来ました。
昭和の学校
新緑の映える5月初旬。当院の連休初日にあたる5月4日(木)、私は旅行会社が手配する泉区区役所発のツアーバスに乗り、岩手県花巻市内にある山の駅『昭和の学校』を訪れました。
花巻市内から北西へ車で20分ほど。
豊沢川沿いにある花巻温泉郷(山の神温泉)の一角に、廃校となった旧前田小学校舎を利用した山の駅『昭和の学校』があります(図1)。2014年にオープンした当ミュージアムには、校長の照井正勝氏(NPO法人いわて・ふるさと倶楽部代表)が東北各地を巡り集めた20万点を超えるノスタルジー溢れる収集品が展示されていました。
図1 廃校を再利用したミュージアム『昭和の学校』
昭和を代表する三種の神器(テレビ、冷蔵庫、洗濯機)の現物や、いまは姿を消した自動三輪(恐らくダイハツ・ミゼットMP5型。図2)に始まり、古本におもちゃなどの懐かしいアイテムが、昭和30年代頃の花巻市内の商店街を模したエリアに陳列されています(図3~8)。
この時代を過ごした世代にとっては、古き良き時代の薫りが感じられます。
図2 昭和が生んだ庶民の足であるオート三輪
図3 薬品棚には今でも残る有名な薬もありました
図4 映画ポスターやパンフレット
図5 いまにも割烹着姿の女将さんが出て来そうです
図6 駄菓子屋(左)と床屋さん
図7 こちらは本屋さん
図8 蕎麦屋の前に立つ(?)ジャイアント馬場
復活したマルカンビル大食堂
場所は変わって花巻市内へやって参りました。
ここは花巻市民に親しまれたJR花巻駅前のマルカン百貨店。惜しまれつつも閉店したのが2016年6月のことでした。子どもから年配の方まで地元のホットスポットとして活用されてきたお店がなくなるのは寂しすぎるとの声が多数あがり、若手経営者たちが立ち上がり、特に大人気だった6階の大食堂(と1階部分)が2017年2月に再オープンしました(図9)。
図9 マルカンビル大食堂
昭和レトロの雰囲気を残した食堂には今でも多くの利用客が集まり、百貨店時代からの定番メニューであるナポリタンにカツが乗った『ナポリかつ』(図10)や、箸で食べる高さ25センチの10段『ソフトクリーム』(図11)が人気を博しています。
図10 定番メニューである『ナポリかつ』
図11 食べ方にコツがいる10段ソフトクリーム
SL銀河の雄姿
一行はマルカンビルを後にし、今回の旅の主目的の一つであるSL銀河へ乗車するため、遠野駅へと向かいました。
駅舎を抜けてホームに出ると、そこにはSL銀河こと国鉄C58型蒸気機関車が停まっていました(図12)。その見た目はまさに陸を走る黒鉄の城。工場を思わせるパイプ類が円筒形のボイラーの表面を走り、重々しい3軸の動輪が強烈な迫力を放っています。機関部正面に付けられた青と金がアクセントのSL銀河のヘッドマークが、どこかお洒落な雰囲気を醸し出しています。
図12 本号の表紙を飾るSL銀河
本型(C58-239)は1940年6月に川崎車両(現・川崎重工業車両カンパニー)で製造され、名古屋鉄道局、奈良機関区を経て岩手県の宮古にやってきました。その後も盛岡、八戸と転線し、1973年5月に岩手県営運動公園内の交通公園で静態保存されました。
2011年3月の東日本大震災の発災後、観光復興の目玉として当機関車を復元させることが予定され、2013年12月に約41年ぶりにボイラーに火が灯り、2014年4月12日からSL銀河としての運航が始まりました。
鉄道ファンのみならず懐かしさを覚える年配層、また物珍しさを感じた若年層などの衆目を集めた本列車ですが、製造から70年近くが経ち、すでに製造終了した部品などを検修庫内の機材で手作りされるなどスタッフの熱意によって維持されて来ましたが、老朽化のため2023年6月の運航を最後に再び引退することが発表されました。
力強いSLサウンド
黒煙を吐き出し準備万端のSL銀河に乗り込み、遠野-花巻駅間を約1時間30分の行程で走破します(図13、14)。
機関車にけん引される客車は4両。
先頭から後方車両にかけては群青色から薄い青にグラデーションがかかっており、これは夜が明け、朝へと変わりゆく空をイメージしているとのこと。その表面には『銀河鉄道の夜』に登場する星座をモチーフにした動物などの絵が描かれ、夜空に瞬く金色の星灯りのように見えます。
図13 客車の様子
図14 釜石線の眼鏡橋
また各車両内にはそれぞれコンセプト別の資料館(図15)となっており、それらを手に取り宮沢賢治の世界観に触れることもできます。
多くの人々の想いを乗せた歴史が、また一つ時代の波に消えていきました。
図15 SL銀河の解説
図16 ラストランを飾ったSL銀河(新聞記事より)
参考URL:https://tetsudo-shimbun.com/article/topic/entry-3225.html(新聞鉄道)