2023年6月 No.340
朝のスタッフ勉強会13
アレルギーと花粉症のお話13
~医学コミック8巻「愛しのダニ・ボーイより~
引き続き
当院では朝礼時にさまざまな資料を用いて、接遇や医学・医療についての勉強会を行なっています。ここでは、いま使用している院長監修のアレルギーに関する医学コミック『愛しのダニ・ボーイ』、その解説についてご紹介致します。
なお、解説含めたマンガも当院ホームページで無料閲覧できるよう準備中です。
37. ドクター・ヘリの「花粉症インチャイナ」
私たちは1988年以来、毎年北海道白老町の小中学生を相手に学校健診を実施しています。そもそも白老町は、幕末の1856年に幕府の蝦夷地警備の命令のもと仙台藩が陣屋を築いたのが町の始まりなのですが、白老町に陣屋を置くよう決定したのが著者つまり三好彰の5代前の先祖にあたる三好監物だったのです。そんな白老町に耳鼻科医が一人もおらず、町の小中学生が学校健診を受けられないことを知って、私が健診に赴くようになったのです。
その白老町と苫小牧市は隣接しています。私たちは学校健診の合間を縫って、西本先生のクリニックにお邪魔しました。
西本先生は間違いなくご自身がスギ花粉症であることを証明する意味で、日本杉(Cj)に対する血液検査を済ませておられ、その結果は18.35IU/mlと明確に陽性反応を呈していました。
西本先生は広島のご出身で、以前からスギ花粉症の発作を繰り返していました。10年ほど前から苫小牧市で開業しておられ、血液検査でこそスギに陽性でしたが、この10年間発作は経験しておられないとのことでした。
西本先生が中国成都市で柳杉つまり中国産スギ(Cf)による花粉症発作を発症したことは間違いありませんでしたので、私たちはさっそく鼻粘膜誘発検査として昆明のCf花粉を鼻内に塗布しました。
すると直後より水っぱなが出現し、鼻閉と鼻内の強烈な掻痒感が発生しました。鼻内から鼻水を標本として採取し顕微鏡で観察すると、好酸球というアレルギーの証拠細胞が見つかりました。
まぎれもなく日本杉(Cj)の花粉症の人は柳杉(Cf)にも反応して発作を引き起こすことを証明し得たわけで、これはつまりCjとCfとが同一属同一種であったことの再確認であると、断言できます。
38. ダニによるアレルギー
ここまではアレルギー性鼻炎の中でも、花粉がアレルゲンとなる花粉症について、主に述べて来ました。
しかし、アレルギー性鼻炎はもちろん花粉だけが原因となっている訳ではありませんし、それ以外のアレルゲンについて理解しておくことも必要です。そして実際アレルギー性鼻炎では、アトピー性皮膚炎や気管支喘息など他のアレルギー疾患と同様、ダニがアレルゲンとなっているものも少なくはありません。
現実に私たちはスギ花粉飛散量のすごく多い、日光国立公園内に位置する栃木県栗山村でも調査を実施しています。すると少なくとも小中学生の年齢層では、この村の全児童生徒のスクラッチテスト陽性率はスギ花粉の25.2%に対し、ダニが31.2%と馬鹿にできない数値でした。
そしてアレルギー性鼻炎も含めてほとんどのアレルギー疾患で、ダニはより重要なアレルゲンと考えられています。
このダニによるアレルギー疾患の増加も話題になっていますが、スギ花粉と同じようにダニは増えているのでしょうか。
その答えはまちがい無く、イエスです。
私たちの共同研究者である、高岡正敏・埼玉県衛生研究所主任研究員のデータによりますと、1960年代から1970年代そして1980年代へと、家屋内のダニの量は明らかに増加しているのです(図1)。
図1
39. ダニの増えたわけ(1)
前項のように、ダニ・アレルギーの原因であるダニそのものが増えているのならば、ダニによるアレルギーが増加するのは当たり前です。ダニと並んでアレルギー増加の要因とされるハウスダスト(HD)も増えているのですが、HDの主成分はダニの糞や死骸ですから両者によるアレルギーは同時に増加します。
ダニの増えた原因は、戦後の復興期に不足した住宅を供給するために、数多く建てられた公営鉄筋アパートなど密閉型住宅の普及、ならびに新建材の多用との関連が考えられています。確かにダニの増加に一致するように、アルミサッシの開発やビニールシートの壁紙みたいな建材が出現しているようです(図1)。
これら新建材の多用や密閉型住宅の増加は、果たして実際にダニを増やす原因となっているのでしょうか。またそれには、どのようなメカニズムが働いているのでしょうか。
こうした住環境の変化で普及した、人間の住み易い住宅はダニにとっても繁殖し易い状況なので、それでダニがはびこるのだという意見も、良く耳にします。
それはホントに本当なのでしょうか。
アレルギーの原因となるダニはヒョウヒダニと言って、チリダニ科の一種です。このヒョウヒダニの家屋内における繁殖について論じる場合、ダニの特性を考慮せねばなりません。
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「アレルギー性鼻炎と大気汚染」(宮城耳鼻会報 82号|3443通信 No.312)