2023年4月 No.338
グローバル・ファンド 戦略投資効果局長
【再】國井修先生の特別講演を行いました3
3443通信No.336から引き続きまして、院長の古くからの友人であり、院長が世界一尊敬する医師・國井 修(くにい おさむ)先生の特別講演の内容をご紹介いたします。
前号のあらすじ
個人による援助活動の限界を感じた國井先生は、国連の一機関であるUNICEF(ルビ:ユニセフ)(国連児童基金)に活動の場を移します。
そこで直面したのは、ミャンマーを襲った巨大ハリケーンによる大規模水害の壮絶な被災現場でした。
頑強なはずの避難場所は吹き飛び、国土の標高が低いために国自体が水没し、蜘蛛の巣上に張り巡らされた大小多くの河川が交通網を寸断していました。
また軍事政権による制限も効率的な支援活動の妨げとなる中、医療物資や生活必需品の提供、疫病を防ぐための教育を現地の人と共に周知していきました。
少数民族(図34)
実はミャンマーには135の少数民族があるのですが、この村々では災害とは関係なく普通に多くの人が亡くなっています。
こうした村々に住む何百万人の子供たちをどうやって救うのか。
実は、内戦が続くアフガニスタンの次に子供たちの死亡率が高いのはミャンマーなんです。
図34 ミャンマーの少数民族
山中行軍(図35)
こうした子供たちを救うのに先ずやることはワクチンの接種です。6種類くらいあるワクチンを接種するんですが、これがとても大切ですが非常に難しいんです。
それは何故か。ワクチンは打つ寸前まで冷蔵保存をしなければなりません。しかし車が通れるような道路なんて限られた場所にしかありませんから、写真のように氷を詰めた箱にワクチンを入れて、山の中を1週間かけて届けに行きます。
図35 道なき道を行く
渡河の様子(図36)
まるで探検隊のようにジャングルの急流を渡っていきます。
図36 急流を渡る輸送隊
像の背に乗って(図37)
場所によっては像に乗って山の中に入っていきます。
図37 像の背に乗って移動します
首長族と対面(図38)
写真は首長族の人たちですね。
こうした、言葉も習慣も違う人たちにワクチン接種の重要性を説き、現地のヘルスワーカー(地域の保険医)を育てて、その人たちを通じて住民を説得してもらうんですね。
注射にしても、体に針をさすと言うだけで怖がってしまうんですね。ワクチンの重要性は分かっているけど、注射によって子供が生まれなくなる、ひどいところではエイズになると言う変な噂がどんどん広がってしまうんです。
図38 首長族と一緒に
軍の高官との協力(図39)
ミャンマーでなぜ軍事政権が成立したのか、それの良し悪しは別として135もの少数民族を従えるには軍の力が不可欠だったんですね。
こうした地域で私たちが活動するには政治を味方に付けなければなりません。
どんな国でも彼らを敵に回してはいけません。どうするのか?
軍人の彼らにも子供がいます。その子供が病気になっては大変です。だからワクチンを打ちましょう。そしてこのワクチンで数多くの子供の命が助かるので協力してください、と言うんです。
そして協力している様子をカメラで撮って「将軍様もきちんとワクチンをあげています!」と、その映像を見ると嬉しいでしょう? それを逆手にとるんです。将軍さん一緒にやりましょう! と。
ただしやる時には、将軍さんに声を掛けてもらってすべての地域の人を動かして下さい。
特に年に3回位ワクチン・キャンペーンを実施して、この時にはすべての子供たちが受けられるように、号令を掛けて下さい。
写真の人は保健大臣です。彼らを動かすと町民も動きます。彼らが声をかけると全ての保健士さんたちも動きます。
図39 軍の高官に協力してもらいます
ヘリコプターを動員(図40)
そうすると、さきほど紹介した山奥の村まで軍のヘリコプターで運んでくれるんです。無料で協力してくれるんです。
私たちは、コペンハーゲンからワクチンをその国まで運んで、そこから先は現地の人たちに任せるんですね。そうすれば、我々が決して行けないような場所まで、彼らが行ってくれます。
ここで私たちが「ワクチン接種が大切だから意地でも行くんだ!」、かたや「そこは重要な軍事地域だから駄目だ!」となって「それは人権無視だ!」とケンカになってはダメなんです。
大切な地域だからこそ、皆さんの協力が必要なんですとワクチンを与えるんです。
我々は行かずに現地の人に任せます。ですが、しっかりとワクチンを打って下さいね、と言うんです。
図40 軍のヘリコプターを動員してもらいました
アフリカのソマリアへ(図41)
そうやっていても、やはりアフリカでは貧困でたくさんの人が亡くなっています。
ミャンマーは私が居た3年間でかなり状況が改善したので、学生時代に行ったアフリカのソマリアへもう一度行こうと思いました。
そして再びソマリアへと戻ってました。
この時点で、ソマリアは内戦が20年以上も続いていました。ここでも私がミャンマーでやったような事を展開したいと思って戦略を練りました。
図41 アフリカの実態
荒れ地を行く(図42)
ソマリアは写真のようなところです。これはまだ道路っぽいものがあるので良いですが、途中から道路はまったく無くなります。
それと周囲に生えているアカシアの木ですが、人の指くらいのトゲがあって車のタイヤにバンバン穴が開くんですね。
アフリカに行けば日本のトヨタの凄さが分かります。ランドクルーザーであればどんな場所へ行ってもほとんど故障しなかったですね。
図42 荒れ地を行く車両隊
空から目的地へ(図43)
車で行けないような場所へは、僕らは国連の飛行機で行きます。ただしこの飛行機も地上から撃ち落される危険があるんですね。
特にモガデシュなどの危ないところに行くときは、海側からず~~っと行って陸上を飛ぶ時間を短くします。
図43 危険と隣り合わせの空路
モガデシュの病院(図44)
ここはモガデシュ市内にあるバナディール病院と言いますが、施設内にゲリラも入ってくるので警備兵も中にいます。
この時はコレラが凄い流行ってたくさんの患者がいました。なので国外から薬をどんどん送って対処しました。
図44 警備兵のいるモガデシュの病院
栄養失調の子ども(図45)
栄養失調の子どもには戦場に建てる野戦病院のような大きなテントを作って、脱水症状が起きないように補液したりします。
図45 野戦病院のようなテントを建てて対応します
技術の進歩で助かる命(図46)
これは汚く見えてしまいますがたくさんの栄養が入った「プラン・ピーナッツ」と呼ばれる栄養治療剤です。これをすぐに作ってたくさんの子ども達に食べさせます。
皆さんの中にはイノベーション(革命)と言われる事があります。これは決してITやテクノロジーだけではないんですね。
現場に合った製品を作る。これだけでも多くの人の命を助ける大きな力になります。
骨と皮だけのような栄養失調のひどい状態になると、突然に栄養を与えると死ぬことがあるんですね。何故かというと、栄養を取れなくなった体は、筋肉から栄養を取るようになり、骨と皮だけのような体になってしまいます。
すると腸の壁も薄くなってしまい、そこに突如として高栄養価の食べ物が入ってくるとショックを起こしてしまいます。
そういった危険があるので、栄養失調の子どもは入院させてゆっくりと食べ物を与えていかなければならないので手間が掛かってしまいます。
ところが、フランスの大学と会社がピーナッツバターをベースにした「プラン・ピーナッツ」を作りました。
色々と栄養の配合を考えまして、脂質とか微量元素と呼ばれる亜鉛、鉄分も含まれています。
味も甘くておいしい。それでいながら体に優しいので、急に体に入れても大丈夫なようにしてあります。
このプラン・ピーナッツを子どもの大きさに合わせて1日に2~3袋を食べさせます。すると、意識のなかったような子どもが2週間位でみるみる回復していくんですね。本当に凄いです。
さらに凄いのが、このプラン・ピーナッツはマイナス30℃、もしくは摂氏50℃のような極限環境でも冷蔵保存しなくても良いんです。その辺に置いておいても3年間は使えるます。これが出来たことで、本当に大きな力になったんですね。
図46 甘くて栄養価の高いプラン・ピーナッツ
つづく
前のお話は こちら から。