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2023年3月 No.337

グローバル・ファンド 戦略投資効果局長
【再】國井修先生の特別講演を行いました2

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 前号から引き続き、院長の古くからの友人であり、院長が世界一尊敬する医師・國井 修(くにい おさむ)先生の特別講演の内容をご紹介いたします。

前号のあらすじ
 シュバイツァーに憧れた若き日の國井先生。日本の僻地医療の現場で働く傍ら、東南アジア、中東、アフリカなどの最前線で国際医療援助活動を行ってきました。
 しかし、前述の地域における医療体制は決して十分とは言えず、大型ハリケーンの襲来や大飢饉などの災害が発生するたびに、数万人という人々が命を落としていく現状を前にして、個人が救える範囲に限界を感じるようになりました。

国連での活動
 国連と言っても色々な組織がありますが、今までの現場で見てきた中でユニセフが良い仕事をしていると感じたので、ユニセフに入りました。
 入った直後はニューヨークに居て、その後にミャンマーに行きました。
 今でこそミャンマーは開国されましたが、私が行った当時は軍事政権が治める国で、アウンサンスーチーさんが自宅で幽閉されている状況でした。ですので、貧困にあえぐ一般国民の不安が非常に高まっており、2007年にサフラン革命と言われるお坊さんのデモが行われたんですね。

 そこに軍隊を動員して銃撃を加えていたので、私が滞在した3年間で何度も大きな騒動が起きていました。
 そんな中、この国に大きなサイクロンが襲ってきました。日本で言えば台風ですが、その被害規模は日本の比ではありません。何と1回のサイクロンで15万人が死亡しました。

 当時、私は首都ヤンゴンの8階建てのアパートの最上階に住んでおり、4日程前から今回のサイクロンは最大限の注意を払う必要があると言われていました。
 そして実際にサイクロンが来てみると、住んでいたアパートの建物自体が揺らぐ程の暴風が吹き荒れていました。
 ガラスは割れて飛び散りますし、階下の屋根もどんどん引きはがされて私の部屋の方へ飛んでくるんですね。

デルタ地帯における水害(図15)
 しかしヤンゴン以上にひどい被害を受けたのが、車で8時間以上かかる南部のデルタ地帯でした。
 デルタ地帯は先ほども言ったように標高0メートルで、そこに多くの村があったのですが、暴風による高潮でそのすべてが流されてしまいました。
 この写真はあまり目を凝らさないで見てほしいのですが、多くの遺体が流されているんですね。

図15
 図15 想像を絶するハリケーン被害


頑丈なはずの診療所が……(図16)
 ここは村唯一のコンクリート製の診療所だった場所です。村人全員は入れないので、女性と子供がここに避難していたんですね。
 そうしたらここに高潮がやってきて、基礎を残して流されてしまいました。

図16
 図16 コンクリート製の建物は見る影もありません


物資の空輸体制(図17)
 我々は、先発したスタッフから現地のとんでもない状況を聞いて、すぐさま対応をしなければなりませんでした。
 コペンハーゲンにあるユニセフの物資倉庫から、医療品などの物資を空輸してもらい、迅速に被災地へと輸送する必要がありました。
 しかし、ミャンマーは軍事政権だったので私たちのような外国人は自由に移動できなかったんですね。

図17
 図17 コペンハーゲンにあるユニセフ拠点


道なき道を……(図18)
 しかも被災地まではまともな道なんてないんですね。場所によっては川に木をおいて橋を造ったりしました。

図18
 図18 ちょっとやそっとでは走破が難しい道路事情


広大なデルタ地帯(図19)
 デルタ地帯というのは皆さん想像もつかないでしょうが、向こう岸が見えない位の川がたくさんあります。

図19
 図19 海にも見えるデルタ地帯の大河川


入り組んだ細い河川(図20)
 そんな大河川があると思えば、写真のような細い河川が縦横無尽に、まるで蜘蛛の巣のように流れているんです。だから、どこに村があって、どの村が壊滅したのかがまったくわからないんです。
 つまり、地図を作る事から始めるしかなかったんですね。
 でも軍事政権下ですから、そんな地図なんて作らせてくれなかったんですね。GPSなどの機器も持ち込みは禁止されていたんですが、こっそり持ち込んでマッピングをして、ヘリ輸送などの手配をしていました。

図20
 図20 蜘蛛の巣のように走る小河川


交通手段は船(図21)
 これはファミリーキットと言う洗面器とは石鹸、マラリア対策のベッドネットとかの生活用品を船で輸送しているところですね。

図21
 図21 船は重要な交通手段です


動物による物資輸送(図22)
 船から降ろした荷物を今後は陸路で輸送しなければなりません。しかし車なんて通れないような場所ですから、牛とか水牛で運ぶんです。

図22
 図22 動物を利用してさらに奥地へ


水の確保の重要性(図23~25)
 災害の際に大事なのが水ですね。家庭用の水がめやタンクも必要になってきますし、学校なども無くなってしまったので椅子などの家具も大量に必要になります(写真右)。
図23
 図23 水をためるカメやタンクなども支給せねばなりません

図24
 図24 飲み水の確保は最優先課題です

図25
 図25 雨水をためるカメ


ボウフラ対策(図26)
 折角の水も長期間置いておけばボウフラなどが湧いてしまいますので、薬品を入れて対応します。

図26
 図26 ボウフラが湧かないように水に薬をいれます


ため池と塩害(図27)
 繰り返しになりますが、水というのはすべての国で大切な資源です。そして国によって水の取得方法は違うんです。
 つまり蛇口をひねると安全な飲み水が出てくるのは日本だけなんですね。いろんな世界の田舎では、水を得るために様々な工夫を凝らしています。
 ここミャンマーでは、1年の内6カ月間はずっと雨が降り続けるんです。その後の6ヶ月間は全く雨の降らない乾期が続くので、どうするのかと言うと。ため池を造って雨季の間に雨水を蓄えておくんです。
 ところが、今回はサイクロンによって高潮が発生したため、こういったため池に海水が入り込んでしまったんですね。それを一旦ポンプで組みだして、ため池をつくるところからやり直さなければならないんです。

図27
 図27 ため池から海水を汲み出します


ため池作り(図28)
 ため池作りは村人総出で行うんですね。この復興という状態は、外からの人たちが援助をして貰うのではなく、現地の人々の手で成し遂げていく事なんですね。
 ですが、被災後は物資がなにもないですから、食料などの必要な物資を届けて、次の活動に繋げていくんですね。

図28
 図28 村総出でため池をつくります


完成したため池(図29)
 そうする事で、しっかりとしたため池が作り直されたんですね。

図29
 図29 重要なのは自分たちの手で復興すること


トイレ事情(図30
 トイレ事情も非常に難しい問題です。それは何故かと言うと、いくらトイレを造っても、普段トイレを使う習慣のない人たちですと誰もトイレを使わないんですね。
 ですので、まずトイレの綺麗な使い方と管理を教えないと、ここからまた病気が流行ってしまいます。

図30
 図30 場所が変われば常識も変ります


手指衛生を教育(図31)
 感染症の予防で必須なのが手洗い・うがいです。保健士さんなどに現地で行ってもらい、住民に手洗いの大切さを教えてもらうんです。
 たかが手洗いと思ってバカにしてはいけません。この手洗いによって下痢を伴う症状の約6割を、肺炎の約4割を抑えることができます。信じられます? 医者が行って薬をあげるよりも、手洗いをキチンと教えて徹底させるだけでそれだけ病気が減るんです。
 なぜかと言えば、病原菌は手から広まるんですよ。
 食事を作るお母さんの手から子供へ、その子が外で遊んで、違う子からまた別の家へと広がっていくんです。
 とっても単純な事なんですけど、手洗いを徹底させることはすっごく難しいんです。

図31
 図31 絶対必要な手指衛生の教育


ビタミン摂取の効果(図32)
 子供与えているのはビタミンAです。この小さい液だけで多くの病気から体を守ってくれるんです。
 これは皆さんが摂取してもあまり効果がありません。すでに普段の食事から十分に取り込んでいるからです。ですが、ビタミンAが不足している地域ですとそうもいかないので、これとワクチンを併用することで下痢症や肺炎にかかる確率がぐっと下がります。

図32
 図32 ビタミンAを投与しています


蚊の駆除(図33)
 それと大事なのが蚊の対策です。この蚊によって広まる病気がたくさんあるんです。
 皆さん聞いた事があると思いますがジカウイルス、他にはマラリア、デング熱、西ナイルウイルスなど数えきれないほどの病気を伝播させます。ですので、この蚊を駆除していくというのがとっても大切なんです。

図33
 図33 蚊を駆除することで感染症を防ぎます

つづく

前のお話は こちら から。

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