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2023年2月 No.336

 

朝のスタッフ勉強会⑨
アレルギーと花粉症のお話9
~医学コミック8巻「愛しのダニ・ボーイ」より~


引き続き
 当院では朝礼時にさまざまな資料を用いて、接遇や医学・医療についての勉強会を行なっています。ここでは、いま使用している院長監修のアレルギーに関する医学コミック『愛しのダニ・ボーイ』、その解説についてご紹介致します。
 なお、解説含めたマンガも当院ホームページで無料閲覧できるよう準備中です。

25.ディーゼル排出物質と花粉症
 小泉氏らが、スギ花粉症の増加に車両通行量の増えたことが影響していると考えた理由として、もう一つの現象が挙げられます。
 スギ花粉症が増えたのは、もちろんスギの木から落下する花粉の量が、近年増加したためです。原因が増えれば、結果も増えるというごく当たり前のことですけれど。

 ところが日光での観察では、山奥のスギ花粉の量のすごく多いところでは、車両の通行量の少ないせいか花粉症の頻度は少ないのです。逆に通行量の多い国道沿いでは、スギ花粉落下量は少ないのに、花粉症ははるかに多く発症するのです。
 いろは坂での車両通行量の増加とスギ花粉症の激増に加えて、こうした通行量と花粉症発症との関連を観察した小泉氏らは、日光を多数通行しているディーゼル車の、排出ガスにその原因があるものと推測しました。

 実際小泉氏らは動物実験を行なっていますが、マウスの体内にスギ花粉を注入する場合、花粉成分だけのときよりもディーゼル排出成分を一緒に注入した方がアレルギーの強く生じることが分かりました。
 小泉氏らはこうした結果から、ディーゼル排出成分にはアレルギー反応を亢進させる作用があり、それが実際の日光などの通行量増加地区におけるスギ花粉症激増の原因となっているものと、理解しました。
 この理論が、大気汚染によるスギ花粉症増加説の、原点となっているのです。

26.白老町の調査結果
 私たちは、大気汚染によるスギ花粉症増加仮説を検討する目的から、小中学生全員を対象に疫学調査を施行している北海道白老町の成績を分析しました。

 この白老町では国道沿いに小中学校が並んでおり、それらの学校は大きく3つの群に分けられます。まず東から、苫小牧に隣接する大気のきれいな社台・白老地区。ここには全国の競走馬の産地として有名な社台の、牧場が密集しています。大気汚染と無縁の世界であることは、容易に想像できます。ついで、旧・大昭和製紙工場の存在する荻野地区。ここでは24時間・365日連続測定の、大気分析装置が向上に向かい合うように設置されており、こうした空気の汚れは住民の関心の的となっています。もっとも西に位置するのが竹浦・虎杖地区で、その西隣は登別温泉となります。この地域では住宅の密集や工場設備は見られず、大気汚染は話題になりません。

 大気汚染によるスギ花粉症などアレルギー増加説に従うなら、製紙工場のある荻野地区でもっともアレルギーの頻度が高くなるはずです。しかし私たちの実際の調査結果は、これら3地域のスクラッチテスト(アレルギー学的皮膚検査)はまったく同程度であることが分かりました。しかも、自覚症状や鼻粘膜所見なども加えて判断されたアレルギー性鼻炎との診断例も、3地域で頻度に差が見られなかったのです。
 大気汚染は本当に、スギ花粉症などアレルギー性鼻炎の増加原因だったのでしょうか?

27.巻き上げる花粉に原因?
 小泉氏らの調査結果では、大気汚染のひどい地域の方が空気のきれいな地域よりもスギ花粉症が多く、ディーゼル排出物などによる汚染大気が、アレルギー性鼻炎を悪化せしめている、との仮説が唱えられました。
 それに対して私たち自身の白老町における調査結果では、製紙工場による大気汚染地区と空気の澄んだ地区との比較で、アレルギーの頻度にまったく差は見られないという結論となりました。

 そんな目で小泉氏らの論文を読み返すと、意外な推測が成り立ちます。それは小泉氏らの調査では当初から、「車両の通行量増加に伴って花粉症が増加する」、そして「通行量の多い地区では花粉症が多発する」と明確に記されていることです。
 と言うことは、もしかすると落下したスギ花粉を通行車両のタイヤがもう一度空中に巻き上げ、人の鼻粘膜に触れる花粉の量が2倍・3倍となっていると推測することもできます。

 本文の第2項に、英国のカモガヤ花粉症ではドライブにより花粉を浴びることがあり、その結果は想像を絶すると書きました。つまり浴びるほど花粉を吸いこめば、花粉症は悪化します。
 日光のいろは坂でも、小泉氏ら自身の書いたように通行車両が増加し、その巻き上げる落下花粉が何回も人の鼻に吸入され、花粉症を悪化させている。すなわちディーゼル排出物質が直接の犯人ではない、と考えることもできます。

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アレルギー性鼻炎と大気汚染」(宮城耳鼻会報 82号|3443通信 No.312) 

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