2023年1月 No.335
朝のスタッフ勉強会⑧
アレルギーと花粉症のお話8
~医学コミック8巻「愛しのダニ・ボーイ」~
引き続き
当院では朝礼時にさまざまな資料を用いて、接遇や医学・医療についての勉強会を行なっています。ここでは、いま使用している院長監修のアレルギーに関する医学コミック『愛しのダニ・ボーイ』、その解説についてご紹介致します。
なお、解説含めたマンガも当院ホームページで無料閲覧できるよう準備中です。
22. 調査結果
中国でのアレルギーの調査地として、私たちは上海の隣村である黎里鎮(リリチェン)を選び、その小中学生全員を対象に疫学調査を行ないました。そしてそれと比較する意味から私たちは、日本での調査地として北海道白老町と栃木県栗山村を選択し、やはり小中学生全員に疫学調査を行ないました。
すると先に述べたように、黎里鎮の小中学生のアレルギーの頻度は、白老町や栗山村の小中学生の3分の2程度でしかありませんでした。つまり中国の子どもは日本の子どもに比べて、アレルギーが少ないのです。
興味深いことに中国にはその当時、全国の寄生虫検査の実施記録があって、国民の63%が寄生虫に感染していました。もしかすると中国の子どもたちにアレルギーの少ないのは、寄生虫感染がアレルギー発症を抑えていたからかも知れません(図1)。
図1
そこで私たちは黎里鎮で、実際に検便を行ないました。ところが南京医科大学寄生虫学教室で解析された検便の結果、その寄生虫感染率は2%に満たないことが分かり、しかも寄生虫感染のある子どものアレルギー検査結果は陽性でした。中国の寄生虫感染は決して多くなく、しかも寄生虫はアレルギーを予防しないのです。
実はこの時期、北京の威信にかけた国家的規模の回虫撲滅運動が中国全土で展開されており、寄生虫感染率は短期間に劇的に減少していたことが、後から分かりました。黎里鎮の子どもの検便の結果は、決して不自然ではなかったのです。
23. 寄生虫減少と関係なかった花粉症増加
「共生の妙」を唱え、現代日本人のスギ花粉症の激増が、寄生虫の減少によるものだとする藤田氏の仮説には矛盾のあることが、私たちの調査によってはっきりしました(図2)。
図2
そこで私はこの結果を電話で藤田氏に伝え、仮設の誤っていることを教えました。ところが藤田氏は、言を左右して事実を認めようとしません。それどころか、それ以降藤田氏に電話しても大学院生が出るのみで、本人は姿を現さなくなりました。
私は藤田氏の態度を見てこの仮説自体の信頼性に大きな疑問を抱き、さらに調査を進めました。
すると1999年に実施された黎里鎮の高校1年生全員・179名を被験者にしたアレルギー調査では、血清検査で回虫感染陽性の生徒の方が、感染陰性の生徒よりもアレルギー学的皮膚検査(スクラッチテスト)の陽性率が高いことが分かりました(図3)。つまり私たちの調査からは、寄生虫はアレルギーを抑えるのではなく、むしろその程度をひどくしている可能性のあることが理解出来たのです。
図3
ですから、少なくとも日本でこれだけスギ花粉症が蔓延するようになった、その第一の理由として寄生虫感染の減少を挙げることは不自然です。ましてや、寄生虫を体内に飼っていると花粉症やアトピー性皮膚炎にならないと称して、藤田氏のようにサナダムシを呑むことも異常です。
現代に生きる日本人に過剰な清潔志向の見られることは確かですが、半ば精神論的に「清潔はビョーキだ」と言い張るのは無理みたいです。
24. 花粉症の増加と大気汚染説
ところで今から四半世紀前ごろに、スギ花粉症の増加したのは、大気汚染の進行したせいだという議論のなされていたことを、覚えておられるでしょうか(図4)。
図4
スギ花粉症だけに限らないのですが、確かに当時は環境汚染がすべてに影響を与えており、大気汚染もスギ花粉症激増の根源みたいに錯覚されていた記憶があります。
けれどその仮説が提唱されてかなりの年月が過ぎ去りましたが、いまだに確定的な証拠は挙がっていません。
それに世界中の議論を見渡しても、大気汚染による花粉症増加説を裏付ける論文はまるで見当たりません。
それはどうしてなのでしょうか?
そもそも大気汚染とスギ花粉症増加との関連に触れた論文は、日光における通行車両の増加とスギ花粉症激増について論じた、日光在住の小泉氏ら内科医のグループのそれと、東京都と岩手県でアレルギーに関する調査を施行し、前者でアレルギーの頻度が後者より高いとした、慈恵医科大学耳鼻咽喉科の論文が最初でした。
小泉氏らは、数年ごとに日光周辺の住民のスギ花粉症調査を行ない、時代の経過とともに花粉症の頻度が増加していることを、報告しました。そしてその増加傾向が、ちょうどいろは坂を通行する車両の通行量増加に応ずるように増えていたのです(図5)。
小泉氏のグループはいろは坂を通行する車両のディーゼル排出ガスが問題と推測し、実験を開始しました。
図5
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「アレルギー性鼻炎と大気汚染」(宮城耳鼻会報 82号|3443通信 No.312)