2022年10月(No.332)
朝のスタッフ勉強会⑤
アレルギーと花粉症のお話5
~医学コミック8巻「愛しのダニ・ボーイ」より~
引き続き
当院では朝礼時にさまざまな資料を用いて、接遇や医学・医療についての勉強会を行なっています。ここでは、いま使用している院長監修のアレルギーに関する医学コミック「愛しのダニ・ボーイ」、その解説についてご紹介致します。
なお、解説含めたマンガも当院ホームページで無料閲覧できます。
13.蒙古斑
さらに話を進めるならば、この時期人類は世界を股にかけて歩き回っています。考古学的には、人類はアフリカに起源の一つがあるものとの仮説があり、そこからアジア大陸そして陸続きのペーリング海峡を歩いて南米の南端まで到達していると、聞いています。そして現在でも中南米の現地住民の子どもには、お尻に青あざつまり蒙古斑が見られるそうで、それはつまりアジア系の人たちが歩いて中南米まで及んだ、その名残のだそうです(図1)。
図1 蒙古斑のあるインディアンのイラスト
話をそこまで進めずとも、アジア大陸と日本は1万年前までは陸続きだったこと、マンモスや人間がそこを歩いて移動していたことは、良く理解できます。
スギだってその当時、陸伝いにアジア大陸から日本間で、連続して植生していたと考えることは不自然ではありません。
1万年前に氷河期が終わり温暖化が進むと、氷河が溶けて海面の水位が上がります。それまで湖だった日本海は現在の日本海となり、スギも異なった国に別々に生えていたように錯覚されます。
14.異物から人体を守る花粉症発作
ところで花粉症って「百年の恋も醒める病気」という不名誉なあだ名が付いています。
なぜならくしゃみ・鼻みず・鼻づまりがひどく、涙もぽろぽろ。かゆい余りに目や鼻をこすって目蓋も腫れ上がり、まるで怪談みたいです。どんな美男美女も、この発作に襲われたらひとたまりもありません。素敵な恋など、とうてい語れなくなります。まさに百年の恋も醒めてしまいます。
そんな有害そのものと思われる花粉症の発作ですが、これらの症状は本当に有害無益なのでしょうか。
花粉やダニなどによる鼻のアレルギー反応を、アレルギー性鼻炎と呼び、花粉だけが原因の場合花粉症と称します。そしてその原因物質(アレルゲン)であるダニや花粉は、人体にとっていわば異物であり、役に立たない物質です。
それら異物は、理想を言えば余り人体内に入って欲しくないのが、正直なところです。
しかし、人体はとても賢くできています。こうした異物が鼻の穴から人体内に入ろうとすると、ちゃんと防御するシステムが作動します。それが鼻の場合には、くしゃみ・鼻みず・鼻づまりとなって表われます。なぜならくしゃみは、爆発的に異物を鼻の粘膜上から体外へ吹き飛ばしてしまう役割を担っています(図2)。
鼻みずも鼻づまりも、同じく異物が鼻より体内に侵入しないよう、防御的な役割を果たしています。
本来はこの発作、人体にとって有益な反応だったかも知れません。
図2
15.防衛能力向上でアレルギー増加?
前回は、くしゃみ・鼻みず・鼻づまりの花粉症の発作は、本来は異物の鼻粘膜からの人体内への侵入を阻止する、有益な作用だったのかも知れないと書きました。
とはいえこれら本来有益な防衛反応も、過ぎたるは及ばざるがごとし、です。逆に人体に過剰なまでの負担がかかってしまいます。それが鼻の場合には、百年の恋を一夜にして醒めさせる、そんな悪さをするわけです(図3)。
図3
こうやって考えてみるとアレルギーとは、実は人体を本来なら守るべき機構が、過剰防衛のために逆に人体に害を与えている、そんな病態だと理解することもできます。
こうした過剰防衛反応には、なにか特別な意味があるのでしょうか。
人類は自己の生存と種族の保存のために、多大な労力を費やして来ました。長い間、この目的を果たすのに最大の敵は感染症でした。
ことに食物が豊富でなく人類が飢えに直面していた時代には、人体内の防衛力つまり免疫機構も十分な力を発揮することができず、多くの人間が感染症で死にました。
それに対し近年の日本では、平均寿命が大幅に長くなり長寿国となりました。その原因である乳幼児死亡率の激減は、衛生状況の改善によって感染源となる病原菌が減少し、栄養の改善によって人体に免疫能力が高まったため、と推測されています。つまり人間の体は、防衛能力が高くなったと表現できるのです。
アレルギーの増加に、これは関係がありそうです。