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2022年9月(No.331)

 

朝のスタッフ勉強会④
アレルギーと花粉症のお話4
~医学コミック8巻「愛しのダニ・ボーイ」より~

コミック⑧ 表紙【構成用】


引き続き
 当院では朝礼時にさまざまな資料を用いて、接遇や医学・医療についての勉強会を行なっています。ここでは、いま使用している院長監修のアレルギーに関する医学コミック『愛しのダニ・ボーイ』、その解説についてご紹介致します。
 なお、解説だけでなくマンガ本体も当院ホームページで無料閲覧できます(一部、準備中)。

10.中国に生えるスギ
 さて、中国でもスギの植樹が治山治水対策として、大いに行われるようになった。その結果として中国でも日本のように、スギ花粉症が将来多発する可能性が出て来た。そう書きました。
 これをお読みになって、はてなと思った方もおられたかも知れません。
 なぜならスギ花粉症はその発見以来、日本特有の花粉症と考えられてきたはずです。中国にスギ花粉症なんて、存在したのでしょうか。

 スギ花粉症が日本固有と誤認されたのは、スギ花粉症の原因物質つまりアレルゲンである日本杉が、日本にしか植生していないと錯覚されていたせいです。
 けれども私たちの共同研究者である、国立国際医療センターのスタッフの観察では、中国は雲南省のハゲ山には、スギが植樹されています。それに私たち自身の調査でも、中国の被験者でスギにアレルギー陽性反応を示す人が少なからず認められます。

 以前にも、スギの生えていない筈の北海道白老町での調査で、スギに反応陽性となる被験者が見られたことがあり、この際には町内にスギ人工林の存在することが確認できています。
 その前例から考えると、中国にも絶対にスギが生えているはずです。

 実際に中国の文献を調べると、中国の華東や華南を中心に、スギ花粉飛散の見られることが分かります。加えて日本の資料にも、中国産スギ(柳スギ)が中国各地に植生していることさえ、明記されています。

11.日本海を隔てた同一のスギ
 日本特有と錯覚されて来たスギ花粉症。そのスギ花粉症の原因物質であるスギが、名前こそ柳杉と称されていますが、中国でも観察されます。
 ことに長江(揚子江)中ほどの武漢市近辺では、スギ花粉飛散が大量に確認されています。この柳杉が日本杉と同じものであるか、あるいは同じ性質を持つものだったならば、スギ花粉症は中国でも発生するはずです。

 私たちは、中国は南京植物園に植生されていた柳杉と日本杉とを採取し、光学顕微鏡写真にしました。電子顕微鏡写真も作成しました。ところがこれら両国のスギは、外見上はまったく相違が見られず、少なくとも形態学的には同一であることが分かりました。
 そこで私たちは、中国の柳杉の天然林で有名な天目山において、樹齢千年以上のスギのサンプルを採取しました。天目山は古い山脈の一角で、そこにはなんと樹齢1億7千万年と伝えられるイチョウの巨木も実在します。

 天目山のスギ天然林の生えているあたりの光景は、まるで日本の屋久島の屋久スギの生えている周辺の風景とそっくりなのです。わたしたちは日本ではそれと比較する目的から、屋久スギのサンプルを採取し標本を作製しました。
 すると両国のスギのDNA分析では、両者の遺伝子同一度は0.97であることが分かりました。ごく簡単に表現すると、両者は97%同じものであることが判明したのです(図1)。
 日本海を隔てた両国に、どうして同一のスギが存在するのでしょうか?

図01
 図1


12.陸続きだった大陸と日本
 前回は、スギ花粉症が中国で増加しつつあること、なぜならスギ花粉症は日本特有との認識は錯覚で、中国にもスギは植生していること、そして中国と日本のスギは日本海を隔てているのに、DNA上は同一属同一種であること、についてお話ししました。
 それにしても、海を挟んだまったく別の地である日本と中国に、どうして同一のスギが生えているのでしょうか。

 スギがこの地上に出現したのは、今から二百万年前の第三紀鮮新世のことでした。そして実は、その時期から氷河期の終わる1万年前まで、日本と中国(アジア大陸)とは陸続きだったのです。
 その証拠に日本では、大陸に生息していたナウマン象やマンモスの化石が発掘されています(図2)。

図02
 図2 マンモスの再現像(内モンゴル自治区の満州里・左)とマンモスの骨格の再現像(北海道博物館・右)


 マンモスやナウマン象を、北朝鮮の不審船が日本までわざわざ拉致して来たのでなければ、これらの象たちは自分たちで歩いて、アジア大陸から日本までやって来たに違いありません(図3)。

図02
 図3


 日本とアジア大陸との間には、決して狭いとは言い難い日本海が横たわっています。象たちは、いったいどうやって日本まで歩み来ることができたのでしょう。

 実は1万年前までの地球は氷河期にあり、アジア大陸と日本は陸続きだったのです。

 日本海は当時湖であったに過ぎず、マンモスやナウマン象たちは、凍りつき水位の下がった日本海の、大陸棚の上を闊歩して大陸から日本まで、辿り着くことができたのです。

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