2022年7月(No.329)
朝のスタッフ勉強会②
アレルギーと花粉症のお話2
~医学コミック8巻「愛しのダニ・ボーイ」より~
前号につづき
当院では朝礼時にさまざまな資料を用いて、接遇や医学・医療についての勉強会を行なっています。ここでは、いま使用している院長監修のアレルギーに関する医学コミック「愛しのダニ・ボーイ」、その解説についてご紹介致します。
なお、解説含めたマンガも当院ホームページで無料閲覧できます。
4.日本におけるスギ花粉症の激増
前回は、英国で世界初のカモガヤ花粉症が出現した経緯について、お話ししました。そしてそれは、花粉症の原因植物であるカモガヤの繁殖する条件が、整ったためであることに触れました。
それではこの日本で、スギによる花粉症が激増したのは、いったい何故でしょう。
杉なんて日光杉並木で有名だったように、木そのものは江戸時代からたくさんあったはずです。でも当時スギ花粉症がひどかったとは、聞いたこともありません。それなのに突然、国民病と言われるほどに増加したのは、何か理由があるのでしょうか。
実は英国のカモガヤ花粉症と同様、スギ花粉も急激に増えた時期があったのです。
それは戦後復興のために山々の木々を切り倒したその結果、日本全国ハゲ山だらけになったため、治山治水が大問題となりました。その対策として、1950年代に一斉にスギ・ヒノキが植林され、北海道と沖縄を除く日本中がスギ・ヒノキで占められるようになってしまったのです。そしてこれらスギ・ヒノキは、そのほとんどが樹齢30年になると花粉を飛散させるようになります。
ですから、全国的にスギ花粉が飛ぶようになったのは1980年前後となるはずで、これは1979年に初めてスギ花粉症が社会問題化した事実と見事に合致します(図1)。
日本のスギ花粉症も英国のカモガヤ花粉症と同じく、原因植物の激増が背景となって出現していたことになります。
図1
5.花粉の増加と花粉症の関係
スギの植林面積の増加がスギ花粉症激増の背景にある。そんな当たり前のことが、けれどもなかなか理解されづらいのは奇妙なように感じます。
しかし実際には、現代日本の花粉症増加についてさまざまの俗説が流布されており、聞く人を混乱に陥れます。
それは例えば、大気汚染により花粉症が増加したとの大気汚染説(3443通信 No.312「アレルギー性鼻炎と大気汚染」)であったり、回虫など寄生虫感染の減少が人間のアレルギーを増加せしめたという、寄生虫によるアレルギー抑制説(3443通信 No.314「本当に“清潔はビョーキ”か?」)だったりします。
しかしこれまで私の話を聞いて頂けばお判りのように、花粉症などアレルギーの増加するのは、原因物質(これをアレルゲンと呼びます)が増えたためでしかありません。つまり世の中の全ての事実に共通な、原因が増えれば結果が増え、原因が少なくなれば結果も減る、その法則は不変なのです(図2)。
図2
こう考えれば、全国的にはスギと並んで春の代表的な花粉症であるヒノキ花粉症が、この東北で少ないことも簡単に理解できます。東北地方はヒノキはほとんど植林されなかったから、なのです。
同様に、同じ東北地方でも岩手県にスギ花粉症が少なく、カモガヤ花粉症が多いのも、英国の故事から容易に背景が想像できます。
岩手県は牧場が多く牧草地面積が広大であるために、英国と同じようにカモガヤの繁殖が見られ、その花粉症も日本のほかの地域に比べて非常に多いのです。
6.植林後30年の花粉症増加
第二次世界大戦前は、日本人には見られなかったスギ花粉症。それが突然、国民病の栄誉(?)に輝くには、その原因物質(アレルゲン)であるスギの木そのものの増加が、深く関与しています。
戦後、復興のために日本国中の木々は切り倒され、全国至るところでハゲ山が観察されるようになります。
これらハゲ山は保水力がありませんから、ちょっとした雨が降っても、大洪水が起こります(図3)。
図3
具体的には1947年のキャサリン台風の際には、赤城山と榛名山に降ったそれぞれ400ミリの豪雨によって、大災害が発生しています。赤城山では山津波が生じ、土砂が利根川に流入しました。この結果、下流では堤防が決壊し、東京都内だけで38万人が被災しています。
それに対して1981年の台風15号のときには、榛名山で590ミリもの豪雨に見舞われたにも関わらず、被害は発生しませんでした。
これはつまり、その間に全国一斉にスギ・ヒノキの植林が行なわれた、そのためです。そしてこうした一斉植林は、1950年代にもっとも多く行なわれたのです。
スギはそのほとんどが、樹齢30年を迎えると毎年一定量の花粉を飛散させるようになります。ですから1950年の30年後の1980年に、スギは花粉の大量飛散を来たすはずです。
そして確かに、この日本でスギ花粉症の増加が社会問題になったのは1979年で、それはスギそのものやその花粉の増加と時期的に一致します。