2022年6月(No.327)
朝のスタッフ勉強会①
「アレルギーと花粉症のお話1」
~医学コミック8巻「愛しのダニ・ボーイ」より~
はじめに
当院では朝礼時にさまざまな資料を用いて、接遇や医療・医学についての勉強会を行なっています。ここでは、いま使用している院長監修のアレルギーに関する医学コミック「愛しのダニ・ボーイ」、その解説についてご紹介致します。
1.「国民病」となった花粉のアレルギー
今や日本人の国民病と言われる花粉症。予備軍も含め日本人の60~70%の人がこれに悩まされているとも伝えられ、ほったらかしにできない病気です。
なぜってこれにやられたら、くしゃみ・鼻みず・鼻づまりがおさまらなくって、眼だってくしゃくしゃになってまるでお岩さん状態(図1)。
図1
やっと訪れた遅い春だというのに、恋も語れなくなってしまいます。遅い春を、心行くまで楽しみたい東北の人間にとって、花粉症は憎いかたきみたいな悪役なのです。
なお国民病とは言っても、花粉症の原因はところによって違います。
日本全般に多く見られるのはスギ花粉症ですが、関東より西ではヒノキ花粉症も多発します。北海道ではシラカバ花粉症ですし、東北の岩手県ではカモガヤ花粉症がすごく目立ちます。
そう言えば欧米で花粉症と言うとき、その原因はスギではありません。
ヘイ・フィーバーと呼ばれる米国の花粉症はブタクサによるもの、英国のヘイ・フィーバーの原因はカモガヤです。
どうして地域によって花粉症の病態がこんなにも、違っているのでしょう。
その原因を探るとき、世界で初めて花粉症という病気の発見された英国の歴史が、われわれに考えるヒントを与えてくれます。なぜならこの英国は、国全体に森林が少なく彼の地の花粉症の原因カモガヤの、生い茂り易い牧草地がはるばると広がっている国なのです。
2.花粉症のルーツ
ロビンフッドの活躍したシャーウッドの森、伝説の妖精の潜むオークの大木たち。
そんな木々の追憶の中にある英国ですが、なぜか今では森林は国土全体の面積の9%にしか見られません。それどころか現在の英国は、国土の45%が牧草地と化しており、この広さは世界一と伝えられます。
そしてこんなひろびろとした牧草地には、英国の花粉症の原因であるカモガヤが、至るところに繁殖しているのです。そして毎年初夏には、それらを牧草として家畜に与えるべく、子どもの背丈ほどもあるロールに作成し、サイロの中へ保存するのです。
当然その時期英国は、国中がカモガヤの花粉で溢れんばかりです。
実際このシーズンに英国をドライブすると、花粉がもうもうと舞い上がり、それを吸い込んだ人がどんな思いをするのか、容易に想像できるのです。
英国で世界初の花粉症が発見されたのは、決して偶然ではなかったのです。
それにしても英国では、どうしてそんなにもカモガヤの繁殖する牧草地の面積が、広がってしまったのでしょう。
英国が大英帝国として世界を制覇した、その歴史を紐解くとき、こうしたなぞが理解できます。
読者の皆さんにはしかし、大英帝国の軍艦の建造に、1隻あたり樹齢百年以上のオークの大木が、二千本は必要だったという事実をお伝えするだけで、十分でしょう(図2)。
図2
3.世界初の花粉症
ギリシャ、ローマ、スペイン、ポルトガルと、世界の海を制覇していた国が、没落するのには共通の理由があります。軍艦製造のために国内の木々を切り倒してしまい、新たな軍備が不可能となってしまうのです。
この点、英国は恵まれていました。国内のオーク材はまだ消耗され尽くしていませんでしたし、北米からも、木材の搬入は可能でした。
これらの木材がどんなに英国を救ったか、それはナポレオンのためにオランダやポルトガルがヨーロッパから姿を消したあの時期、英国だけが国境を守りきることができた事実を思い浮かべても、容易に理解できます。
けれどもその豊かな木々も、やがて使い尽くされ資源が枯渇します。
そのとき、世界を制覇していた大英帝国では何が起こったでしょう?
そうです。産業革命が起こったのです。
それまで木材を材料としていた軍艦は鋼鉄の船に変わり、それを動かす動力も木材を使用したマストではなく、コークスを燃料としたそれとなります。
この故に、英国はそれまで以上に7つの海を駆け巡り、世界の大英帝国であることが可能だったのです。
その痕跡が、英国における9%の森林面積と、45%の牧草地となりました。そして牧草であるカモガヤが大量に繁殖し、全土に花粉を撒き散らします(図3)。
それこそが、英国で世界初の花粉症の出現した、最大の原因だったのです。
図3
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著書「みみ、はな、のどの変なとき」(https://www.3443.or.jp/news/?c=18243)