2022年3月(No.325)
耳のお話シリーズ⑤
ラジオ3443通信「補聴器の選び方」
ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
ここでは2014年3月25日OAされた、耳鼻咽喉科にまつわる病気の話題を分かりやすく、歴史や時には意外な観点からの話題を交えてご紹介いたします。
145 補聴器の選び方
An:
三好先生、前回までのお話なんですけれども。
ともすると私たち、耳についての知識の乏しい一般の人間は、難聴をお持ちの難聴者、つまり耳が遠いもしくは不自由な方に対しては、まるで大きな声が万能のような錯覚がありました。
耳が聞こえにくいんですから、単純に大きな声で話し掛けてやれば良い、みたいな。
でも先生のご説明では、難聴にはさまざまなタイプがあって、決してすべての難聴者に対して、大きな声が有効とは限らない、とのことでした。
Dr:
その通りです、江澤さん。
それは、いったいどうして、でしたっけ?
An:
耳の聞こえの悪化には、いろいろのパターンがあって、ですね。
もっとも身近な、高齢者の耳の聞こえの悪化では、カン高い音域から聞こえの悪化が始まります。
Dr:
そうすると、どんなことが起こるんでしょうね?
An:
日本語の中の子音って言って、「サシスセソ」が聞こえなくなっちゃう。
ですから会話してて、話の内容は8割理解できるのに、一番最後の、一番肝心の、「そうした」のか「そうしない」のか、そこを聞き取りそびれます。
Dr:
それじゃあ、会話全体の意味がまったくぼやけっちゃいますよね。
An:
それから先生。高齢者に小さな声で話し掛けても、ちっとも聞こえないくせに、大きな声を出してやると、喧しいって顔をされちゃいます。
Dr:
年齢による耳の神経の変化で、「補充現象」ってのが起きていて。小さな音は聞こえないのに、大きな音はいきなり響いて聞こえるんですよ。
お年寄りご本人に、悪気があるわけじゃありませんから(笑)。
An:
年齢による聞こえの悪化以外の場合でも、難聴者に対して大きな声は万能とは言えないんでしょうか?
Dr:
耳の病気の種類によって、それぞれ特徴的な聞こえの悪さを示すこともあるものですから。
単純に大きな声が通用する難聴の方が、もしかしたら少ないのかも知れません。
An:
そうなんですね1? 江澤は、初めて知りました。
そういう耳の不自由な方に応対する場合、どういうことに気を配ったら、良いでしょうか?
今までそういうことを考えたことが、あまりなかったものですから。
Dr:
耳の病気にはさまざまの種類がありますから、まずもっとも身近なお年寄りの聞こえの悪化への対応法を、考えてみましょう。
An:
お年寄りには、最近進歩してきた補聴器も、役に立つんじゃないでしょうか?
この頃は補聴器も小型化して、見るからに性能の良さそうな製品も、電気屋さんの店先で見かけますよ。
Dr:
そうですね、江澤さん。
その方一人ひとりの聞こえのタイプに合わせて、しっかりと調整した補聴器は、役立ちそうですね。
An:
えっ、先生、補聴器って、合わせたり調節したりするんですか?
Dr:
江澤さん。メガネだって、その人によって、度を調節したりしますよネ?
An:
近視用メガネとか、遠視用とか乱視とか、ですよね(笑)。
Dr:
メガネを選ぶときだって、いろいろ微調整するじゃあ、ありませんか。
An:
アレッ! でも補聴器って、電気屋さんの店先で、お孫さんがお年寄りに買ってプレゼントしていたりしてますよ!
Dr:
お年寄りは可愛いお孫さんの、お小遣いを貯めて買ってくれた補聴器だから、お孫さんの前ではニコニコして耳に入れてますけど……。
An:
お孫さんがいなくなると、その補聴器は箪笥の中に永久にしまわれて。
Dr:
それっきり、二度と役立つことはなかったりして……。
An:
それじゃあ、お年寄りご本人もお孫さんも気の毒ですよねぇ……。
どうして、そんなことが起こるんでしょうか、先生?
Dr:
実は補聴器を選択するときにも、メガネを購入するときと同じように、微調整が必要なんです。
An:
耳では、メガネの場合の、近視・遠視・乱視の調節とは、また違うんでしょうけれど。
Dr:
でも、その方の聞こえのレベルに合わせて機種を選び、微調整をして。それから。
An:
それから……?
Dr:
メガネでも、レンズとフレームを組合せた後、実際に眼にかけてしばらく待つことが多いものです。
An:
メガネをかけたら、少し間をおいて、外の世界をしばらく見てみなくっちゃあ。
Dr:
ホントにその方にピッタリあったメガネかどうか、それで判りますから、ね。
An:
それじゃあ、補聴器の場合でも。
Dr:
そうです。機種を選び、実際に装用してみて、少し間をおいてからでなければ、ピッタリその方に向いた補聴器かどうか、判りません。
An:
お孫さんのプレゼントの補聴器は、ご本人に合っていないことも……。
Dr:
決して、少なくないのではないかと。
An:
補聴器は、結構高価な製品もありますから、ね。
お孫さんは気の毒、ですよね?
Dr:
それにお年寄りの場合には、第76回目のOAでお話ししたような、滲出性中耳炎の合併もあって、それは補聴器装用の前に確認しておかないと。
An:
それは大切ですね。次回滲出性中耳炎についても、もう一度復習が必要かも知れませんね。本日は、ありがとうございました。