2022年2月(No.324)
スギ花粉症を追ってシリーズ
種子島・屋久島ツアー1
院長 三好 彰
はじめに
新年の明けた2022年1月19日(水)から21日(金)にかけて、鹿児島県の種子島・屋久島を巡るツアーに参加してきました。
屋久島には、私が長年研究しているスギ花粉症のルーツを辿るためのキーである屋久杉が植生しています。
ここでは、実際の屋久杉の写真を見ながら、スギと花粉症についてご紹介していきます。
屋久島とは
鹿児島県佐多岬の南方60キロに浮かぶ屋久島はほぼ円形の島で、中央部に九州最高峰の宮之浦岳(1,936メートル)を有しています。その形から火山島のようにも見られますが、屋久島に火山はありません(図1)。
図1
地中深くのマグマが地表に出ることなく冷えて固まって出来た巨大な花崗岩が、長い年月をかけて隆起したことで1,900メートル級の山岳部を形成しています。
こうした過程は貫入(かんにゅう)と呼ばれ、屋久島の中央山岳部には直径25キロメートルの花崗岩の塊があるそうです(図2)。そのため島内のいたる場所には、浸食によって露出した特異な形の花崗岩が散見されます。
図2
この屋久島に植生している屋久杉は、私のスギ花粉症研究にて日本特有と勘違いされていたスギがお隣の中国にもあることを証明するため、両国のスギサンプルを用いて遺伝子分析に使用した経緯があります。
いまから200万年前の第三紀鮮新世。氷河時代の名残によって海面が今よりも低かった頃、日本と中国は陸続きだったと言われています。それは大陸に生息する筈のマンモスの化石が、北海道で出土していることからも理解できます。
その時代、屋久島も大陸を形成する陸地の一部でした。
当然スギも、大陸から連続して生えていた植物の一部であることが容易に想像できます。
詳しくは、3443通信313号「チベットにおけるスギ・ヒノキ植生と感作」、323号「ドクターヘリとスギ花粉症」もご覧下さい。
ヤクスギランドへ
さて、ここからは私がこの目で実際に見てきた屋久杉をご紹介します。
屋久杉は主に標高500メートル以上の高地に自生しているため、見るためには山を登って行く必要があります。
ヤクスギランド(図3)には、代表的な屋久杉が見られるトレッキングコースがあり、それぞれ30分・50分・80分・150分・210分と5つのコースが設定されています。その内、30分と50分コースは木道・石道が整備された比較的歩きやすいコースになっています。
これ以外のコースに挑戦したい人は、十分な登山知識と準備が必須です。
図3 今回は赤色の50分コースを回りました
1.紀元杉(図4)
図4
本号表紙にも使用された樹齢3000年の大杉です。
車道から見える唯一の屋久杉ですが、どこかブラジルのコルコバードの丘に立つキリスト像(図5)を彷彿とさせます……。紀元杉の方が1000年先輩ですね。
樹高19.5メートル、周囲8.1メートル。この巨木の特徴的な点が、まるで寄生するように根付いた12種類もの着生樹です。これらの樹木は飛散した種子が紀元杉に着生して成長した木で、一本の杉がまるで森のようにも見えます。
春にはヤクシマシャクナゲやツツジ類が花を咲かせ、秋にはナナカマドなどの紅葉が彩りを添えるそうです。
図5
2.仏陀杉(図6)
図6
ヤクスギランドの周回50分コースの中ほどにあるのが、なんとも有難い名前の杉です。
表面にあるボコボコとした無数の瘤が、まるで仏様の螺髪(らせん状に巻かれた頭髪)のように見えることから仏陀杉と呼ばれるようになったそうです。
樹高21.5メートル、周囲8.1メートル。
推定樹齢1800年。
3.苔むしたスギの倒木(図7)
図7
屋久島はその大半が花崗岩で形成されているため木の根が張りにくく、強風などで倒れやすくなります。そこで屋久島の樹木は岩を抱きかかえるように根を張り巡らせて土台を安定させようとします。
加えて降雨量が多く湿度も高いため、樹脂を多く分泌する屋久島のスギは腐りにくいという特徴を持っています。
また、屋久島は600種を超える苔の群生地でもあります。この苔が水分を多量に含んでいるため樹木の成長に必要な水分の補給源となっているのです。
こうした倒木は民芸品などに再利用され、その特徴的な年輪模様が人気を博しています。
それと、この森はあの宮崎駿監督のアニメ映画『もののけ姫』の舞台である、もののけの森のモデルにもなったそうです。
写真の雰囲気から「そう言えば……」と、思い出す方も多いかも知れません。
4.双子杉(図8)
図8
周回コース終盤で見られるのがこちらの杉です。
一つの切り株に二つの小杉が生えた珍しい姿から双子杉と呼ばれるようになりました。
屋久杉とは樹齢1000年以上の杉の総称ですが、こちらの杉はいまだ若く、分類上は小杉と呼ばれています。
左の小杉は樹高22.2メートル、周囲1.7メートル。右の小杉は樹高22.7メートル、周囲2.1メートル。
5.くぐり杉(図9)
図9
コースのゴールを象徴するように出口付近にあるのが、このくぐり杉です。
いくつかあるくぐり杉の中でも特に大きいのがこちらの杉です。倒れ込んできた杉が融合したため、このような特徴的な形を形成したのだそうです。
ここまで来たら、ゴールはあと少し!
6.宇宙ヤクスギ(図10)
図10
宇宙にもスギが生えていた!? と、思わせるような名前ですが、こちらは有名な宇宙飛行士の毛利衛さんが、スペースシャトル「エンデバー」に持ち込んだ屋久杉の種から育った杉の一本です。宇宙を旅した杉としてNASAの証明書がしっかりと発行されています(図11)。
図11
次号からは、ツアーの旅程に沿ったレポートをご紹介します。