2022年1月(No.323)
めまい特集(2)-⑧
ラジオ3443通信「めまい体操」
ラジオ3443通信は、2010年から毎週火曜10:20~fmいずみ797「be A-live」内で放送されたラジオ番組です。
ここでは2010年6月22日OAされた、耳鼻咽喉科にまつわる病気の話題を分かりやすく、歴史や時には意外な観点からの話題を交えてご紹介いたします。
8 BPPVの治療法
An:
三好先生。本日は、世界中がグルグル回ってしまう、良性発作性頭位めまい症つまりBPPVの治療について、いよいよお話が伺えますね!
わたし、夕べワクワクして一睡もできませんでした。
Dr:
それは責任重大。張り切って、ご説明します。
An:
その前に復習ですが、三好先生。
BPPVは内耳の三半規管、中でも後半規管に原因があって発生する。この後半規管には、耳石器から剥がれた石が紛れ込んでいて、体の姿勢の方向によって動く。そのたびに半規管の神経細胞を刺激して、めまいが起こる。後半規管は両側とも、それぞれの耳たぶと同じ形と配置になっていて、例えば右の後半規管のBPPVだと、首を右にひねるような姿勢をとったときにめまいが起こる。だから、右を下にして頭を枕に付けたときや、逆に右下に寝ていて頭を起こした瞬間に、突然めまいが生じる。
前回は、そういうお話でしたね。
Dr:
BPPVのもう一つの特徴なんですけど。後半規管の神経細胞が刺激されるような姿勢をとって、一瞬間を置いてからめまい発作が起きる。そういう症状があるんです。
それも、その姿勢をとってから半規管内の石がゆっくりと動いて、それから神経細胞を刺激する。そんな順序があるためなんです。
An:
特定の姿勢をとった、その瞬間に発生するんじゃないんですね。
Dr:
間のあるところが、いかにも気を持たせるような……。
An:
期待に満ちた病気なんですね(笑)。
Dr:
それもこのめまいの起こり方に、密接な関係があるわけなんです。
An:
以前のお話ではこのBPPV、めまい体操で体をひねってやると、石が元に位置に戻るので治ってしまう、とか?
Dr:
前回のお話で、位置的な理由から耳石器の石は後半規管に入りやすい、とご説明しました。この後半規管は耳石器より後方に位置していて、左右それぞれの耳たぶとおんなじ方向を向いています。形も、似てるんです。
An:
耳たぶと同じような、丸い形をしている……。
Dr:
繰り返しますが、その一番奥、いわば底に相当する部分に後半規管の神経細胞が、存在します。
そして、耳たぶとおんなじ形をしている半規管の内側のリンパ液に、耳石器の石が浮かんでいます。
ですから、底部に存在する神経細胞から、少しでも浮遊している石を遠ざけてやり、最終的には後半規管から追い出してやることが理想なんです。
An:
そのために体操を?
Dr:
重力にしたがって移動する半規管内の石ですが、耳たぶのふちの一番底から、耳たぶの上半分に移動させ、最後は耳石器のある内耳の前方へ出してしまうんです。
An:
いったい、どんな体操なんでしょう。
Dr:
江澤さん。右側のBPPVの場合、石は耳たぶに例えると、どの位置にあるでしょう。
An:
右耳のふちの下半分でしょうか。
Dr:
万有引力の法則に従って、その石を上に移動させるには、どういう体の姿勢をとったら良いでしょう。
An:
右に首をひねって、頭を下げて……、ええっと、耳たぶの上半分が下半分よりも、位置的に下になるようにするんでしょうか。
Dr:
その通り。ベッドに横になり、首をベッドの端から出して、力を抜きます。
そして首を右45度にひねり、ダラーッと下げてやると、右耳のふちの上半分が下半分より下方に位置します。すると、後半規管内部の石も半規管の下半分から上半分に、重力に従って移動します(図1)。
次に、首を下げたまま左45度にひねるんです。
そうすると江澤さん、石はどこに移動するでしょう。
図1
An:
今度は右耳が上になるので……。
そうか、右耳の上のふちが一番下になる態勢ですね。つまり後半規管内部の石も、半規管のてっぺんに来てますよね(図2)。
図2
Dr:
それをもっと前に移動させて、石を後半規管そのものから追い出してしまうには、どんな姿勢をとる必要があるでしょう。
An:
首を下げた姿勢のまま、右耳の前のふちが一番下になるような姿勢、ですよね。
ちょっと、待ってください。
あぁ、分かりました。首を、もっと左へひねってやれば良いんですね。
どれくらい、首をひねれば石が出ますか?
Dr:
首を下げたままで、左へ135度曲げてやれば理想的です。
An:
やだ! わたし135度も首が回りません。ろくろっ首になっちゃう。
Dr:
ですから、体そのものを左に90度、つまり左側臥位、簡単に言うと左横向きに寝て、さらに首を45度左にひねれば良いんです(図3)。
図3
An:
なぁんだ。コロンブスの卵みたいですね。
Dr:
そうすると後半規管内部の石は、後半規管の前へ重力のために移動しますから、後半規管から石が外部に出てしまいます。
An:
めでたし、めでたし!
Dr:
そうしたら、ゆっくりと体を起こして、普通の姿勢に戻ります。
これを2~3回繰り返して行い、石が複数後半規管に入っていた場合でも、完全に外へ出すようにしてやります。
これをエプリー法と称して、めまい専門医なら誰でもできる治療法です。
ただしこのめまい体操で治療をする場合、途中でめまいが発生しますので、エプリー法の前には飲み薬や注射で安定剤を使用してから、実施します。
そしてこのときの呪文が大切なんですが、必ず「あなたは眠くなる、あなたは眠くなる」と、こころの中で呟きながら実施します。それが、BPPVを治す、魔法の呪文なんです(笑)。
An:
まぁ……。お話を伺いながら、わたしまで眠くなってしまいました。
でもこの魔法の呪文で、以前にご紹介したように多くのめまい患者が救われているんですね。 三好先生、本日は魔法の秘密まで教えて頂いて、誠にありがとうございました。
わたし、こっそり、みんなに教えちゃいますね。
Dr:
でもね江澤さん。この呪文、金欠病や空腹によるめまい、それにすごく長い校長先生の朝礼には、全然効果が無いんですよ(笑)。
An:
三好先生、良性発作性頭位めまい症つまりBPPVのお話は、これで一段落でしょうか?
Dr:
次回から、もっと多彩なめまい疾患について、いろいろなエピソードを交えてご説明します。
An:
それでは三好先生、次回のお話を今からとても楽しみにしています!
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