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2021年10月(No.320)

 

めまいには内耳の三半規管が原因のもの(末梢性めまい)と、脳が原因のもの(中枢性めまい)とがあります。
 前者の代表がBPPVで「めまいの方へ」に詳しいのですが、後者の代表がここにお話しする延髄外側症候群です。

 

学会発表「延髄外側症候群の5症例」

学会名:第67回 日本めまい平衡医学会
 会 期:2008年10月30日、秋田ビューホテル

三好 彰(三好耳鼻咽喉科クリニック)
 中山 明峰(名古屋市立大学)
 石川 和夫(秋田大学)
 鈴木 淳一(日本ヒアリング・インターナショナル)
  ※所属は発表当時のものです。

はじめに

延髄外側症候群は別名ワレンベルグ症候群とも呼ばれ、延髄外側部に梗塞を来たしてさまざまの神経症状を惹起する疾患です。梗塞を引き起こす血管として、椎骨動脈と後下小脳動脈が挙げられています。本症候群は、神経耳科学的には供覧した純回旋性の特徴的眼振が有名で、従来は比較的珍しいと考えられて来た疾患でもあります。
 われわれはここで、三好耳鼻咽喉科クリニックをこの15年間に受診した9万例のうち、本症候群の5症例を報告いたします。

図01

症例1は59歳の女性で、2004年4月に三叉神経の激痛とめまいで発症しました。泉病院脳神経科に入院後嗄声に気付き、同年7月三好耳鼻咽喉科クリニックを受診しました。

 

図02

画像所見ですが、MRAにて左側椎骨動脈の描出不良、MRIにて左側延髄の梗塞巣および左側椎骨動脈の解離が観察されます。

 

図03

模式図にお示しするように、左側椎骨動脈の閉塞とそれによる梗塞巣の発生のために、本症候群が生じたものと判断されました。

 

図04

神経耳科学的には、左側反回神経麻痺による嗄声と、供覧した典型的眼振(下記)が認められました。

 

図05

症例2は42歳の男性で、2003年4月嚥下困難と右半身のしびれで発症しています。某救急外来を受診していますが、心因性疾患と診断されています。

 

図06

翌日、三好耳鼻咽喉科クリニックを受診したときの神経耳科学的所見と、脳外科における左側VAGです。左側PICAに高度狭窄が認められますが、MRIでは異常所見は見いだされませんでした。

 

図07

症例3は59歳の女性で、1996年10月に耳鳴で三好耳鼻咽喉科クリニックを受診しました。その後2004年に本症候群を発症し、2006年クリニックを再受診しています。

 

図08

再受診時の所見ですが、発症後2年が過ぎているために、典型的眼振は認められませんでした。

 

図09

画像所見ですが、脳底動脈の動脈瘤と、右側椎骨動脈の描出不良が観察されます。

 

図10

症例4は67歳の女性で、1999年に激しい三叉神経痛で本症候群を発症しました。耳鳴を主訴に、2005年、三好耳鼻咽喉科クリニックを受診しています。

 

図11

やはり発症後の時間経過のために、典型的眼振は見られませんでした。

 

図12

右側VAGにて、椎骨動脈解離が観察されましたが、MRIは異常ありませんでした。

 

図13

症例5は、71歳の男性です。睡眠時無呼吸症候群にて三好耳鼻咽喉科クリニック通院中の2005年11月、中脳梗塞と本症候群を発症しました。

 

図14

2006年2月、当院受診時の所見ですが、左方へ向かう回旋性眼振から、右側椎骨動脈の障害が考えられました。

 

図15

泉病院脳神経科入院時のMRIとMRAにて、脳底動脈と右側椎骨動脈の描出不良ならびに中脳の新鮮梗塞が観察されました。なお、2002年と2005年のMRIの比較で、右側椎骨動脈の閉塞の生じたことが理解できます。

 

図16

中脳の新鮮梗塞を示唆するMRI上の高信号領域は、脳の切片と比較すると、中脳黒質であることが判りました。黒質は不随意運動に関与しているとされ、本症例の下肢脱力感の原因と推定されました。

 

図17

われわれはここで、三好耳鼻咽喉科クリニックをこの15年間に受診した9万例のうち、延髄外側症候群の5症例を報告しました。
 本症候群は、椎骨動脈もしくは後下小脳動脈の障害から延髄外側部の梗塞に至る疾患ですが、今回の5症例中椎骨動脈の障害によるものが4例、後下小脳動脈の障害に起因するものが1例、存在しました。
 本症候群はこれまで比較的珍しいと考えられて来ましたが、必ずしも稀とは言えないことが判明しました。ただし本症候群の検出には、注意深い神経耳科学的所見の観察が重要かと思われました。

 

めまいについてはこちらもご覧下さい。
 URL:https://www.3443.or.jp/dizz/index.html (めまいの方へ)

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