みみ、はな、のどの変なとき
66 感染症とアレルギー
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ところでこの章の最初に、アレルギーの増加と感染症の減少とは関係がある、と書きました。
つまり、⻑い間⼈類の共通の敵は細菌による感染症だった。近年の感染症の減少と栄養条件の改善により、⼈間の免疫能⼒は敵を⾒失い⼒を持て余した。そんな状況にある⼈体では、ほとんど害の無い異物でさえ侵⼊すると過敏なまでの防衛反応を⼈体は⽰し、それが⼈体⾃⾝にも危害を加えることになる。それがアレルギー反応だという、⽐喩的な説明でした。
それは単なる⽐喩なのでしょうか。それとも、何らかの根拠ある説明なのでしょうか。 特定の感染症の減少傾向とアレルギー疾患の増加との間には、何らかの関係があるとされます。
具体的には、例えばわが国の結核感染などは1960年代に減少していますが、スギ花粉症が1963年に発⾒され、その後激増したことなどと、時期的には⼀致します。
そして実は⼈間の免疫細胞には2種類あり、細菌感染に関与するTh1と呼ばれるタイプと、アレルギー反応を起こし易くなるTh2と呼ばれるタイプのものに分類できることが、最近判ったのです。
この2つのタイプの免疫細胞は、互いにバランスをとって存在しているものと考えられ、Th1が優勢なときにはTh2は抑制され、逆にTh2が優勢のときにはTh1は抑制されるのです。
と⾔うことは、感染症の多い時期には⼈体内でTh1が優勢となりTh2を抑制しているのですが、感染症の減少した時期にはTh1が抑制されTh2が優勢となる、つまりアレルギー疾患が多くなると考えることができます。
動物実験では明らかにされていたこの理論を、⼈間に対する実際の調査で確認したのは私たちの共同研究者の⽩川太郎・京都⼤学医学系⼤学院教授です。
⽩川先⽣は、被験者となった和歌⼭県の中学⽣では、結核の指標であるツベルクリン反応とアレルギー検査の結果とは、ちょうど背中合わせみたいな逆の相関関係が⾒られることを、証明しました。
この逆相関の理論は、私たちの中国の⼩中学⽣における追試の調査でも当てはまることが判り、やはりツベルクリン反応とアレルギーの検査結果とは、逆の関係にありました。 こうした調査成績から判断する限り私が先に記した、感染症の減少とそれにより⼒を持て余した過剰な免疫能⼒によりアレルギーが増加したとの仮説は、少なくとも結核については当てはまりそうです。
お話としては単純で判り易いわたしのアレルギー理論ですが、まるっきり法螺話という訳でもなさそうですね。
関連リンク
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