みみ、はな、のどの変なとき
44 エピソード10「突発性難聴の形で発症した聴神経腫瘍」
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突発性難聴のような急性難聴を⽰す例の中に聴神経腫瘍を⾒いだすことは、CTやMRIの発達によって今では稀ではありません。けれども、他の中枢神経疾患の併存などのために病態の本質が⾒えず、診断に⼿間取る症例は時に存在します。
私も脳性⿇痺が当初より存在し、そこへ突発性難聴の形で発症した聴神経腫瘍の症例で、診断に苦労した経験があります。
この⽅は、⽣後数⽇⽬からの強い⻩疸を経験し、脳性⿇痺となっていました。今から約20年前でしたが、突然の左側難聴と⽿鳴に気付きました。もともと脳性⿇痺の運動障害はありましたが、難聴の出現と同時に動揺感が出現し、⼿摺りに掴まらないと階段を歩けなくなりました。
症状の出現の3ケ⽉後に私のもとを受診したのですが、⿎膜はなんともないのに左側の⾼度難聴が⾒られました。温度眼振検査という三半規管の検査では、左側三半規管の⿇痺が証明されました。内⽿道の断層写真で左側内⽿道の⾻が破壊されている所⾒が判り、聴神経腫瘍が疑われたのですが、そこからの検査がこの⽅では⼤変でした。
当時MRIは開発されておらず、CTも撮影に時間が懸かったため、精神的な緊張でふるえなど不随意運動の起こる脳性⿇痺のこの⽅では、はっきりした画像が得られません。⾳刺激により脳波を記録するABR(後述)という検査も、⼀般的には聴神経腫瘍に有⽤なのですが、やはり精神的緊張による不随意運動でうまく記録できませんでした。
聴神経腫瘍が⼤きくなると、⼩脳を圧迫して中枢性のめまいを⽣ずるので⼩脳の機能検査も重要なのですが、この⽅ではやはり不随意運動のために正確な検査ができません。
最終的にこの⽅は、いくつかの検査の総合的所⾒から聴神経腫瘍にほぼ間違い無いと判断され、⿇酔薬を使⽤してのCTで確定診断を⾏ないました。CTでは腫瘍内部に出⾎のある、かなり⼤きな聴神経腫瘍がはっきり写っていました。ゆっくりと発育するために、急激な症状を起こしにくい聴神経腫瘍ですが、腫瘍内の突然の出⾎のために突発的に⼤きくなり、内⽿の⾎管を圧迫して急性の難聴を発⽣したものと考えられました。
この⽅は、そんな訳でかなり⼤きくなってから腫瘍が発⾒されましたので、開頭⼿術となりました。⾮常に珍しい合併例でしたのでこうした経過は⽌むを得ませんでしたが、⼀般的にはこれほど診断に苦労せずに済むものです。
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