みみ、はな、のどの変なとき
41 エピソード9「診断に苦労しためまいの症例」
前話 目次 次話
めまいはここに述べたように、いくつかの⾃覚症状のグループです。このためもあるのでしょう、原因疾患が複数存在するめまいでは、その解明に⼿間取ることが少なくありません。私たちも、⼩脳・脳幹疾患に精神性疾患を合併しためまい症例で、適正な診断に⾄るまで苦労した経験があります。
この症例は約20年前、私の派遣されていた総合病院の⽿⿐咽喉科を、精密検査のために訪れた当時55歳の男性でした。
この⽅は数年前から⽬の焦点の合わない感じがあり、眼科を受診しましたが異常無しと⾔われています。同時期受診の脳外科では、脳動脈硬化症との診断でした。それに加えて5年前からは左眼瞼下垂が出現し、4年前から性欲低下、1年前から⽴ちくらみと⾜元のふらつきがあります。
このために、⼀過性脳虚⾎発作の疑いとして私の派遣病院の内科に⼊院していました。⽿⿐咽喉科受診はめまいについての、精査が⽬的でした。
⽿⿐咽喉科受診時、⿎膜所⾒正常・聴⼒検査正常でしたが、ABR(後述しますが、聴性脳幹反応のことです)で左I-V波間隔の延⻑が⾒られました。これは脳幹部の障害を意味する所⾒です。しかも眼振検査と⾔って眼球の観察によるめまい検査では、下眼瞼向きの異常な眼球運動が確認されています。これも、⼩脳から脳幹部にかけての病変を⽰唆する結果です。なお、そのとき撮影されたCTでは、Ⅳ脳室の拡⼤と両側⼩脳の萎縮を思わせる画像が得られました。
加えてCMI(⾃覚症状のチェックリストでことに精神症状の把握に使⽤される)はⅣ領域を⽰し、MAS(不安尺度の問診表)でAが46と、強いうつと不安を呈しました。私はうつ病の存在と何らかの中枢神経疾患との併存を考え、抗うつ剤の内服を⾏なうと共に、後者について脳神経内科を紹介しました。
抗うつ剤は著効を⽰し⾃覚症状はほとんど消失しましたが、脳神経内科では数々の⾃律神経失調症状と⼩脳から脳幹部の症状から、OPCA(オリーブ・橋・⼩脳萎縮症)の疑いと診断されました。同科では⼊院の上、TRH(サイロトロピン分泌ホルモン)筋注療法が実施されましたが効果無く、私の投与した効うつ剤のみが有効でした。さすがにOPCAの診断名に疑問が持たれ、再度精密検査がなされることになりました。その結果、左側椎⾻動脈造影で左側後下⼩脳動脈の下⽅偏位が⾒つかり、この⽅はアーノルド・キアリ奇形であることが判明しました。
アーノルド・キアリ奇形とは、⼩脳と脳幹とが頭蓋⾻の⼤後頭孔へ嵌⼊してしまう奇形で、成⼈後になってその⼩脳・脳幹症状の出現する病気です。
つまりこの⽅は、アーノルド・キアリ奇形による中枢神経症状と、うつ病による⾃律神経失調症状が合併していた訳です。その結果、CTの所⾒と併せてOPCA疑いの診断が下されることになったのです。
なおCTの所⾒は、アーノルド・キアリ奇形による⽔頭症と⼩脳の下⽅への偏位によって、脳室拡⼤や⼩脳萎縮のように⾒受けられたことが、後刻確認されました。
関連リンク
・めまいの方へ
前話 目次 次話