みみ、はな、のどの変なとき
13 エピソード4「急性中耳炎と鼓膜切開のときの子どもへの説明」
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お話ししましたように、⾵邪のときなどに強い⽿の痛みを訴えて、⼦どもが⽿⿐科外来を受診することがあります。⽿の中を診ると⿎膜が真っ⾚になってすごく腫れ、とっても痛そうです。そんなとき痛がってむずかる⼦どもに、事態の説明をするのはかなり困難です。私はキャンディーを準備しておいて、急性中⽿炎の⼦どもにはまずそれを差し出します。思わず受け取ってしまった⼦どもに、私はこう解説します。
「○○ちゃん。○○ちゃんのお⽿の中で、バイキンマンが暴れているよ︕お⽿の中を覗いたら、ドキンちゃんがVサインをしていた。ほったらかすとお⽿がくさっちゃうから、アンパンチでバイキンマンを退治してあげようね。」
その瞬間、今までベソをかいていた⼦どもの⽬⽟が真ん丸になります。続いて、
「だから頑張ってね」
と念を押すと⼦どもは、ついつられて
「ウン!」
と答えます(図9)。
図9
こうして無理無く⼦どもに急性中⽿炎の説明をして、⿎膜切開まで話を持って⾏くのですが、ふと傍らに⽴って私と⼦どもの会話を聞いている親の顔を⾒やると、なんと親の⽬⽟の⽅が⼦どもの真ん丸な⽬⽟よりも、もっと丸くなっていました。
急性中⽿炎で頭に⼊れておかねばならないのは、本当にごく稀なことではありますが、全⾝状態が悪くなり髄膜炎の発⽣することもあることです。そうなってしまうことはめったに無く、めずらしいと⾔って良いのですが、⽿の状態ばかりでなく⼦どもの全⾝状態にも気を配ることは重要です。ぐったりする、ぼんやりして反応が鈍い、⾼熱が出る、などの症状がありましたら、⼀応医師にその旨伝えてください。
⼦どもの場合、⼤⼈に較べて急性中⽿炎になり易いことは事実です。それはさきほど触れました⽿管という管が、⼦どもでは⼤⼈に⽐較して太く、短く、しかも⽔平に位置しているために、のどの急性炎症に際して細菌が⽿に⼊り易いのです。ですから⼦どもではのどに炎症が⽣じると、急性中⽿炎に容易に移⾏する訳です。この状況から、⼦どもでは⼀度急性中⽿炎に罹ると中⽿炎を繰り返し易くなる、と感じる親の⽅もおられます。ですがその間の事情は、今ここに記した通りなのです。実際、⽿⿐科では「つ離れ」という⾔葉があって、中⽿炎で⽿⿐科に通院する⼦どもは、ほとんどが9歳までとなっています。つまり「⼀つ、⼆つ、 ……九つ」までの⼦どもであって、「⼗(とお)」つまり”つ”の付かない年令の⼦どもになると、ほとんど中⽿炎での⽿⿐科通いには縁が無い、というのが⼀般的です。
それにしても急性中⽿炎は、なぜか休⽇の前夜に多いような印象がありますが、その理由は良く判りません。年末年始に急患を診ていると、⼤晦⽇までは急性中⽿炎がひっきりなしに受診するのに、お正⽉になった途端にホントに⼀⼈も中⽿炎が来なくなるのです。
中⽿炎にまつわる、ナゾの⼀つです。
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