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みみ、はな、のどの変なとき

1 原始信仰とピアス

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何年か前まではまだ⽇本社会には異質で、ちょっと好奇の⽬で⾒られたピアスですが、最近ではファッションとして定着した感があります。

⽇本社会には異質と書きましたが、本当にピアスは⽇本では異⽂化なのでしょうか?
 なぜなら、法隆寺の九⾯観⾳など⽇本の古い仏像で、⽿たぶにピアスを装着しているものが散⾒されますし、有名な鎌倉⼤仏の⽿たぶにだって⽳が開いています(図1)。
 もしかするとピアスは、古代の⽇本ではむしろ正式のおしゃれとして、当たり前のことだったのかも知れません。昔の⼈の⽅が、現代⼈より進歩的だった証拠かな。

図01 図1

 

冗談はともかくとして、⽇本以外の国では今でも⼦どもが⽣まれると、ことに⼥の⼦では⽣後数ケ⽉のうちにピアスを装着する習慣があります。
 私⾃⾝も、在⽇フィリピン⼈の⽣後何ヵ⽉かの⼥の⼦の⽿たぶにファースト・ピアスを着けてやったことがありますし、ブラジルの⼥性と結婚した知⼈(⽇本⼈)は⾃分の⼩さな娘の⽿にピアスがすでに装着されているのを⾒て、⽬を真ん丸にして「これ、いつ着けたの︖」と奥さんに尋ねていました。さらに私が中国各地にアレルギー調査に赴いても、3歳くらいの⼥の⼦がちゃんと⽿にピアスを着けている光景を良く⾒かけます。

あるいはこの⽇本でも、昔はピアスを⼩さな頃から装着する慣習があったかも、などと想像することは別に不⾃然ではありません。この、とくに⼥の⼦が幼いうちから⽿たぶにピアスを着けてしまうのは、なぜなのでしょうか。

古代から、⼈間が病気になるのは体外から何か悪さをする魔物が⼊って来て、⼈間を冒すためだと信じられて来ました。ですから⼈が病気になると、例えばそれがお腹の病気ですとヒマシ油を飲ませて下痢をさせます。もちろん、体内に取り込まれた悪い要素を体外に追い出そうとする⽬的のため、です。
 それに昔は、体調が良くないと瀉⾎と⾔って⾎管を切って悪い⾎液を外に出してしまう治療が、ヨーロッパを中⼼に⾏なわれていました。「セヴィーリアの理髪師」というロッシーニのオペラがありますが、その第⼀幕で主⼈公の理髪師・フィガロが登場するカヴァティーナ「おいらは町の何でも屋」には、床屋の仕事と共に瀉⾎のための蛭を持ち歩いている様⼦が、⾼らかに唄われています。

さらには古代から狐憑きと称して、狐の霊が⼈体に取り憑いて病気になるとの⺠間信仰があり、これに対しては取り憑かれた⼈間の体を太⿎のバチで叩いて、狐を追い出そうとする⾏為がなされます。この奇妙な⺠間信仰はけっこう最近まで遺っていて、そのためにバチで叩かれた⼈が死亡した事件も、話題になったことがありました。
 それに対して、病気を予防する⽬的から⼈体になんらかのお守りを装備する習慣も、現在まで続いています。これは家など建築物でもそうですが、悪さをする魔物が内側に⼊らないように⽞関始め⼊り⼝に、魔除けを置くものです。そして魔除けとして、お札や沖縄のシーサーのような聖獣そして宝⽯などの光るものが使⽤されます。

どうして、光るものには魔除けの効果があるのでしょうか︖そう⾔えば三種の神器(剣・勾⽟・鏡)もみんな光るものでしたが、恐らくこれらの光には魔物の棲む暗闇を照らし、明るくする⼒があると信じられて来たために、相違ありません。だって明るいところには、闇を好む魔物は棲み着けないのでしょうから。
 このように考えて来ると、古代⼈がピアスを⽿たぶに装着した習慣も理解ができます。⽿の⽳は、⿐の⽳や⼝の⽳そしてその他の⼈体の⽳(⽿⿐咽喉科では扱いません、念のため。)同様、外界に開いている窓⼝であり、そこからは魔物が⼈体内に⼊り込んで悪さをし、⼈は病気となるのです。

ですからこうした⼈体の窓⼝には、魔除けを置かねばことにひ弱な幼児は病気になってしまう、そう信じられていたのでしょう。
 年頃となった⼥性が、なんとなくおしゃれとしてピアスを着けたがるのも、あるいは妙齢の⼥性が魔に魅⼊られ易いためかも知れません。

 

関連リンク
 ・医学コミック「ピアストラブル殺人事件!?
 ・3443通信 No.315 エッセイ「ピアスの穴の白い糸」

 

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