2021年8月(No.318)
少年とドクターのひと夏の小さな物語
院長 三好 彰
このお話は、ファイザー製薬広報誌「きずな」秋号の取材が行なわれた際の記事です。院長と急性中耳炎で受診した澤田浩貴くんのエピソードです。
おばあちゃん、耳が痛い!
仙台市内から車で50分ほどのところにある黒川郡大和町。この町に古くからお住まいになっているのが澤田さん一家です。親子三代が同居するにぎやか家族ですが、常に中心的存在なのは6歳になる長男の航丞くんと次男で5歳の浩貴くん。育ち盛りのこの二人、近所でも評判のわんぱく者です。
弟の浩貴くんの様子がいつもと違うことにおばあちゃんが気づいたのは8月初めの朝のことです。「耳が痛い」と泣きじゃくる浩貴くんを見て、おばあちゃんは中耳炎ではないかと直感。さっそく近くの病院へ電話連絡します。しかし、あいにくその日は土曜日で休診。どうしようかと考えているときに思い出したのが、三好耳鼻咽喉科クリニックでした。
「三好先生のところは土日もやってますし、とても良いという評判を聞いていましたからね」。
クリニックのある仙台市泉区までは車で約30分。おばあちゃんは痛みに耐える浩貴くんを傍らに乗せ、取るものも取りあえずクリニックに向かいました。
キャンディーと“こちょこちょ”
子供にとってお医者さんは怪獣やおばけと同じようにこわいものです。耳の痛みとお医者さんに会う恐怖で泣きじゃくる浩貴くんの前に現れた三好先生。すっと差し出した手のひらにいくつかのキャンディーが並んでいます。意外なものが現れびっくりして泣きやんだ瞬間、先生は浩貴くんのわきの下をくすぐります。身をよじる浩貴くんに三好先生はこうささやきます。
「ひろきくんのお耳の中でね、バイキンマンが暴れているよ。お耳の中をのぞいたら、ドキンちゃんがVサインをしてた。今、アンパンチでバイキンマンとドキンちゃんをやっつけてあげるからね」。
すると浩貴くんはぐっと涙をこらえて、「うん、僕がんばる」。
浩貴くんの病名は急性中耳炎。風邪をひいたときに、風邪のバイ菌が咽から耳管を通って耳の中に入ってしまい、耳の中にたまった膿が内側から鼓膜を圧迫することによって痛みを生ずるものです。耳管が細くて長い大人の場合はほとんどなりませんが、耳管が太くて短い子供はかかりやすい病気。鼓膜に小さな穴を開けて膿を出してやることで痛みを抑えることができます。
「正式には“鼓膜切開”というのですが、そう言うとお子さんはおびえてしまう。そのおびえをなくしてあげようと思って、さまざまなテクニックをつかうんですよ」と三好先生。治療を終えた浩貴くんは、先生からもらったキャンディーを口いっぱいにほおばり、まるで何事もなかったかのように笑みを浮かべています。
コンプライアンスの高い薬剤
夕方、勤務先から帰宅した母親の裕子さんは、事の顛末をおばあちゃんから聞きました。当然明日も病院に行く必要があるのだろうとおばあちゃんに尋ねると、「いや、来なくていいって。1週間後に行けばいいそうよ」との返事。
「なんで1週間も行かなくていいんだろうって思いましたね。1日1回3日間飲むと、1週間作用が持続する薬なんて初めて。びっくりしたし、ちょっと不安も感じました。でもその通りに服用させたら順調に回復していきましたからね。ああ、こんな薬もあるんだって感心しました」と話す裕子さん。先生から処方されたその薬はジスロマックでした。
「例えば、入院治療の場合、今はできるだけ短い在院期間で、退院を早める傾向にあります。ところが外来診療の場合は、通ってもらえればもらえるほど病院側にメリットが発生するので、通院頻度がなかなか減っていかない。しかしこれからの時代は、必要な処置を施したら特別なことがないかぎり通院しないで済む。つまり患者さんの負担を軽減する治療姿勢が求められると思います。そうしたスタンダードともいえる治療を実現するには、3日間投与すれば1週間効力があるジスロマックのような薬のサポートが重要になるんです」と三好先生は話します。
夏の日に輝く2つの笑顔
鼓膜切開をしてから1週間後、三好クリニックの近くにある公園で遊ぶ浩貴くん。診察修了後、おばあちゃんとお母さん、そしてお兄ちゃんの4人で公園で遊ぶ約束をしていたのです。
「先生、こわくなかった?」の問い掛けに浩貴くんは答えます。
「ぜんぜんこわくなかったよ。だって、あの先生こちょこちょするんだもん。それに痛くならないおまじないのシールも貼ってくれたもん」。
「あれ、最初、痛いって泣いてたのは誰だっけ(笑)」とからかうお母さん。
「僕、泣いてないよぉ?」と半ベソをかきながら、逃げるお母さんの背中を追いかける浩貴くん。遠く小さくなっていく2人の姿に三好先生の言葉が重なります。
「医学というのは、本当はすごく身近なものなんです。それなのに、難しい学問に祭り上げられてしまって、誰が主体なのかよく分からなくなってきています。もっと医学を身近に感じてもらうために、患者さんを支配するのではなく、患者さんの良きパートナーという関係でいることが大切だと私は思っています」。
そう考える三好先生にとって、処方する薬は患者さんへのメッセージ。そのメッセージを浩貴くんはしっかり受け止め、すっかり元気になりました。
わんぱくな兄弟を遠くから見つめるお母さんとおばあちゃん。強い夏の日差しを受けた2人の顔には、満面の笑顔が広がっていました。