2021年6月(No.316)
映画「ブータン 山の教室」鑑賞レポ
秘書課 菅野 瞳
世界一幸福な国
「世界一幸福な国」と問われれば、私は迷いなくブータンと答えます。世界各国を飛び回ることを生きがいにしている私でも、まだ訪れたことのない未知の国の一つです。
自身の肌でその地を感じた訳でもないというのに、ブータンを世界一幸福な国と思っている人は少なくない筈です。それならば、何故ブータンという国は、世界一幸福な国という代名詞を持つのでしょう。この映画を鑑賞後に、その答えが導き出せるかもしれないという思いに心躍らせ、幸福のお裾分けにあやかるべく? 宮城県では唯一上映をしているフォーラム仙台へと向かいました。
いざ上映!
館内の照明が落ちて上映が始まると、まず私を惹きつけたもの……それはこの映画の大舞台、ブータンの山々の風景ならびにこの地に伝わる伝統歌でした。伴奏がある訳でも、コーラスがある訳でもないその伝統歌は、目を閉じればブータンの僻地(標高4800m地点にあるルナナ村)が思い浮かび、雄大さや広大さが唄われ、この地を愛して止まないという想いが溢れんばかりに表現されており、私の心に染みわたるものでした。
ブータンは決して広い国ではありませんが、首都ティンプーからバスで2日、その後山道を6日も歩いてようやっと辿り着く村、それがルナナです。
都会生活を送る本作の主人公ウゲンは、この村への転勤を命じられます。彼の望み……それはオーストラリアに移住して歌手として生きること。そんな夢を抱く彼が命ぜられた転勤先ルナナ村は、天と地ほどの差。彼の落胆ぶりは安易に想像出来ます。
案の定やっとの思いで辿り着いた村は、子供たちに勉強を教えるための黒板もなければ、紙すらもが貴重という教育環境、またスマホを使うために充電をしたくとも電気すら通っていない、想像以上の僻地なのでした。
日に日に帰郷の想いを募らせる主人公。
そんな彼に対し村民は、まるで天からの使者を迎えるかのように口を揃えてこう言います。「先生は未来に触れることが出来る。先生は尊敬すべき人だ」っと。
都会生活を送り、根無し草になりかけていた主人公の胸に刺さった村民の言葉。自分の来訪を心待ちにし、自分をこれでもかと言わんばかりに崇めてくれる村民の想いに触れ、主人公の心は動かされます。
余談になりますが、私が世界に目を向けるようになったきっかけは、中学時分に「井の中の蛙になるなっ!」という教えがあったからです。その当時の私にはこの教えがだいぶ心に響いたのでしょう。小さい人間になるな、小さくまとまるなっ! と、いつでも自分に言い聞かせて、良くも悪くも現在に至るこの態度のでかさがあるのかもしれません(笑)。
しかしこの映画を通し、井の中の蛙は必ずしも悪いとは言えないのではないか? 逆に井の中の蛙であるが故の幸運が、もしかしたらあるのではないか? と、考えさせられました。
この僻地に今後残るか否か、心揺るがされながらも、村を去ることを決意した主人公に対し、村長が感慨深げな表情で告げた言葉が、私はとても印象に残りました。
「世界一幸福な国と言われているのに、先生が幸せを求めて外国に行く」。
この重みのある言葉に彼は、何も返答をしませんでしたが、本当にこれでいいのか?後悔はないのか? と、何度も自問自答をした筈です。
さいごに
幸せの定義や形……これは人それぞれです。世界一幸福な国と称されるブータンにおいての幸せは、沢山のことを知らないからこそ言えるものなのかも知れません。どこで何をしていようとも、自分がしっかりとした根をもっていれば良いだけのこと‼ 久々に心が抉られる良い映画に出合えました。