2020年3月号(No.301)
効果的な耳の換気法
滲出性中耳炎治療の基本は中耳腔換気だ、と言いました。ではそれを最も効果的に行うには、どうするのでしょう?
中耳腔は、耳管を一種の窓とした部屋に例えられます。そして耳管の機能が低下していると、中耳腔は閉鎖腔になってしまいます。この中耳腔の換気能力低下が滲出性中耳炎の原因ですから、治療は中耳腔の換気が目標です。
そのために前項で述べたような通気がなされますが、通気だけでは換気の不十分なこともあります。これは、いわば図1・2の状態です。
図1 換気のされた状態 図2 換気のなされなかった状態
つまり部屋の換気を図るのに、一方の窓だけを開けても風が十分に通るとは限りません。対側の窓も開けると良いのですが。
中耳腔換気も同じ理屈です。一側の窓に例えられる耳管が開いているだけではスムースに換気のできないときでも、対側にあたる鼓膜に窓のあった方が、換気はうまく行くのです。
その目的から、鼓膜に図3のような小さなチューブを図4のように挿入し、持続的に換気ができるような処置をすることもあります。これをチュービングと称していますがその結果、図5に示すように空気は耳管とチューブを介して自由に流れることとなります。中耳換気法は、劇的に改善する訳です。
図3 様々な形のチューブ 図4 鼓膜にチューブを挿入します 図5 チューブを通じて中耳腔の換気がなされます
興味深いことに、耳管の機能が悪く耳管通気だけでは中耳腔換気の確保できない例でも、チューブを挿入すると耳管機能まで改善するのです。
換気機能の良くない耳管は半開きの窓みたいなものですから、対側に全開の窓があれば半開きなりに空気が良く通る。そういうことなのでしょうか。
このチューブの大きさですが、鼓膜の直径が約1㎝ですから、チューブもせいぜい2~3㎜くらいの小さなものです。こんなに小さなものだけに、鼓膜にチューブを挿入するには精密な操作が必要です。
大人の滲出性中耳炎ではこの操作は鼓膜の麻酔だけで痛みなく行なえますが、子どもでは痛がったり怯えたりして動くことがあります。そんなときには、チューブ挿入時に全身麻酔を使用します。
挿入したチューブの留置期間ですが、子どもではアデノイドが大きかったり、耳管処置を嫌がったりして十分な中耳腔換気治療のできないこともあります。そんな例では何年間か、チューブを留置しておくものです。
中耳炎については、コミックコーナーの医学コミック6巻「中耳炎世界の冒険」もご覧下さい。