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2020年9月号(No.307)

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耳の神経も疲れてしまう

年をとると耳が遠くなります。耳が遠いことつまり難聴というのは、しかし中々理解されにくいところがあります。一番大きな誤解は、耳が遠ければ大きな声で話してやれば聞こえるはずだ、という単純なものです。けれどもそれは、勘違いです。その理由について、ご説明しましょう。
 理由の第一は、老人性難聴では高い方の音から聞こえが悪くなって来る、ということです。
 すると話をされていることは分かるが、その内容までは分からない。そんな奇妙なことが起こります。それは言葉の音の成分の問題なのです。例えば“アイウエオ”といった母音は、成分が比較的低い音域にあります(図1)。それに対して“サシスセソ”などの子音は、成分が高い音域にあります。そうすると、高音域の聞こえの悪い老人では(図2)、言葉のはしばしを構成する“サシスセソ”を言われた場合に良く聞こえない、という結果となります。
 そのために老人性難聴では会話の際、話しかけられていることは分かるが、言葉のはしばしが聞き取れず、話の内容はまるで理解できない、ということになるのです。
 それと、こんなこともあります。隣の家のおばあちゃんに声を掛けるとき、小さな声で「おばあちゃん」と呼び掛けても聞こえません。かといって大きな声で「おばあちゃん!」と叫ぶと、おばあちゃんはこう答えます。「なんだよ、うるさいね」と(図3)。
 これは実は、耳の中の神経細胞がダメージを受けているときの特徴なのです。“補充現象”と呼ばれるこの変な事態は、小さな音はまるで聞こえないくせに大きな音はいきなりやかましく聞こえる、ということです。
 ですから、おばあちゃんに声を掛けるときには決して大きな声を出さず、耳もとではっきりと発音してやった方がよく分かってもらえ、「うるさいね」などと言われずに済むのです。
 年をとると脳も老化し、言葉の判別能力も衰えるものですが、これも会話を理解しにくくなる原因の一つです。
 大きな声は決してお年寄りに万能ではありません。はっきり・くっきり話しかけましょうね。

図01図02図03

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