2020年10月(No.308) はじめに 季節は一気に秋となりまして、食欲、芸術、紅葉鑑賞などの楽しみが増える時期でもあります。 前回の職業性難聴の話題でも触れましたが、大きな音による耳の聞こえの悪化は何も、仕事の時だけではありません。 コンサートなどの大音響に晒された場合でも同様の症状が起きてしまいます(図1)。 今回は、そんな大きな音にまつわるお話の続きをご紹介します。 ロックコンサートで 音響性外傷のところで少し触れましたが、大音響を突然耳元で聞かされると耳が変になります。前項でお示ししたのは聴力が侵された例でしたが、耳の中には音を感じる部分とめまいを感じる部分とがあるため、大音響でめまいを生じる例もあります。 宮城県民会館(現在の東京エレクトロンホール宮城)で行われたロックコンサートで、図2の席で音楽を楽しんでいた22歳の女性が図3のような難聴となりました。彼女は大学生でしたが、試験のため睡眠不足で食事も十分に摂っていなかった、とのことでした。 コンサート開始後20分くらいしてから、聴いている音楽の語音がはっきりしなくなり、冷や汗が出て気分が悪くなるのが自分でも分かりました。 県民会館の外へ出てみると、普通に歩いているはずなのに足元がしっかりせず、まるで雲の上を歩いているような感じがします。おまけに左耳の聞こえが悪く、耳鳴りもします。 彼女はその足で私たちのもとを訪れ、早速治療を受けることになります。これは後から分かったことですが、他にも耳鳴りや耳の違和感を訴える例がこの日は何人かいたようなのです。 彼女は図3の聴力障害のみならず、平衡機能検査でバランスをとる検査を受けたときに、体全体が左側に倒れる傾向のあることも分かりました。 その後彼女は、安静にしビタミン剤やステロイドの点滴を受け、幸いにも図4のように聞こえが元に戻りました。それと共に、平衡障害も治って行きました。 内耳には大きな音に対する防御機構が、本来備わっていると考えられます。ただしその機構は、体調が万全のときにうまく作動するものと思われ、本項の例のように睡眠不足だったり空腹だったりした場合には、必ずしも本項の働きをする訳ではなさそうです。 その際本項の例のように、難聴だけでなくめまいまで発生する場合のあることを、肝に命じておく必要があります。 そしてロックコンサートなどのように、強大な音響に暴露されることが予め分かっている場合には、体調をできるだけ整え決して無理をしないよう心がけねばなりません。