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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

第46回平衡機能検査技術講習会に参加しました 看護課 佐藤 直美

はじめに

 2016年7月11日(月)~15日(金)、東京都中央区日本橋で開催された、第46回平衡機能検査技術講習会に参加いたしましたので、そこで学んだことをご紹介させていただきます。
 日本橋は、多くの老舗が立ち並び、歴史的な建造物と現代的な商業施設が調和する素敵なところでした。機会があればまた訪れたいと思います。

1.平衡の保持にかかわる 前庭系の解剖

 私たちの体のバランスは、前庭系(三半規管・耳石器)、視覚、体性感覚によって制御されています。耳は外・中・内耳の3つの部分から構成されているのですが、前庭系は内耳にあります(図1)。
 内耳には、聴覚を司る蝸牛も存在します。
 前庭系は、三半規管と耳石器から構成されます。三半規管は、半環状の互いにほぼ直行角をなす3つの管で、その位置により、外側(水平)半規管・前半規管・後半規管といいます(図2)。
 耳石器は、互いに直角を成す卵形嚢と球形嚢から形成され、上部には耳石膜があります。耳石膜の中には炭酸カルシウムよりなる耳石があります。
 前庭系から発した前庭神経は、前庭神経核を形成します。前庭神経核は、直接小脳へいくほかに、眼筋の運動核(動眼、滑車、外転)に連絡します。このことは、前庭と眼球運動との密接な結びつきを示します。

(図1) (図1)

(図2) (図2)

2.めまいの種類

 めまいは、ぐるぐる回る回転性めまい、ふらふら、ふわふわした感じがする浮動性・動揺性めまい、目の前が暗くなる、一瞬気が遠くなる立ちくらみのようなめまい、つまずく、まっすぐ歩けないなどの平衡失調に分類されます。
 回転性のめまいでは、自分が回転したり、周りのものが回る感じがします。回転性めまいの多くは、前庭もしくは脳幹・小脳に原因があって生じます。
 脳幹か小脳に病変が存在する中枢障害による中枢性めまいでは、ものが二重に見える複視、呂律が回らない構音障害、四肢や顔面の動きにくさ・しびれ感といった神経症候を伴います。
 めまいに難聴や耳鳴りを伴う場合には、耳に病変が存在する末梢性めまいである可能性が高いです。

○メニエール病

 

内耳全体がダメージを受けるメニエール病では、繰り返すめまい・耳鳴り・難聴が生じます。めまい発作の消褪とともに蝸牛症状も軽快します。メニエール病の発症にはストレスの関与が大きいとされ、ストレス軽減目的の生活指導や運動療法も重要となってきます。

○突発性難聴

 突発性難聴では、急激な難聴と耳鳴りに一時的なめまいを伴うことがあります。平衡機能検査上はメニエール病に類似していますが、めまい発作を反復しない点が異なります。
 治療は、ステロイド、循環改善薬、ビタミンなどの投与が主となります。聴力の改善は治療開始時期が早いほど良く、発症後1ヶ月以上経過すると聴力の改善は望めません。
 めまいは程度にもよりますが、数日から数週で改善、消失します。

○中耳炎

 急性中耳炎では内耳障害は約1%に起こるといわれ、このうちめまいは30%前後に生じます。小児より成人に多いとされます。慢性中耳炎のめまいは浮動性のめまいが多く、感染性の病変が内耳に急速に波及すると、自発性、回転性のめまいを生じます。

○前庭神経炎

 ウイルス感染や血管障害が原因で前庭神経に病変を有するとされる前庭神経炎では、回転性で強いめまいが生じますが、反復はせず蝸牛症状もありません。
 頭の位置を変えた瞬間に発生する、良性発作性頭位めまい症(BPPV)は、末梢性めまい疾患のうち最も頻度が高い疾患であり、3に詳述します。

○心因性めまい

 めまいには、これら中枢性や末梢性のめまいのほかに、器質的・機能的な障害がないにもかかわらず、心理的因子によりめまいを感じる心因性めまいがあります。心因性めまいにおけるめまい感では、回転性、浮動性あるいは平衡障害のいずれもが生じ得ます。

3.良性発作性頭位めまい症(BPPV)

 良性発作性頭位めまい症は、頭位の変化により誘発されるめまいと眼振が特徴です(図3)。
 主な病因は、耳石器から剥がれた耳石が半規管に紛れこみ、体の姿勢の方向によって動くたびに半規管の神経細胞を刺激してめまいを起こします。
 仰臥位でもっとも低くなる後半規管には耳石が集まりやすく、後半規管の結石症は典型的な病因と考えられます。

(図3) (図3)

(図4) (図4)

○めまい体操「エプリー法」

 治療には、抗めまい薬や循環改善薬を使用する薬物療法、耳石置換法とも呼ばれる頭位変換治療が有効とされます(図4)。
 当院でも施行している頭位変換療法、エプリー(Epley)法の概略についてご説明します。
 まず、めまいの原因が“右耳の後半規管”とした場合、まず患者さんの頭を右に45度傾けた懸垂頭位をとります(図5)。
 そして、徐々に懸垂頭位正面、その後に左下懸垂頭位へと、頭の向きを変えていきます(図6)。
 さらに身体全体を左側臥位とし、顔面は45度下方を向いてもらいます(図7)。
 この操作によって右後半規管に集合した耳石が耳石器へと移動することになります。左耳の場合は左右が逆となります。治療終了直後には、一時的に動揺感が増強することもあり、注意を要します。
 エプリー法により、めまいが消失したり、著明に改善する方も少なくありませんが、20%前後の症例に再発があり、再発までの期間は1ヶ月から1年とまちまちです。

(図5)仰向け(懸垂頭位)になり頭を右45度に傾けます (図5)仰向け(懸垂頭位)になり頭を右45度に傾けます

(図6)頭の向きを左45度に変えます (図6)頭の向きを左45度に変えます

(図7)体を左向きに倒して頭を左45度(135度)に傾けます (図7)体を左向きに倒して頭を左45度(135度)に傾けます

4.エプリー法の体験談

 では、実際に当院でエプリー法を体験された方の症例をご紹介いたします。

●症例1.福島県在住  男性(39歳)

 この方は、4年前の2013年に初めてめまい発作が起きました。その際、激しいめまいのために身動きが取れずに救急車で内科に搬送されました。その時は特に脳などに異常は見られずに帰宅されました。
 後日、検査専門のクリニックを受診され、MRI、採血、三半規管の状態を調べて貰いましたが、検査結果に異状は見られなかったそうです。
 2016年には脳外科で精密検査を受けるも、その時の結果も異状は見当たらなかったそうです。
 しばらく通院するも、今年4月に入ってから仕事中にフラフラする激しいめまいが起きてしまい、たまらずインターネットでめまい治療を行っている医療機関を調べた事がきっかけとなり当院を受診されました。
 当院において一連のめまい検査(後述の5の項目を参照)を実施したところ、左側の三半規管に原因のある良性発作性頭位めまい症(以下BPPV)である事が分かりました。
 2週間ほど通院されてエプリー法を行ったところ、お仕事に差し支えがない状態にまで快復されました。

●症例2.仙台市在住 女性(67歳)

 次の方は、4~5年前から体がグラグラとして体が引っ張られる感覚があり、時間が経つごとに症状が悪化、日常生活に支障をきたすまでになりました。
 症状発生時、仙台市内の耳鼻科を受診したところ、内耳に炎症が起きていると言われて通院するも症状快復せず、そこでは治療中止となりました。
 その後もいくつかの耳鼻科や内科、整形などを立て続けに受診されましたが、MRIやめまい検査をやったにも関わらず原因が特定されなかったそうです。
 そんな時、「げんき倶楽部杜人」に掲載されている院長のラジオ放送記事を読み、当院を受診されました。
 当院での診断結果は左側の三半規管に原因のあるBPPVでした。
 めまい検査では、この診断結果を裏付ける目の動き(眼振)が如実に見て取れましたので、エプリー法を行いめまいが楽になったとのお話です。

●症例3.仙台市在住 女性(70歳)

 この方は、市内の医療機関からの紹介で当院を受診された方です。
 今年の3月末からグルグル回る回転性めまいと共に吐気が強くなったため、仙台市内の総合病院を受診されました。
 その際、頭部MRIを撮影するも異常は見受けられず、別途に耳鼻咽喉科を受診してめまい検査をするもBPPVではないとの診断がなされました。
 しかし、その後も症状は治まらず食事をとる事も困難になり、総合病院の緊急救命室に搬送されました。
 この時、ご本人はめまいの原因が分からないことに大きな不安を抱えられていたそうです。
 その時はお薬の処方で幾分はめまいが改善されたそうですが、専門医の診断が必要との医師の判断から当院に紹介されました。
 当院での検査では、左側の三半規管に原因のあるBPPVであったので、すぐにエプリー法を実施しました。そして数日後に2回目のエプリー法を行ったところ、ご本人からめまい・吐気が無くなったと申告がありました。
 原因が分かり、なおかつ症状が改善されて安堵されたのか、その方は診療室で涙を流して喜ばれていました。

 このように、多くの医療機関を巡られても原因が特定されない事例は、残念ながら少なからずあるようです。
 めまいの診断には、前述した様々な原因が考えられるため、次から述べるようなめまい検査を行った上で、高度な知識を有した専門医に診てもらう事が重要です。

5.めまいの検査

 平衡機能検査は、内耳や脳の平衡に関わる機能の障害の有無や障害の程度を評価する検査で、いろいろなものがあり、ここでは当院で行われているいくつかをご紹介します。

① 重心動揺検査(図8)

(図8) (図8)

 平衡機能を前庭脊髄反射の面からみるために、直立姿勢の状態でからだのゆらぎ(動揺)を重心動揺計を用いて検査します。
 患者さんに、重心動揺計の検出台中央に、両足内側を接して直立してもらい、眼前2~3mの視標を1分間みてもらいます。引続き閉眼で1分間直立してもらい、動揺を記録します。その後、ラバーで負荷をかけた状態でも同様に検査、記録します。立位での検査であり、転倒などが起きないよう、十分な配慮を要します。
 解析はコンピュータによって行われ、平衡機能の異常の有無、程度を知ることができます。

② 追跡眼球運動検査

 小脳および脳幹を中心とした中枢の眼運動機能を評価するための検査です。眼球運動のうち、ゆっくりと動く物体の「速度の変化」、この追跡機能をみています。
 計測法には、ビデオ画像(VOG)式や電気眼振計(ENG)式があり、当院では前者を使用しています。
 検査結果として、正常および末梢前庭疾患では、通常、滑動性パターンと呼ばれる「滑らかな正弦曲線」が再現性をもって現れますが、小脳や脳幹障害では、滑動性が失われ階段状、失調状、追従不能を示します。

③ 書字検査(図9)

(図9) (図9)

 末梢性または中枢性障害で生じる上肢の筋緊張不均衡(偏倚)を検出するのが目的です。
 患者さんに正しく椅子にかけてもらい、利き手にペンを持ってもらいます。反対の手は膝の上においてもらいます。ペンを持つ手が机に触れないように、ペン先だけで用紙に縦書きで、4~5字の一連の文字を書いてもらいます。開眼で1行、次いで遮眼して4行書いてもらい、遮眼時には、検者がペン先を誘導します。
 開眼と遮眼の文字を比較することで、平衡障害の有無・程度の把握、患側の推定などが可能となります。また、失調文字(不調和で支離滅裂な文字)は小脳障害、振戦文字(ふるえている文字)は脳幹障害のときにみられることが多く、病巣診断の参考となります。

④ 聴覚検査(図10)

(図10) (図10)

 めまいの診療において、前庭機能障害だけではなく聴覚障害を合併した場合、病状はより複雑となります。
 患者さんが必ずしも難聴を自覚していないこともあり、めまいのある患者さんに聴覚検査を行うことは重要です。さらに、聴覚障害の部位診断を行うことは、めまいの原因を同定するのにも役立ちます。
 これらのめまいの検査は、どれも患者さんの協力を要します。私たち検者は、説明すべき点は説明し、患者さんの理解を得られるよう努めながら、検査を行っていきたいと思います。

6.さいごに

 講習会に参加して、臨床検査技師、保健師といった職種の異なる方々と交流し、他院ではどのように検査をしているのかなど、情報交換をすることもでき、とても貴重な機会となりました。今回学んだことを日々の仕事に活かしていきたいと思います。