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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集

 第47回 日本味と匂学会 市民公開講座 in 仙台1 会期:2013年9月5日(木)~7日(土)

去る2013年9月5日(木)~7日(土)、仙台市民会館に於いて第47回日本味と匂学会が開催されました。この学会が仙台で開催されるのは、28年ぶりとの事。その最終日に「味覚・嗅覚障害の臨床」と題して、市民公開講座が行われました。

講師に日本大学研究所の池田稔教授と金沢医科大学の三輪高喜教授をお招きし、オーガナイザー(座長)を当クリニック院長、三好彰が務めさせていただきました。その概要をご紹介いたします。

日本味と匂学会 第47回大会
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講演1 味覚障害の臨床

講師 池田 稔 先生(日本大学研究所 教授)

座長 耳鼻科は人生を豊かにする学問であると池田先生の恩師にあたる斎藤英雄先生がおっしゃっておられました。音を聞いたり匂いを嗅いだり、味わったりと人生の味わいそのものに通じる深い学問であると。本日は、池田先生に人生の味わいも含めたお話が聞ければと思っております。
 よろしくお願いいたします。

池田先生 私は、臨床医としての観点から研究を進めてまいりました。本日は、味覚障害と亜鉛の関係を中心に進めてまいります。

池田稔先生
池田稔先生
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専門医など 講師池田 稔先生のプロフィール

舌の味覚乳頭と支配神経

 味は舌や軟口蓋にある小さな器官、味蕾というところで感じます。味蕾は味細胞の集まりで、大部分は舌乳頭である茸状(じじょう乳頭)、有郭乳頭、葉状乳頭にあります(図1)。

 味覚は舌咽神経と顔面神経に支配されています。

 味細胞で受け取った刺激は、まず延髄の孤束核とよばれる神経細胞の集まっているところ(脳幹)に送られ、味覚末梢神経(舌咽神経や顔面神経)に伝達して、脳の中に入ります。これを一次味覚中枢といい、甘い・しょっぱいなど味の鑑別をします。更に食事の情報と合わせていくために大脳皮質前頭連合野に刺激が伝わり、噛み心地や温度、目で見た食材、匂いなどと統合・認識して、好みなどを記憶している扁桃体ですり合わせて視床下部に命令を出します(図2)。

 しかし、人ではまだ不明な点が少なくないといわれております。

(図1)
(図1)
(図2)
(図2)
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味覚障害の原因について ~亜鉛との関係を中心に~

 必須微量元素としての亜鉛と味覚障害の関連性について説明します。

 最初に、亜鉛が生物にとって必要(必須微量元素)だと報告されたのが、1869年。カビの一種であるアスペルギルスの成長に必須の元素であることが報告されました。続いて哺乳類では、ラットの成長、発育に重要であることが報告されました。その理由の一つとして、亜鉛が炭酸脱水素酵素の構成成分であることが発見されました。人では、1961年に亜鉛欠乏症についての報告があり、味覚症状もその一症状であると報告されました。更に、1970年には、味覚障害(ペニシラミンによる薬剤性味覚障害)に亜鉛内服が有効であるという報告が、ありました。これを契機に味覚障害に「亜鉛の対応を」が始まりました。

 それから、先天性の亜鉛欠乏である、腸性肢端皮膚炎の味覚障害に亜鉛内服が有効であるとの報告から、その後の多くの基礎や臨床研究が進められてきました。つまり、亜鉛は核酸・蛋白・糖・脂質代謝やDNA・RNAの合成に関与する酵素に不可欠で、生体機能に重要な役割を果たしているということです。

 様々な味覚障害を亜鉛の観点から見た場合の原因で一番多いのが、他の疾患に対する内服薬などの薬剤性の味覚障害(21.7%)です。理由の一つとして、亜鉛と結びついて(亜鉛に対するキレート作用)体外に出す作用のある薬剤が、数多く存在するということです。

 続いて多いのが、特発性の味覚障害が15.0%程です。血清亜鉛値や様々な臨床検査が正常で、問診でも味覚障害の原因や誘因を明らかに出来ない症例です。一つの考え方に、血清亜鉛値では評価できない潜在的な亜鉛欠乏が原因ではないかといわれております。

 血清亜鉛値が低下する亜鉛欠乏性が14.5%、全身性疾患が7.4%になります。全身性疾患のうち、腎障害では、蛋白尿による尿中への亜鉛排泄増加に伴う亜鉛欠乏が原因とされています。肝障害は尿中の亜鉛排泄の増加や消化管の亜鉛吸収の障害が原因です。糖尿病の場合は、ニューロパチー(末梢神経の伝導が障害される病態)以外にも尿中への亜鉛排泄の増加も一因ではないかとされています。

 味覚障害のすべてが亜鉛との関係があるわけではありませんが、亜鉛で説明可能な病態が数多くあります。味覚障害を扱う上で、亜鉛欠乏との関連を考えながら対応していくことが重要だと思います。

亜鉛欠乏ラットの味覚障害

 亜鉛を欠乏させたラットは、食欲不振・成長障害・皮膚病変・脱毛・味覚障害が発現し、味細胞の増殖能の低下が認められます。

 どのように実験したかといいますと、動物に味覚障害がありますか? と問いかけても答えてはくれませんので、キニーネ(キナの樹脂に含まれる有機化合物)の苦い味の水を誤って飲んでしまわないかという取り違え実験で、評価しました。

 亜鉛が含まれていない飼料で4週間飼育したラットは、亜鉛含有飼料ラットに比べ、有意に取り違えて苦い水を飲んでしまうという結果が出ております。その後、味覚障害を起こしたラットをそのまま亜鉛欠乏のまま飼育しますと、やはり取り違え率は高いままです。亜鉛含有の薬剤を投与していきますと取り違え率は明らかに低下し、亜鉛含有飼料で飼育されたラットと同程度の取り違え率まで、改善されました。つまり、亜鉛の欠乏により味覚障害が生じ、亜鉛の投与により、味覚障害が改善するということが言えます。

 また、亜鉛欠乏で飼育したラットの味蕾細胞の新生に影響を与えるかという実験は、増殖中の細胞のDNAに取り込まれる増殖細胞(BrdU)をラットにも与え、有郭乳頭を取り出して、BrdUが味蕾の中の味細胞にどのくらい取り込まれているのかを検討しました。正常飼料で飼育したラットに比べ、亜鉛欠乏の飼料で飼育したラットのほうが、BrdUの取り込み率は、低い結果でした。更に、亜鉛欠乏飼料で飼育したラットに、亜鉛含有の薬剤を投与しますと、有意に回復しました。つまり味細胞へのBrdUの取り込まれ率に対する亜鉛の効果は、亜鉛欠乏により、味細胞の新生・交代が阻害され、亜鉛の投与により、味細胞の新生・交代が回復してきます。亜鉛と味細胞は関連があるということです。

 亜鉛欠乏ラットの味蕾細胞を電子顕微鏡で確認すると、亜鉛欠乏により味蕾細胞の微細構造の断裂や欠如、空砲化など顕著な障害が生じていることがわかります。

亜鉛欠乏による味覚障害の発現機序

 亜鉛欠乏による味覚障害の原因の一つは、味細胞の新生障害です。

 一定のサイクルで「味細胞」が新生・分化しますが、亜鉛欠乏にしますと「味細胞」の新生・分化に障害が生じ、味細胞の微細構造の障害が発生します。結果、亜鉛欠乏による味覚障害が発現します。

味覚受容体

 基本の味は5つあります。うま味、甘味、苦味、酸味、塩味です。酸味や塩味は、チャンネル型受容体といわれ、温度や、辛味に関与する受容体です。うま味、甘味、苦味は、Gたんぱく質共益型受容体といわれております。動物の種類でその遺伝子に変化があり、例えば猫は、甘味を感じる遺伝子にダメージを受けていて、甘味を感じないと報告されております。そのほかの肉食の動物も同様であるといわれています。ジャイアントパンダは、逆に、うま味を感じないため、笹などを主食にしています。更に、中国人や日本人などのアジア人は、うま味の受容体の発現頻度が高いため、うま味に対する感受性が高いといわれております。

 苦味の受容体の発現率を健常者と味覚が低下した患者様と比較すると、味覚が低下している場合、有意に遺伝子の発現率は、低下していました。味覚が低下する要因の一つにこのような遺伝子の発現が関与しているといえます。

 亜鉛欠乏ラットの味覚受容体の発現の変化を検証しました。

 方法として、サンプリングにラットの舌を摘出し、上皮剥離用酵素液をその上皮下に注入します。組織標本の洗浄のため、リン酸緩衝生理食塩水に浸漬後、有郭乳頭部の上皮を剥離摘出して、苦み受容体が発現するかを検証しました。結果、亜鉛欠乏食ラットにおいて、一部の受容体の発現が有意に低下しました。そのことにより、亜鉛欠乏により味覚受容体発現が影響を受けることが明らかになりました。その後、亜鉛欠乏したラットに亜鉛を投与することで、一部の味覚受容体が有意に改善しました。したがって、亜鉛を投与することで、低下した受容体の発現を改善させることが明らかとなりました。

 亜鉛欠乏による味覚受容体の発現機序は、一定のサイクルで「味細胞」が新生・分化し、亜鉛欠乏は、「味細胞」の新生・分化に影響していると推測されます。

高齢者の味覚とその障害

 味覚障害は高齢者で多く見られます。食事により得られる楽しみは、他のもので変えることは出来ません。そして、おいしく食べられるということは、全ての世代で重要なことです。なかでも高齢者は、食事がおいしく食べられることが生活の楽しみの上でも、また健康維持の上でも重要であり、味覚は、嗅覚と並び、よりおいしく食事をするための重要な要素の一つと言えるでしょう。すなわち、味覚は重要な感覚機能です。

 加齢による味覚(ショ糖、食塩、キニーネ、酸味の4つの味覚に対する)の変化の研究・報告は、数多くあります。

 加齢により味覚の感受性はゆっくり低下しますが、70歳代で有意に味覚のわかりにくさが上昇します。個人差が著明にありますが、単純に年齢だけが原因ではありません。

 高齢者の味覚障害の原因で多いのが、薬剤性や全身性疾患です。もし、味覚障害の原因が年齢のせいだけであれば、特発性味覚障害が高齢者で多くなければならないはずです。しかし、特発性はむしろ若い世代に多い傾向にあります。このことは、単純な加齢による味覚機能低下の症例は多くない結果と言えるでしょう。

 高齢者の味覚障害は、加齢による味覚機能の生理的低下に加えて、全身疾患、嗅覚機能、唾液分泌機能、歯牙・口腔病変、食欲(肉体的因子)、孤食という食事環境の問題(社会的因子)など、いくつかの因子が影響します。

味覚障害の臨床味覚専門外来

(日本大学板橋病院の例)

診療時間

週1回 9時~13時

患者数

1日あたり計13症例(新患4例、再来新患9例)

 全例、まず耳鼻咽喉科一般外来を受診し、必要があれば規定の検査を行って味覚専門外来を予約します。血液検査、味覚・嗅覚検査は臨床検査技師が、ガムテストは看護師が、初診時に一般外来で行います。

味覚障害の診断の進め方

 初診の段階で、問診や視診、血液検査・尿検査、唾液分泌検査(ガムテスト)・嗅覚検査を行い、味覚専門外来に来ます。またここで、問診や視診、前回検査の評価を行い、電気味覚検査や濾紙ディスク検査の味覚検査を行います。さらに必要があれば、心理学的検査(SDS)、CTやMRIなどの画像検査、ビデオマクロスコピー、全口腔法味覚検査が行われ、診断や治療になります。

 味覚検査である電気味覚検査は、舌が味を感じるための化学物質の代わりに電流を流して刺激を与え、どれくらいの強さの刺激で味を感じるかを測定します(図3)。濾紙ディスク検査は、甘味、苦味、酸味、塩味の4種類の味が付いている濾紙を、舌の測定部位に置き、数秒後に取り除き、「甘い、塩辛い、苦い、酸っぱい、無味(まったく味がしない)、何かわからないが味がする」の中から、回答してもらうという検査です。

(図3)
(図3)

味覚障害の治療

(亜鉛内服治療を中心に)

 味覚障害に対する亜鉛治療の契機となったのが、1967年に味覚障害に銅が有効であることが報告され、1970年に同様の2価のイオン金属であるニッケルや亜鉛も、銅と同様に金属キレートによると思われる薬剤性味覚障害に有効であることが報告されました。それ以来、亜鉛欠乏が関与すると思われる味覚障害に亜鉛による治療が有効とされています。

 今までは、「硫酸亜鉛」という薬剤が使われておりましたが、現在では、「ポラプレシンク」による治療がメインで行われるようになりました。商品名はプロマック、白色無臭の顆粒あるいは錠剤で、本来は、消化性胃潰瘍として使用されています。2003年に日本口腔・咽頭科学会で、亜鉛剤の効果に関して調査した結果、「硫酸亜鉛」は82%、「ポラプレシンク」が78%有効であるという結果が得られました。両亜鉛剤ともほとんど差がなく、高い数値で味覚障害に対する有効性について、耳鼻咽喉科医は感じているということです。

 実際の有効性については、薬剤性・特発性・亜鉛欠乏性・全身性疾患の亜鉛が関与している疾患の場合、約7割で効果があるという報告があります。また、年齢別調査においても有効率の差は認められませんでした。

 治療効果に影響する因子としてあげられるのが、発症してから受診するまでの期間があります。発症してから早期の治療開始まで三ヶ月以内の場合85.4%、1年を超えた場合は、45%と有効性は低くなります。如何に、早期治療開始が大切であるということです。次に、服用期間ですが、三ヶ月間服用を続けた場合の改善例は53%ですので、三ヶ月は服用を続けた方が良い結果と言えます。逆にいえば1~2週間服用しても効果は出ないということですので、効果がないからといって、治療を中断しないでください。さらに、半年間服用した場合は、約80%の改善例が認められますが、それ以上になると改善率は低くなります。

(図4)
(図4)

 現在、味覚障害の診療について、ガイドラインを作成中です(図4)。以上、味覚障害と亜鉛の関係を中心にお話しさせていただきました。ご静聴ありがとうございました。

フロアからの質問

Q1:
味覚障害で来院される場合、家族からの指摘を受けてこられる患者さまと自覚症状でこられる患者さまを比べるとどちらが多いでしょうか?
池田先生:
家族から味付けが変わったという指摘を受けて来られる方もおりますが、多くは自覚症状を訴えて来院されるように見受けられます。
Q2:
何故、亜鉛が特異的に味覚に対してダメージを与えるのか教えてください。
池田先生
いくつかある感覚器の中で、視覚や聴覚は新生交代しない感覚器です。味覚に対して何故、亜鉛がダメージを与えるのかについてですが、一つは、上皮性の感覚器であるということが関係していると思われます。亜鉛は、皮膚や髪の毛などの上皮組織に多量に分布している金属です。そのため新陳代謝により排泄される量が多く、また亜鉛が味細胞の新生交代に影響を与え、欠乏により味覚にダメージを与えると考えられます。
Q3:
亜鉛欠乏により特異的に障害が起きる味はありますか?
池田先生:
5つの基本の味の中で、とくに影響が出る味は無い。という認識です。
座長
池田先生、ご講演ありがとうございました。
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文責:看護課 髙橋邦子