3443通信 オンライン  
みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集


◆オンディーヌの呪い
 

江澤アナウンサー(以下An.
三好院長(以下Dr.

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An.:  三好先生、ここまでいびきや睡眠時無呼吸症候群、つまりSASについて、睡眠の基本から最新の治療法までじっくり教えて頂いて、有難うございました。
 すっごく面白かったんですけど、一つだけ・・・・・・。先生はあらゆる領域で、いつも世界で初めての発見をして来てますけど、いびきやSASについても、何か世界で初めて、があるんじゃないですか?

Dr.:  江澤さんは、1を聞いて10を知る人ですから、私も江澤さんにだけは隠し事ができませんね。白状しますよ。

An.:  待ってました!

Dr.:  これまで私たちが、世界を歩いて調査を行い、ことにスギ花粉症などの分野で、世界初の仕事をして来たことは、ミミタコですよね?

An.:  はいっ! ミミタコです(笑)。

Dr.:  話は長くなりますから(笑)、先ずマクラを振って、と。

An.:  先生、マクラって、眠るときの枕ですか?

Dr.:  いえいえ、ホラ、落語なんかでしょっぱなに必ず言う、「えーっ、毎度バカバカしいお話しを」って、アレですよ。

An.:  医学にもマクラがあるんですか?

Dr.:  落語の専門用語では、「掴み(つかみ)」って表現するんですけどね。

An.:  なんだ、「ヤワラちゃん」の世界ですか。

Dr.:  そうじゃなくって。落語でも学会発表でも、最初の一言でリスナーを引き寄せる必要があって。その大切な一言を「掴み」と呼ぶんです。

An.:  FM放送と同じですね!
 私、1を聞いて10が判っちゃいました。

Dr.:  いびきや睡眠時無呼吸症候群つまりSASのお話しにも、マクラがありましてね。

An.:  どんなマクラなんですか?
 今日のお話しも、面白そう。

Dr.:  いびきはともかくSASのことを、別名「オンディーヌの呪い」って言うんですよ。

An.:  オン・・・・・・ディーヌ、ですか? それは日本語なんでしょうか。

Dr.:  ここに、私の書いたお話しがありますので、江澤さんの美しい声で読んで頂きましょう。江澤朗読鑑賞会です(笑)。

An.:  覚悟を決めて読みます。
 "これは古くからドイツに伝わる、哀しくも恐ろしいお話しです。
 美しい水の妖精オンディーヌは、ある日河辺を通り掛かった凛凛しい人間の騎士、ハンスに見惚れました。
 いえいえ、そもそも水の中にたゆたうあやかしの、この世のものとも思えぬ美しさに魂を吸い取られたのは、騎士の中の騎士と唄われたハンスだったのかも知れません。
 若く雄々しいハンスと魅力に満ちた妖精オンディーヌは、身も心もそしてお互いの命をも、この叶わぬ恋に捧げることとなりました。
 けれども、もともと実現するはずのない人間と魔性の者の恋愛です。明日の見えない盲目の恋にいつしか絶望したハンスは、年老いた両親の決めた、いいなづけとの結婚を決意します。ハンスはオンディーヌを裏切ったのではなく、騎士の旧い家系を守ろうと心を鬼にして水辺を後にしたのかも知れません。
 世界中の誰よりも麗しいオンディーヌを愛しておりながら、騎士としての道を選択したハンスの苦渋。それはハンスを愛することがすべてだったオンディーヌには、伝わりません。
 オンディーヌは怒りの余り、ハンスに向かって恐ろしい呪いの言葉を投げかけます。
 オンディーヌの呪いを受けたハンスですが、奇妙なことに日中は呪いのかけらも感じません。半分気が抜けたように思いながらも、しかし日が暮れ、闇が迫る頃、ハンスはなにかおかしいことに気付きました。
 婚礼の式典の興奮の、まだ覚めやらぬ新婦老いた両親と共に笑いさざめいていたハンスは、さすがに疲れを感じてうたた寝をしようとしました。するとどうしたことでしょう、ハンスが寝入るとそれまで平静に繰り返していた呼吸が、ピタリと止まってしまいます。 目覚めている間は意識しているせいか、努力して息をつくこともできたのに。
 一瞬、息苦しさと死の予感に冷汗を浮かべて目覚めたハンスの顔を、うら若い新婦が心配そうにのぞきます。
 「ハンス、どうしたの? 」
 大丈夫だよ、そう新婦に笑いかけようとしたハンスは、新婦の衣が水に濡れていることに気付きました。
 次の瞬間ハンスは、恐怖の余り絶望の悲鳴を挙げました。
 隣に優しく添い寝する、親の決めた、いいなづけの貌(かんばせ)は、ハンスが遠く河の中に捨てて来たオンディーヌの、妖しいまでの笑顔だったのです。
 ハンスは花嫁を突き飛ばすと、城のいちばん奥のだれもいない部屋に閉じこもり、夢中で内側から鍵をかけました。
 ここならば大丈夫。一瞬気を許したハンスを、今度はのしかかるような重い眠気が襲います。
 眠っちゃいけない。だめだ呼吸が止まって死んでしまう。そうだ、これがオンディーヌの呪いだったのだ。意識ある限り努力すれば息をつくことができる。だけど眠って意識が途切れたら・・・・・・。ハンスはそのとき呪いのために、呼吸の途切れたまま死んで行く自分の姿が目に浮かぶように思いました。
 助けてくれ、死にたくない。だれか、助けてくれ。そう思いながらハンスは、自分の目蓋が意志に逆らって自然に閉じて行く気配を感じていました。それとともになんだか、自分が息をすることまで忘れてしまったような気がしました。
 もうだめだ、おしまいなんだ。そう思った次の瞬間ハンスは、この世のものではないオンディーヌの笑顔に、自分がすっかり包まれていることに気付きました。
 ハンスは、すでに喘ぐことすらできないその口で、呟きました。
 「オンディーヌ、世界一愛しいひと」と。"
 三好先生、これがSASと関係あるんですか

Dr.:  ええ、SASの中でも「閉塞性」ではなく、「中枢性」と呼ばれるタイプでは、起きている間は意識して呼吸することができるんですけど。

An.:  眠ると、息が止まるんですね?
 わたし、次回のお話しが楽しみで、眠れません。眠ったら、息が止まるかと・・・・・・(笑)。
 本日も、お話し、有難うございました。

◆高地での無呼吸

An.:  三好先生、前回は睡眠時無呼吸症候群つまりSASには、気道が狭くなって発生する「閉塞性」無呼吸と、オンディーヌの呪いが原因で起こる「中枢性」無呼吸の、2つのタイプがあるというお話しを伺いました(笑)。

Dr.:  呪いが原因で、中枢性無呼吸になるんじゃあないんですけどね。目覚めて意識して呼吸している間は普通に息ができるんですけど、眠っちゃうと呼吸が停止してしまうタイプの無呼吸のことを、そう言うんです。

An.:  でも先生、現実にそんなお伽話(おとぎばなし)みたいなことが、起こり得るものでしょうか。

Dr.:  江澤さん、これまでも何回か私たちがチベットまで行って、いろいろ調査をしていることはお話ししました。

An.:  知ってます、知ってます。

Dr.:  そのチベットでの経験なんですけれど、標高3,000メートル以上の高地では、空気が薄くなります。

An.:  空気、薄そうですよね。

Dr.:  気圧は、ヘクトパスカルという単位で表示するんですけど、私たちの今いる仙台市で気圧はおよそ1013ヘクトパスカル位あるんです。

An.:  チベットのような高地では、それが薄くなるんですね?

Dr.:  私たちの計測データでは、標高3,650メートルのラサ市では、気圧が657ヘクトパスカルでした。

An.:  と言うことは、仙台市の3分の2の気圧ですね。先生、酸素も同じように3分の2になるんじゃないでしょうか。

Dr.:  その通りです。だから呼吸がすごく苦しくなるんです。唇や爪は紫色になりますし。

An.:  結構あえぐみたいな、苦しい呼吸になるかも知れませんね。

Dr.:  そして、私たちの体験した標高5,190メートルの地点では、気圧が542sヘクトパスカルになります。

An.:  それじゃ、仙台市の半分くらいしか、酸素が無い、みたいな感じですね。

Dr.:  そうするとね、昼間起きている間は一生懸命努力して呼吸するもんですから、なんとか苦しいながらも息をしているんです。
 それでも高山病にはなりますけれども。

An.:  先生、高山病って名前は聞きますけれども、つまりどんな状態なんですか?

Dr.:  一言で言うならば、酸素が足りないために低酸素血症すなわち慢性の酸欠状態になってしまうんです。

An.:  慢性の金欠状態なら、体験ありますけど(笑)。

Dr.:  金欠もしんどいですけど、酸欠は全身に堪(こた)えますからねぇ。

An.:  例えばボーッとしちゃってフラフラするとか。

Dr.:  息切れ、動悸、頭痛、吐き気がして、とても普通の生活ができません。
 酸素が無いんですから、すべてゆっくりした動作で動くしかありません。ひどい人になると、チベットに到着したその日から、ゲーゲー吐いちゃってベッドに倒れこんだっきり。
 ラサ市滞在中の3日間はずっと、ホテルの部屋のカベを睨んで過ごした、なんて体験もザラです。

An.:  それらのひどい症状は、すべて酸欠のためなんですね?

Dr.:  本当は、人間の体が早くその酸欠に慣れてくれて、少ない酸素を十分に活用してくれるようになると、つまり高地順応してくれると良いんですけど。

An.:  なかなか、そうは行かないんですね。

Dr.:  応急処置として、酸素を吸わせたり、点滴をしたりするんですが、余りにひどい症状の場合は、すぐさま飛行機でラサ市からもっと低い土地へ移動させてしまうことだってあるんです。

An.:  低い土地ですね?

Dr.:  大抵、ラサ市へ到着するには、成都市からフライトするものですから、その成都市へ送り返されるんです。

An.:  成都市って、諸葛孔明で有名な、三国志の舞台ですよね。標高はどれくらいなんでしょう。

Dr.:  標高500メートルですから、高山病とは無縁ですよ。
 その標高までおろしてもらえば、さしもの高山病も良くなるんですけどね。

An.:  せっかくチベットまで行って、送り返されるんじゃ、かわいそうですね。

Dr.:  それくらい、命に関わるんですよ。

An.:  そういう酸欠状態では、呼吸がヘンになるんですね?

Dr.:  高山病は、昼間の症状もキツイんですけど、夜間は呼吸がみだれて睡眠障害が起こります。

An.:  どうして、呼吸がおかしくなるんでしょうか?

Dr.:  人間は実は、血液中の二酸化炭素濃度を脳で感じて呼吸しています。

An.:  酸素濃度じゃないんですね。

Dr.:  高地で空気が薄くなるということは、酸素濃度が低下するだけではなく、二酸化炭素濃度も低くなります。

An.:  そうか。呼吸しようとする脳への刺激が少なくなるんですね!

Dr.:  そうなんです。チベットの夜は、二酸化炭素濃度が低いために、昼間と違い人間は自然な呼吸ができません。
 昼間は努力して呼吸しているけれども、暗くなると・・・・・・。

An.:  判りました、三好先生。
 オンディーヌの呪いのハンスみたいに、眠ると呼吸が止まっちゃうんですね!

Dr.:  それに対してどうするか、次回のお楽しみです。

◆高地での無呼吸(2)

An.:  三好先生これまで、いびきそして睡眠時無呼吸症候群つまりSASについて、お話しを伺って来ました。
 いびきはひどくなるとSASになり、病気扱いとされること、それに対しては手術だけじゃなくって、さまざまな治療法の存在すること、も教えて頂きました。
 けれどもこれらSASは、閉塞性すなわち肥満などで気道が狭くなって、スムースな呼吸がしづらくなって発生するタイプについて、主な話題だったと思います。

Dr.:  そうですね。一般的に多いのは、気道が詰まっていて生じる、閉塞性睡眠時無呼吸症候群です。

An.:  でも、ごく稀に中枢性と呼ばれるタイプのSASがある、と聞きました。
 でこの中枢性睡眠時無呼吸症候群では、まるで伝説のオンディーヌの呪いみたいに、目覚めて意識のあるうちは、努力して呼吸することができるんですが、眠っちゃって意識が無くなると努力呼吸が不可能ですから、呼吸も止まっちゃう。つまり、オンディーヌ伝説の登場人物、ハンスのようになってしまうことがあるんですね。
 それで先生、現実にこんな呪い伝説みたいなことが、起こりえるんですってね?
 なんか、何遍聞いても、江澤には信じがたいような気がします。

Dr.:  ところがですね、仙台市のような平地ではこれは信じがたいお話しでしょうけれど。
 私たちの毎年調査に赴いている、チベットのような高地では、日常的に起きていることなんです。

An.:  チベットで、ですか!!

Dr.:  これまでにも少しお話しして来ましたように、チベットのような高地では気圧が低いんです。

An.:  SASじゃなくっとも、酸欠状態になるんですよね。

Dr.:  低酸素の状態が長く続くと、いわゆる高山病になって、全身状態が悪化します。
 しかしこれは、高地順応がうまく行けば、解決します。
 ただ、これはあんまり知られてないことなんですけど、高地で空気が薄くなるということは、実は酸素だけが欠乏するわけではありません。

An.:  気圧低下イコール酸欠ではない、と。

Dr.:  空気を構成している、あらゆる成分が、少なくなります。

An.:  あらゆる成分って、例えば?

Dr.:  無呼吸との関係で重要なのは、二酸化炭素なんです。
江澤さん人間が呼吸するのは、酸素が足りなくなるためでしょうか、それとも二酸化炭素が体内で増えるため、だったでしょうか?

An.:  思い出しました、三好先生。
 人間は脳で、血液中の二酸化炭素の増加を感じ取って、それで呼吸中枢が刺激されるんでしたね!
 血中の酸素濃度の低下だけでは、人間は呼吸の必要を感じないんですね。

Dr.:  1を聞いて10を知る江澤さん。
 チベットのような高地で、気圧が低くなると酸欠状態になります。
 昼間の目覚めている時間は、息が苦しいから一生懸命努力呼吸をします。
 この場合、酸素濃度と二酸化炭素濃度は、いったいどうなるでしょうか?

An.:  ええっと、無理やり呼吸をするから、酸素濃度は増えますよね。
 二酸化炭素濃度は・・・・・・、もしかすると下がっちゃうんじゃないかしら。

Dr.:  その通りです、江澤さん。
 この昼間の努力呼吸のときには、脳は実は酸素を吸入する必要性を、まったく感じていないんです。ところが日が暮れて、チベットに闇がせまると・・・・・・。
 江澤さん、チベットの底知れぬ闇の中で、うっかり寝入ってしまったら、どんな恐ろしいことが起きるでしょう。

An.:  先生、こわーいっ(笑)。

Dr.:  高地ではもともと、酸素濃度も二酸化炭素濃度も、低いものです。
 昼間は息苦しいから、努力呼吸をしますが、人間の脳そのものは、まったく呼吸する必要性を忘れています。

An.:  脳内の、二酸化炭素濃度が低いからでしたよね?

Dr.:  高地における人間の呼吸は、まさにオンディーヌの呪いにかかったハンス(笑)みたいなもんで。

An.:  寝入ると、呼吸することを忘れるんですかぁ(笑)。
 江澤は、やっぱり恐いです。

Dr.:  これは実際に、私たちがチベット鉄道に乗車して採取したデータなんですけど。

An.:  チベット鉄道って、確かすごく高いところを走るんでしたよね?

Dr.:  私たちが乗車したのは、シーニン市というダライ・ラマ14世の生まれたところで、ここの標高が2,280メートルなんです。
 そこからラサ市まで、25時間かけて標高5,000メートル以上の平原を、ひたすら走るんです。
 鉄道建築の際には、永久凍土つまり一年中氷に覆われた地面にレールを引いたり。そんな厳しい条件で工事が行なわれたんですが。いずれにしても、標高5,000メートルを一夜駆け抜ける、と思ってください。

An.:  先生、それは苦しくないんですか?

Dr.:  この列車には別名「天空列車」なんていう、洒落た名前が付いていまして・・・・・・。それこそパラダイスにでも連れて行かれるんじゃないかって(笑)。

An.:  それくらい、楽しかった。

Dr.:  それくらい、苦しかったんです(笑)。

An.:  息苦しいんですね?

Dr.:  前から話題になっている血中酸素濃度が、夜間の睡眠中には38.0%にまで低下しました。

An.:  その数値は確か、90%以下になると、危篤状態を示すんでしたよね。

Dr.:  列車に積み込まれた私たち危篤状態の人間が、どうやって天国から生還したか。

An.:  お話し、楽しみにしています。

◆天空列車

An.:  三好先生前回は、チベット鉄道に乗車して、標高5,000メートル以上の平原で、丸一夜過ごすと、すごい低酸素状態になるというお話しでしたよね。
 血液内の酸素濃度が、仙台市のような平地ならば100%近い濃度で吸うことができていて、それより低下すると人間は危ないんでしたよね。

Dr.:  血中酸素飽和濃度、これをSpO2と表現するんですけどね。
 平地ならば、これが90%以下を示したら危篤状態扱いされるんです。

An.:  お話しをうかがったら、夜間の睡眠中には38.0%にまで低下したとか。
 三好先生は、それでも生きていたんですかぁ(笑)?

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Dr.:  ヒトをゾンビみたいに(笑)、言わないで下さいよ。
 これでも私たちは、尊い(笑)医学研究のモデルを務めているつもりなんですから!!

An.:  そんなモデルだったら、江澤もやってみたいような気がします。
 先生、もっといろんなお話しを聞かせてください。

Dr.:  江澤さんにねだられると、私はとても弱くって・・・・・・。
 それじゃ、お話しします。

An.:  待ってました!

Dr.:  チベットという秘境に入るためには、これまでバスで何日間もかけてゆっくり行くか、飛行機で行っちゃうか、2つに1つしか無かったんです。
 そしてチベットの中は、どんなに広大でもバスに乗るか歩くしか無いわけなんです。

An.:  歩くんですか?

Dr.:  歩く方法は独特の匍匐前進をするんですけど。

An.:  這って歩くんでしょうか。

Dr.:  「セブン・イヤーズ・イン・チベット」って映画を見ると、出て来ます。
 五体投地って呼ばれるんですけれども、全身で先ず前方に向かって投げるようにバタッと倒れるんです。手を前に伸ばした状態で。

An.:  歩くんじゃなくって、倒れるんですか!?

Dr.:  それからゆっくり上体を起こし、手を合わせて合掌し、全身で起き上がるんです。
 それから、もう1回バタッと前に倒れて、上体を起こして合掌して全身を起こして・・・・・・。

An.:  尺取虫(しゃくとりむし)みたいに少しずつ、前へ進むんでしょうか?

Dr.:  そのスタイルで何万回も匍匐前進して、自分の故郷からラサ市の大昭寺、現地の用語で「ジョカン」と呼ばれる、チベット仏教最高の聖地を目指すんです。

An.:  ラサ市へ到着したら、どうするんですか?

Dr.:  ジョカンの周りに、八廓街という名前の商店街がありますが、そこを右回りに何回も何回もお経を唱えながら、五体投地で回るんです。

An.:  それじゃあ、一生の大部分の時間を懸けて、そうやって巡礼するんですね。
 巡礼すると、やっぱり仏様になれるのかしら。

Dr.:  チベット仏教は、弥勒菩薩を進行信仰する来世でより良い人生を送れるように願う信仰ですから。
 ほら「セブン・イヤーズ・イン・チベット」でも、来世を願ってお経を唱えるシーンがあったでしょう。

An.:  弥勒菩薩って、はるか遠い未来に現われる仏様でしたっけ?

Dr.:  チベット仏教では、五十六億七千万年後に現われて、衆生(しゅじょう)を救う役割を果たすことになっていて。
だから、チベットにある弥勒菩薩像はみんな、中腰の姿勢の仏像なんです。

An.:  中腰ってことは・・・・・・。

Dr.:  スタンバイ状態にあるってことで。つまりいまからすぐにでも、迷える民を救う準備はできているってことでしょう。

An.:  それで、五十六億七千万年後に現われるんですね?
 その頃、江澤は生きているかしら。

Dr.:  江澤さんも五体投地を続けていれば、五十六億七千万年なんて、アッという間ですよ。江澤さんも、未来の衆生を救って上げてくださいな。

An.:  江澤は医学情報で、役に立ちたいと思ってます。
 尊い(笑)医学研究のモデルとして。

Dr.:  それでネ江澤さん、そのチベット鉄道に私たちは、シーニンという場所から乗車したんですけどね。

An.:  ダライ・ラマ14世の生まれたところでしたよね?

Dr.:  そこから列車は、西へ向かって青海湖と呼ばれる大きな澄んだ湖の脇を抜けて、ゴルムドという都市へ到着するんです。
 ここまでは、せいぜい3,000メートル級の山脈を越えて、ゴルムドから本格的な高地へ行くんですけど。
 すでにここまで一晩かけて、列車は走るんですが、この一夜の間に中枢性無呼吸が発生しているんです。

An.:  それじゃ、そこから先は、もっと大変!

Dr.:  でもチベット鉄道のダイヤは、それからはお昼の時間帯ですから。
 その意味では体への負担は、少なくて済みます。
 ただ、チベット高原の平らな、むちゃくちゃ広大な高原を、ひたすら走るんです。

An.:  25時間も、列車に乗るんですものね。

Dr.:  そこには、ココシリ自然保護区といって、世界で3番目に広い平原があり、そこを6時間もたいらな荒地を見て過ごします。

An.:  新幹線だったら、仙台市から大阪市を越えて、もっと遠くへ行けますね。

Dr.:  うたい文句としては、チベット鉄道は気圧調節がなされていて、十分酸素いや空気はあるはずなんですが。

An.:  あるはずのものが、無い? そんな状況で、呼吸はどうなるんでしょう。続く、です。


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  索引:げんき倶楽部杜人

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No.202
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