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みみ、はな、のどに関する病名、症状などの用語集


◆ピックウィック症候群
 

江澤アナウンサー(以下An.
三好先生、今回は肥満のいびきやSASに及ぼす影響について、お話し頂けるんですよね?
三好院長(以下Dr.) 
イメージ的にも、いびきってなんだか、すごく太った人に多いような、感じがします。

An.:  先生のおっしゃる、いわゆる「豪傑」タイプでしょうか。

Dr.:  いびきやSASは気道、つまり空気の通り道にひっかかる部分があると、まさつ音が発生するのが、ことの始まりです。
そして前回までお話を進めて来たように、鼻やのどの柔らかい部分、それはいわゆる「のどちんこ」と呼ばれる口蓋垂や、扁桃そして舌根部が問題なんですけれど。こうした気道は、肥満の状態ではその内側にも、体の表面同様脂肪が付着します。江澤さん、太った人って、狭い道を通り抜けにくいですよね?

An.:  (笑)つっかかっちゃったりして・・・・・・。

Dr.:  それと似たようなことが、気道内部にくっついた脂肪でも起こります。

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An.:  気道の中を通過する空気が、引っ掛かっちゃう(笑)?

Dr.:  脂肪が内側にくっついた分だけ、気道は狭くなります。そうすると、空気の通り道の抵抗が増加して・・・・・。

An.:  まさつ音、つまりいびきが発生するんですね!

Dr.:  そしてその程度がひどくなると・・・・・・。

An.:  SASになっちゃうんですね。

Dr.:  いびきやSASが病気として知られる、はるか昔から、すごく太った人ではしょっちゅう居眠りすることがある、それは有名なお話しだったんです。

An.:  その昼間の居眠りは、ホントはSASによる夜間の睡眠不足が、原因だったんでしょうか?

Dr.:  江澤さん、結論を先に喋っちゃ、ダメですよ。当たってますけど(笑)。
すごく太った人の昼間の居眠りを、チャールズ・ディケンズの小説の登場人物にちなんで、「ピックウィック症候群」って、言うんですけどね。

An.:  チャールズ・ディケンズって、あの「クリスマス・キャロル」で有名な?

Dr.:  その通りです、江澤さん。
手元の医学書に、ピックウィック症候群の症状について、書いてありました。
江澤さん、ここ、ちょっと読んでみてください。

An.:  ここですね、ええっと。
「ピックウィック症候群・・・・・・。
典型例では、昼間の過度の眠気が主訴である。運転中に居眠りをして、交通事故を起こしたり、重症例では毎日絶え間ない居眠りに悩まされる。また失神することや、見当識の喪失、健忘をきたす。」
先生、見当識の喪失って、何ですか?

Dr.:  「ここはどこ? 私はだれ?」ってやつですよ(笑)。

An.:  なーるほど!
続けます。
「重症化した場合には、次第に注意力、判断力の低下、動作の緩慢化がみられる。また、のんき、お人好し、思考は大雑把で、物事を緻密に考えるのが苦手であるなどの性格傾向をもつことが、ピックウィック症候群の特徴である。これらの性格特徴は、この症候群が絶え間のない眠気に悩まされていることを反映しているものと、考えられる。」
へーっ。SASって、人間の性格まで、変わるんですね。

Dr.:  こうしたお話は、決して誇張ではなくて、当院でも、ときに実例を経験します。
当院を約10年前に受診した、当時62歳の男性は・・・・・・、実は私はこの方を昔から知っていて、10年ぶりでお会いしたんですけど。

An.:  その方が、ピックウィック症候群?

Dr.:  昔のその方の精力的なイメージとまるで違っていて、すごく太っていたんですけど。
受診時なんと、まっすぐ歩けないんです。

An.:  ええーっ!

Dr.:  目もうつろで、ボーッとしていて、半分意識のないような感じで、私にあいさつするんです。目も半分しか、開けていられないみたいで。

An.:  ホントですか!?

Dr.:  付き添っていたその方の奥さんが、必死で当院まで連れてきてくれたんですけど。奥さんが医者に行こうって言っても、他の医者じゃイヤだって。当院ならば行く、ということになって、来院されたんです。

An.:  そのとき先生は、どのように?

Dr.:  この方はまさに、ピックウィックそのものの、つまりSASだとすぐに診断がつきました。
だってお話しを聞いたら、1年前に、居眠り運転で50キロの時速のまま、ガードレールに激突したって、そう言うんですよ!!

An.:  まぁ、危ない。

Dr.:  一晩睡眠中の記録を録ったら、約5時間の睡眠中、閉塞性つまり体脂肪のために気道が詰まっちゃって、無呼吸となる回数が330回。
いちばん長い無呼吸は、なんと105秒。江澤さん、たった今、1分45秒間、息を止めてみろって言われたら、止められます?

An.:  江澤は、死んでしまいます。

Dr.:  おまけに睡眠中の脳波は、すごく浅い睡眠波形で。つまり見かけは寝ていても、脳はまるで眠っていなかったんです。

An.:  だから、昼間はすごい眠気で意識も途切れがちになるんですね。チャールズ・ディケンズでしたっけ? まさに、事実は小説よりも奇なり、です。

Dr.:  この方は、当院でSASの治療を受け、今ではこの方の若い頃同様、健康な生活を楽しんでおられますよ。

An.:  すっごく、参考になりました。次回も、おもしろーいお話し、楽しみです。

◆いびきで性格の変化

An.:  三好先生、前回は肥満でいびきやSASがひどくなると、昔ピックウィック症候群と呼ばれたことがあったように、昼間の眠気から日常の行動や性格にまで、影響がある。そんなお話を伺いました。
本日は、どんなお話しが待ってるんでしょうか。
楽しみです。

Dr.:  前回は、いびきやSASから、昼間の眠気が強く、事故を起こしたりするだけでなく、考えたり行動したりするときに、緩慢になってしまう。そんなお話しをしました。
けれどもこの、いびきやSASによる性格変化は、それだけには留まりません。
眠気のため、昼間からブラブラしていて、仕事に差し支えが出ますし、家庭生活や学業成績の低下、そして結婚生活も満足にいかなくなります。

An.:  昼間っから、眠ってばかり、じゃあねぇ。

Dr.:  こうした傾向があるために、いびきやSASの人はときどき「なまけもの」とか、「三年寝太郎」なんて、呼ばれますし(笑)。ひどいときには、精神疾患を疑われたりすることさえ、あります。

An.:  それじゃ、困っちゃいますよね。

Dr.:  そこまで行かなくとも、うつっぽくなったり、いつも不安だったり、イラだち易くって怒りっぽくなったりします。

An.:  そんなこともあるんですね。ちっとも知らなかった。

Dr.:  これがご本人だけならまだしも、一緒に生活している家族にまで、精神的な影響の及ぶことがあります。

An.:  家族まで、巻き込まれっちゃうんですね。

Dr.:  10年ほど前に当院を受診された、56歳の男性なんですけどね。睡眠中の検査データからご説明しますと、6時間半の睡眠時間中無呼吸が240回。いちばん長い無呼吸は73秒ですから、1分13秒ですね。
前回お話しした方の1分45秒ほどではありませんが、余りお薦めしたい体験ではありません。

An.:  1分以上じゃあね(笑)。

Dr.:  この方の、奥様から聞かせて頂いたエピソードです。
江澤さんの、美しい声で(笑)、読み上げてください。

An.:  エヘン! それでは、読ませて頂きます。
主人のいびきにつきましては、実は主人と結婚する前から、相当ひどいよとは、聞かされていました。ですから、それなりの覚悟はしていたつもりですけれど。結婚当初から、たしかにいびきは大きくって。1分間くらい止まっちゃうことは、ありました。でもそれが齢とともにひどくなって来て。主人のいびきで私は眠れませんし、寝ている間付きっきりで、息の止まるたびにつついて起こす毎日でした。主人は、目の覚めた後も頭痛を訴えていましたし、昼間はしょっちゅう居眠りをするんです。聞くと、仕事中でも会議のときは居眠りをしているし・・・・・・。病院の待合室などでも、座りさえすれば眠ってしまうものですから。主人の外出のときは、いつも付き添って、主人が居眠りするたびに、起こすようにしていました。交通事故はありませんでしたが、安心して車の運転もできませんし。」

Dr.:  実際、運転中に余り眠くなって、奥様に運転を替わってもらったこともある、と聞いてます。

An.:  危ないですよねー。

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続けます。
「いつもイライラしている感じで、私に当たり散らすのはいつものことでしたが、自宅に遊びに来た息子の友人にまで、怒鳴ってしまうこともありました。主人はいつでもボーッとしている様子ですし、夜は夜で主人の息がいつ止まるかと不安でした。私までも、すっかり鬱っぽくなってしまって・・・・・・、寝込むほどでした。地元の耳鼻科を何件か回りましたが、納得の行く説明が受けられないんです。そのうちに、私の友人の旦那さんで、寝ている間に亡くなった方もいらして。不安で不安で、こちらを紹介してもらったんです。」
先生、ホントご本人だけじゃなくって、家族の方まで、精神的に巻き込まれちゃってますよね。

Dr.:  ところがこの方も、ちゃんと適切な診断と治療を受けると、精神的にもすごく良くなるんです。

An.:  治療後の、奥様のコメントです。
「治療を受けるようになって、朝の頭痛が無くなり、すっきり起きられるようになりました。前はイライライライラしていて、しょっちゅう怒鳴り付けるんです。それが治療を始めて、全然怒らなくなったんです。ホントです。血圧も落ち着いて、心臓も少し要注意だったのに、当院での治療開始後悪化しなくなって。循環器内科の先生も、びっくりしていました。」
先生、ご本人の治療効果があがると、奥様まで明るくなられたみたいですね。

Dr.:  ご本人も、無呼吸の治療機がうまく使えないときは、今でも眠れないし頭痛もひどくなる。胸も苦しくなって、すっきりしないけれど、治療機を使って熟睡できると、すっきり目覚めて体調が良い、と感想を述べておられました。

An.:  先生、今回も興味深いお話しを、どうも有難うございました。
いびきやSASで、精神的な影響がこんなに大きいことや、それがご本人だけじゃなくって、同居する家族の方にまで波及するんだってことが、良く判りました。でも先生、いびきやSASが精神的にまで影響するってことは、脳にも所見が出ているってことでしょうか?

Dr.:  実は、いびきや無呼吸をちゃんと観察するためには、一晩中脳波をとって脳がきちんと休んでいるのかどうか、調べてみなくっちゃあいけないんです。
次回は睡眠そのもののお話しと、睡眠中の脳波の話題について、ご説明しましょうね。 脳波を録るとね、その人のみている夢の中身まで判っちゃったりして・・・・・・。

An.:  もしかすると脳波で、初夢の内容まで判定できるんでしょうか? 楽しみです!

◆脳波で判る初夢?

An.:  三好先生、今回はいびきやSASつまり睡眠時無呼吸症候群の、睡眠中の脳波のお話しを聞かせて頂けるそうで・・・・・・。
眠っている人の脳波を記録すると、その人の夢の中身まで判っちゃうんですって?

Dr.:  もちろん、脳波さえ記録すれば、その人の初夢だって、バッチリ判っちゃいますョ。初夢の中身が判れば、その人の1年間の運・不運だって、すべてお見通しですからね・・・・・・、と言いたいところなんですが(笑)。

An.:  三好先生は、予言者になれるんじゃあないかって、江澤は一瞬、そう思いました。

Dr.:  でもね、江澤さん。夢の中身は判明しなくっとも、脳波を記録すれば、その人が夢を見ているかみていないかは、簡単にわかっちゃうんです。

An.:  へぇー?

Dr.:  睡眠は大きく分けて、安らかな眠りであるノンレム睡眠と、夢を見ているレム睡眠とから、構成されています。

An.:  レムとノンレム、何かの暗号のような(笑)。

Dr.:  ノンレム睡眠のときには、体全体の力が抜けてダラーッとしていて、体全体と脳も休みを取っている状態なんです。

An.:  つまり、深ーい眠りに落ちているわけですよね。

Dr.:  そのノンレム睡眠のときには、夢も見ないくらい深い睡眠状態となります。

An.:  先生、夢を見る睡眠というのも、もちろんあるんですよね?

Dr.:  それが、レム睡眠と呼ばれる状態で、実はレムとは“REM”という字を書くんです。

An.:  なんですか? その“REM”って。

Dr.:  これは "RAPID EYE  MOVEMENT" の略なんですけれど、睡眠中でも目玉が目蓋の下で、キョロキョロ動き回っていることがあって。

An.:  目玉が、キョロキョロ動き回っている(笑)。

Dr.:  このレム睡眠のときには、体はぐったりしているんですけど、脳は覚醒つまり目覚めに近い状況にあります。

An.:  脳が目覚めているってことは・・・・・・、夢を見るんでしょうか?

Dr.:  実際、レム睡眠の状態にある人を呼び起こすと、その約90%に複雑な内容の鮮明な夢を見ていることが、知られています。

An.:  やっぱりー。

Dr.:  ところでノンレム睡眠とは、単にレム睡眠ではない、という意味なんですけど。

An.:  あぁ、それで、ノン・レムだったんですか(笑)。

Dr.:  ノンレム睡眠は大脳を沈静化させるための眠りで、レム睡眠は大脳を活性化するための眠りなんです。

An.:  脳は睡眠中も、ずーっと休んでいることはないんですね!

Dr.:  健康な成人では、こうした2種類の睡眠が約1時間半の単位を作り、このいくつかの単位が纏って、一夜全体の睡眠になっているんです。そして普通は、最初の2単位つまり寝入り端の約3時間の間に、すごく深いノンレム睡眠がまとめて出現します。人間の体を発達させる成長ホルモンも、この最初の2単位に分泌されますから。

An.:  それで、「寝る子は育つ」と言われるんですね!

Dr.:  それに良く知られているように、寝入り端は、叩き起こされてもなかなか目が覚めないですし。

An.:  すごく深い睡眠状態にあるんですね。

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Dr.:  その1単位、つまり3時間が過ぎると、それ以降は浅いノンレム睡眠とレム睡眠とが、組み合わさって朝まで経過します。人間の体や脳にとって、最初の1単位をしっかり取っておくことが、十分な睡眠の確保にとても重要なことなんです。

An.:  三好先生、そう言えば、ナポレオンは睡眠時間3時間で、あれだけエネルギッシュな活動をこなしたって、聞いたことがあります。

Dr.:  ナポレオンの場合には、基本となる3時間をしっかり眠って、不足分の浅い睡眠は、行軍中の合間に確保していた、とも聞きます。睡眠のコアとなる3時間をしっかり押さえていたから、あんなに英雄的な軍事行動が可能だったのかも知れません。

An.:  へーぇ、睡眠って・・・・・・、面白いものなんですねぇ。

Dr.:  大脳の休息時間であるノンレム睡眠なんですが、段階がありまして。4つの睡眠深度なんですけれど。

An.:  浅い睡眠からすごく深い睡眠まで、4種類のステップがあるってことですね?

Dr.:  いちばん深い、ステージ4の睡眠が寝入り端に出現して、それから徐々に浅いノンレム睡眠とレム睡眠とが交替で表われて、朝を迎えるんです。これを、レム・ノンレム睡眠周期と表現するんですけど。こうした周期が睡眠の基本です。

An.:  睡眠周期が完璧だと、気持ちの良い朝の目覚めが待っているんですね?

Dr.:  この睡眠周期が崩れたとき、たとえば江澤さんのテスト前の一夜漬けの場合なんかでは、昼間も眠くなっちゃいます。

An.:  そうです、そうです。

Dr.:  それを解消するのが、寝入り端の急速な深睡眠なんですよ。つまり睡眠不足は、その後の深睡眠でカバーすることができるんです。けれども、逆に言えばこれは「寝だめ」をすることはできない、という意味でもあります。

An.:  ああ・・・・・・、だから江澤はいくら寝ても、眠いんですね(笑)。

Dr.:  江澤さんの行動は、睡眠学の法則に適っている。つまりそういうことです。

An.:  三好先生、本日もとっても興味深いお話しを、有難うございました。


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